三葉虫は古生物の中で最もポピュラーな生き物です。
これまでに数百万個の化石が見つかっており、種数でも2万2000種以上の三葉虫が特定されてきました。
しかし最近、そんな数ある中でも史上最高の完璧さを誇る三葉虫の化石が見つかったようです。
英ブリストル大学(University of Bristol)らによると、この化石は火山灰に埋もれたことで全身が瞬時に保存され、体の微細構造や体内の消化管のつくりまで識別できるほど完全な状態を留めていたといいます。
まさに”カンブリア版ポンペイ”と呼ぶにふさわしい化石です。
研究の詳細は2024年6月27日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。
目次
- 三葉虫の化石は飽きるほど見つかっているけれど…
- 火山灰に飲まれたことで完璧なシルエットが残された!
三葉虫の化石は飽きるほど見つかっているけれど…
三葉虫は今日では完全に絶滅した節足動物の一大グループです。
しかしその繁栄期間は非常に長く、約5億2100万年前のカンブリア紀〜約2億5000万年前のペルム紀まで生息していました。
そのおかげか発掘されている化石の数も膨大で、古生物の中でも断トツです。
これまでに回収された数百万個の化石から延べ2万2000種以上の三葉虫が確認されています。
サイズも体長2ミリ以下の小さなものから90センチ以上におよぶ大型種まで様々です。
彼らは主に海底や浅瀬で生活して、泥の上を這いずり回ったり、潜ったりしていたと見られます。
その一方で、三葉虫の化石のほとんどは硬い外骨格でしか知られていません。
これだけ膨大に見つかっているにも関わらず、口や脚、胴体などの軟組織を留めているものはほんの一握りで、それらもかなり不完全な状態にあります。
軟組織は硬い殻や骨とは違って腐食や生物分解が早いため、なかなか化石としては残りづらいのです。
そんな中で新たに見つかった三葉虫の化石は、史上最高の完成度で保存された驚くべきものでした。
では、実際の化石を見てみましょう。
火山灰に飲まれたことで完璧なシルエットが残された!
三葉虫の化石は北アフリカのモロッコにある約5億1500万年前のカンブリア紀の地層から発見されました。
ここで見つかったのは三葉虫の体そのものではなく、三葉虫の体の痕跡を留めた印象化石です。
印象化石とは古生物の体の形状や足跡を残した化石を指します。
今回の化石は火山灰が堆積してできた岩石の中から回収されました。
研究者によると、当時モロッコの火山が噴火したことで、大量の火山灰が浅瀬に降り注ぎ、そこにいた三葉虫を一瞬にして埋め尽くしたと考えられています(下図を参照)。
人生を謳歌していた三葉虫にとっては災難でしたが、そのおかげで軟組織を含めた全身が丸ごと保存されました。
そして年月とともに堆積物の中の軟組織は分解されてしまいましたが、三葉虫の精巧な3Dシルエットが岩石中に残されたわけです。
これと同じ例としては、西暦79年に火山の噴火によって埋没した古代ローマの都市・ポンペイが最も有名でしょう。
ポンペイも町が丸ごと火砕流に飲み込まれたことで、当時の生活文化がそっくり保存されたのです。
中には今回の三葉虫と同じように、火山灰の中で亡くなった人々のシルエットが大量に見つかっています。
こちらはそのシルエットに石膏を流し込んで復元された遺体の復元像です。
3D復元して分析
そしてチームは三葉虫の体の仕組みを詳しく調べるために、X線マイクロトモグラフィー (XRμCT)を使って、印象化石から三葉虫の全体像を3D復元しました。
その結果、研究者たちも驚くほど精巧な三葉虫が復活しています。
ブリストル大の古生物学者であるハリー・バークス(Harry Berks)氏は「コンピュータ復元は骨の折れる作業でしたが、復活した三葉虫はまるで生きているようで、今にも岩から這い出てきそうでした」と評しました。
またロンドン自然史博物館のグレッグ・エッジコム(Greg Edgecombe)氏は「40年近く三葉虫を研究していますが、これほど生きた姿を見ていると感じたことはありませんでした」と述べています。
実際の復元映像がこちら。
(※ 音声はないので、そのままご覧いただけます)
ご覧の通り、硬い外骨格だけでなく、腹部に並んだ脚も生きていたときと同じ配置で精巧に残されていました。
脚の関節に沿った小さなトゲトゲや感覚毛まで保存されており、三葉虫はこれらを巧みに使って獲物を捕まえたり、引き裂いたりしたと考えられます。
さらに獲物を噛み砕く口部や、その両端についている2つのスプーン状の付属肢も確認できました。
口部がこれほど鮮明に見れたのは初めてだといいます。
それだけではありません。
火山灰が消化管をも満たしていたおかげで、三葉虫の体内の細かな構造までも復元できたのです。
また驚くべきオマケとして、三葉虫の口部に「腕足動物」という小さな生物も付着していました。
以上の結果は、三葉虫の形態や生態をこれまでにない詳細さで理解するための貴重な情報源となります。
チームは今後、浅瀬に堆積した火山灰の堆積物を調べることで同様の精巧な化石が見つかるだろうと期待しています。
三葉虫の生態が完全解明できれば、彼らが生きていた古生代の生態系や気候などもより詳しく知ることができるかもしれません。
参考文献
‘Prehistoric Pompeii’ –Trilobites killed by volcanic ash reveal features never seen before
https://www.bristol.ac.uk/news/2024/june/prehistoric-pompeii.html
Never-Before-Seen Trilobite Anatomy Preserved by Pompeii-Like Ash in Morocco
https://www.sciencealert.com/never-before-seen-trilobite-anatomy-preserved-by-pompeii-like-ash-in-morocco
元論文
Rapid volcanic ash entombment reveals the 3D anatomy of Cambrian trilobites
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl4540
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部