先延ばし癖がある人ほど、気を楽に持つといいかもしれません。
東京大学大学院 総合文化研究科はこのほど、自分の未来に対して「今よりストレスが増えることはない」と楽観的な人は、深刻な先延ばし癖が少ない傾向にあることを発見しました。
先のことを重く考えすぎないことが、先延ばしを改善するヒントとなりそうです。
研究の詳細は2024年5月30日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- なぜ人は「先延ばし」をしてしまうのか?
- 未来に楽観的な人ほど、先延ばし癖が深刻化しない!
なぜ人は「先延ばし」をしてしまうのか?
先延ばし(procrastination)をした経験は、誰しも一度ならずあるはずです。
しかし先延ばし癖が深刻になると、自尊心や幸福度が低下すると同時に罪悪感やストレスが増大して、不安症やうつ病につながる恐れもあります。
先延ばしに関してはこれまで多くの研究が報告されており、先延ばし癖がある人の性格特性について研究されてきました。
その中でも特に多いのは「めんどくさがり屋」と「完璧主義者」です。
めんどくさがり屋は、やらなければならないタスク(宿題や資料作りなど)に精神的な負担を強く感じてしまいます。
そうしたストレスから逃れたいがために、ついつい先延ばししてしまうのです。
一方の完璧主義者は、物事に対するこだわりが強く、1つ1つの作業を自分が納得いくまで突き詰めたいと考えます。
しかしそのせいで本題になかなか入れず、結果として先延ばししてしまうことが多くなるのです。
このように従来の研究では主に、先延ばし癖に結びつく性格特性が検討されてきました。
その一方で、先延ばしに関連すると考えられている「時間観」についてはまだ十分に理解されていません。
ここでいう「時間観」とは、過去・現在・未来を含めた自らの人生に対して、どのような考えや態度を持っているかを示す言葉です。
なぜ時間観が重要なのかというと、先延ばしとはそもそも「現在」のタスクを「未来」に先送りする行動を指すからです。
それを踏まえると、私たちが自らの過去・現在・未来をどのように捉えているかは、先延ばし癖を持ちやすいか否かに大きく関与していると考えられるのです。
そこで研究チームは今回、先延ばし癖のある人の時間観をストレスと幸福度を介して測定する試みを行いました。
そのためにチームは、先延ばし研究ではまったく新しい「時系列的ストレス観」と「時系列的幸福観」という指標を導入しています。
では、その結果を見てみましょう。
未来に楽観的な人ほど、先延ばし癖が深刻化しない!
本調査は日本の参加者296名(男性137名・女性159名・年齢20〜29歳)からデータを収集しました。
これまでの知見で、先延ばし癖は特に若い世代に集中して見られることが知られているため、今回は20代を対象にしています。
チームはまず、先延ばし傾向を測定する「日本語版Pure Procrastination Scale」を用いて、参加者の先延ばしレベルを評価。
上位25%を「深刻な先延ばし」、真ん中50%を「中度の先延ばし」、下位25%を「軽度の先延ばし」と分類しました。
深刻な先延ばしほど、先ほど述べたように「自尊心や幸福度の低下、罪悪感やストレスの増大」が起きやすいと考えられます。
この分類後「時系列的ストレス観」と「時系列的幸福観」について評価しました。
ここでは参加者に対し、自身の過去・現在・未来のさまざまな時間軸(過去10年・過去1年・過去1カ月・過去1日・今この瞬間・明日・この先1カ月・この先1年・この先10年)におけるストレスレベルと主観的幸福度を9段階で測定してもらいました。
質問例としては「過去10年間でどれくらいストレスを感じましたか?」「今この瞬間どれくらい幸せを感じていますか?」「この先1年でどれくらいストレスを感じると思いますか?」などです。
そして参加者ごとに時間観のパターンを分類したところ、「時系列的ストレス観」は次の4タイプに分けられました。
・下降型:「未来にいくにつれてストレスは減る(少なくとも過去よりは増えない)」と考えるタイプ
・上昇型:「未来にいくにつれてストレスが増える」と考えるタイプ
・V字型:「今が1番ストレスが低くて、そこから過去と未来に離れるにつれてストレスが増える」と考えるタイプ
・への字型:「過去のある1点でストレスが1番高く、そこから未来にいくにつれてストレスは減る」と考えるタイプ
参加者で最も多かったのはV字型でした。
そして、この中で特に「未来にいくにつれてストレスは減る」と感じている「下降型」グループは、深刻な先延ばし癖を持つ人の割合が大幅に低いことが明らかになったのです。
反対に「未来にいくにつれてストレスが増える」と感じている「上昇型」グループは、深刻な先延ばし癖持つ人の割合が最も高くなっていました。
他方で「時系列的幸福観」については、下降型・上昇型・V字型・平坦型(どの時間軸でも幸福度は一緒)の4つに分類されましたが、先延ばし癖との有意な関連性は認められませんでした。
以上の結果は、未来のストレスに対して楽観的に考えている人ほど、深刻な先延ばしになりにくいことを示すものです。
逆に先延ばし癖のある人は、自分の将来について悲観的な見方をしすぎているのではないでしょうか。
実際「この先にストレスフルな出来事が待ち受けている」という考え方は、めんどくさがり屋や完璧主義者の基本姿勢にもつながっていると考えられます。
多くの作業は準備や取り掛かるまでが大変とよく言われます。
そのため何か作業に取り掛かるときは、「ああ、どんどん大変になっていく」と考えず、最初は大変だけどある程度やればスムーズに進むだろうとイメージすることが大切なようです。
先延ばしが辞められない人は、「まあ、なんとかなるさ」と気楽に考える癖を付けることが解決の秘訣になるでしょう。
参考文献
楽観的になれば先延ばし癖は改善する!? ―新指標が明らかにする、「希望」の重要性―
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/20240530140000.html
元論文
Future optimism group based on the chronological stress view is less likely to be severe procrastinators
https://doi.org/10.1038/s41598-024-61277-y
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。