想像してみてください。
川にぷかぷかと浮かぶガチョウが高さ2メートルにまで巨大化した姿を。
そんなモンスター級の巨鳥がかつてオーストラリア大陸に実在しました。
「ゲニオルニス・ニュートニ(Genyornis newtoni)」という鳥です。
彼らはガチョウの絶滅した近縁種として以前から存在が知られていましたが、化石記録が不十分なせいで、どんな顔をしていたのかよくわかっていませんでした。
そんな中、豪フリンダース大学(Flinders University)は最近、本種のほぼ完全な頭蓋骨を新発見したと発表。
それにより、ありし日の顔を復元することに成功したのです。
研究の詳細は2024年6月3日付で科学雑誌『Historical Biology』に掲載されています。
目次
- 巨鳥ゲニオルニス・ニュートニはどんな鳥?
- 顔の復元に成功!水生環境にも適応していた
巨鳥ゲニオルニス・ニュートニはどんな鳥?
ゲニオルニス・ニュートニ(以下、G. ニュートニと表記)は1896年に初めて化石が発見され、学術的に記載されました。
これまでの調査により、今から約1500万年前に出現して、約4万5000年前まで存在していたと考えられています。
体高は最大2.25メートル、体重は最大230キログラムにもなる巨大な鳥でした。
では、G. ニュートニは鳥類の系統樹の中でどの辺りに位置するのでしょうか。
G. ニュートニは絶滅した飛べない鳥のグループである「ドロモルニス科(Dromornithidae)」の仲間です(下図を参照)。
ドロモルニス科の鳥たちは、約3400万年前に始まる漸新世(ぜんしんせい)〜約1万1700年前まで続く更新世にかけてオーストラリア大陸に生息していました。
本グループはかつてダチョウ目(※)に分類されていましたが、今ではキジカモ類に分類することがわかっています。
G. ニュートニはそのドロモルニス科の一種であり、系統的にはアヒルやガチョウが属するカモ目の近縁種でした。
(※ ダチョウ目の鳥といえば、かつてニュージーランドに存在した巨鳥のジャイアントモアがいます)
ドロモルニス科は現在すべての種が絶滅していますが、その中でもG. ニュートニは最後まで残った種の一つでした。
その絶滅原因はまだ定かでありませんが、最初に人類がオーストラリア大陸に入ってきたのは約6〜7万年前なので、両者が遭遇していた可能性は十分にありえます。
また人類は巨鳥モアを乱獲して絶滅に追い込んだ過去があるので、もしかしたらG. ニュートニも人間の手にかかってしまったのかもしれません。
G. ニュートニは古生物学の中でも大きな注目を集めている鳥ですが、化石記録が非常に乏しいため、正確にどんな姿や生態をしていたのかはほとんど明かされていません。
特に生前の顔や食性を知るのに重要な頭蓋骨は、1913年に見つかっているものが唯一の化石であり、しかもひどく損傷していて、ほぼ原形をとどめていませんでした。
その中で研究チームは今回、100年以上ぶりにG. ニュートニの頭蓋骨を発見することに成功したのです。
さらに驚くべきことに、新たに見つかった頭蓋骨は非常に良好な状態を留めていました。
では、それをもとに復元したありし日の顔を実際に見てみましょう。
顔の復元に成功!水生環境にも適応していた
今回の化石は2019年に、南オーストラリア州の内陸部にあるカラボナ湖(Lake Callabonna)の乾燥した湖底から発見されました。
カラボナ湖は1913年にG. ニュートニの頭蓋骨が見つかった場所であり、チームはここで発掘調査をしていたのです。
そこで見つかったのがこちらの頭蓋骨でした。
この頭蓋骨はクチバシの上下だけでなく、脳頭蓋(脳を納めていたスペース)、耳や舌の骨に至るまでを完璧に残していたのです。
研究者によると、G. ニュートニのクチバシは現代のオウムのように厚みがあって大きいものの、全体的なフォルムはカモ目に属する「カササギガン(学名:Anseranas semipalmata)」によく似ているといいます。
こちらが頭蓋骨を復元図と、各パーツを分解した図解です。
さらにチームは頭蓋骨のスキャニングを行い、3次元的に復元しました。
これにより、他の生きている鳥類の頭蓋骨との比較が可能になり、G. ニュートニの頭部にどのような筋肉や皮膚の付き方がしてたか、正確に推定することに成功しています。
そうして現代に蘇ったG. ニュートニの顔がこちらです。
確かに、顔から真っ直ぐにすぼんでいくクチバシはアヒルやガチョウなどの水鳥によく似ていますね。
加えて、頭蓋骨の構造から彼らが半水棲生活に適応していたこともわかりました。
例えば、彼らの内耳の骨は水中に潜ったときに、水が耳に流れ込まないような形になっていたのです。
またクチバシの構造も同じく、水が喉に流れ込まないよう保護する仕組みになっていました。
それからG. ニュートニのクチバシは今日のアヒルやガチョウと同じように、水中で餌を探したり、水生植物をつかんで引き抜くのが得意だったと見られます。
これまでの研究で、G. ニュートニは地上を自由に歩き回れたことが示されていますが、今回の知見から水生環境にも適応した”水陸両用の鳥”だったことが支持されました。
もしG. ニュートニが今日も生きていれば、かなりド迫力なインパクトを私たちに与えてくれたでしょう。
チームは今後、G. ニュートニが絶滅した原因について引き続き調査していく予定です。
参考文献
Giant ‘Giga-Goose’Once Thundered Across Prehistoric Australia
https://www.sciencealert.com/giant-giga-goose-once-thundered-across-prehistoric-australia
Giant skull of Australian megafauna bird reveals a prehistoric ‘giga-goose’
https://www.scimex.org/newsfeed/giant-skull-of-australian-megafauna-bird-reveals-a-prehistoric-giga-goose
元論文
Skull morphology of the enigmatic Genyornis newtoni Stirling and Zeitz, 1896 (Aves, Dromornithidae), with implications for functional morphology, ecology, and evolution in the context of Galloanserae
https://doi.org/10.1080/08912963.2024.2308212
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。