動物の革は、靴や鞄、財布など様々なアイテムに幅広く利用されています。
しかし近年では、消費者やファッション業界の間で、環境に優しく、動物を犠牲にしない代替品も求められています。
今回、アメリカのコロラド大学デンバー校(CU Denver)に所属するアシア・クロフォード氏ら研究チームは、キノコから革の代替品を作ることに成功しました。
このキノコの革は、実用可能なサイズに素早く成長するため、現在の商業ニーズに対応できる可能性があります。
研究の詳細は、2024年4月23日付の学術誌『Research Directions: Biotechnology Design』に掲載されました。
目次
- キノコの「菌糸体」から「動物の革の代替品」を作ることに成功
キノコの「菌糸体」から「動物の革の代替品」を作ることに成功
近年、動物の革を用いることに対して倫理的な懸念を抱く人々が増えてきました。
一方、一般的な革の代替品は、石油由来のポリマーから作られていますが、こちらは環境に優しくありません。
そのため、消費者やファッション業界は、動物を犠牲にしないだけでなく環境にも優しい革の代替品を求めてきました。
以前から注目されてきたのは、キノコを使った代替品です。
しかし、成長スピードが遅く、現在の商業ニーズに対応できるものは、ほとんどありませんでした。
そんな中で、今回、クロフォード氏ら研究チームは、素早く成長・生産できる「菌糸体を用いたキノコ革」の開発に成功しました。
菌糸体とは、菌糸の集合体であり、キノコの下に生えて水分や栄養分を吸収する根のようなものです。
例えば、私たちがよく知る「樹皮の上に出ているシイタケ」は子実体という繁殖のための構造に過ぎず、その本体は幹の中に根のように広がる菌糸なのです。
クロフォード氏ら研究チームは、この菌糸体をマット状に成長させることで、キノコ革を作っています。
今回実験に用いられたのは、健康食品として利用される霊芝(れいし。学名:Ganoderma lucidum)と、素早く成長することで知られるトキイロヒラタケ(学名:Pleurotus djamor)です。
この2つのキノコを、アルミトレイの中の菌床(キノコの菌を栽培するための培地)で21日間成長させ、マット状の素材を作ったのです。
ちなみに菌床には、液体でも固体でもなく、栄養素の吸収を助けるペースト状のものを採用することで、より短期間で分厚い菌糸体のマットを栽培できるようになりました。
そして2つのキノコの革の代替品としての適性を調べたところ、「霊芝」の方が安定した成長とより高い引張強度を示し、商業ニーズに対応できる可能性があると判断されました。
霊芝の代替革の引張強度は、従来の動物革や合成革の引張強度には及びませんが、それでも研究チームは、複数の層を重ねることで素材を強化できると考えています。
また霊芝の代替革は、熱処理やエンボス加工(版で文字や絵柄を浮き彫りにする加工)にも対応しており、革用の染料で染めることもできました。
キノコ革は素早く成長するため、現在の需要を満たすことも十分に可能だと考えられます。
環境や動物に優しい「キノコ革の鞄」が大量生産される時も、そう遠くはないかもしれません。
参考文献
From fungi to fashion: mushroom eco-leather is moving towards the mainstream
https://www.cambridge.org/universitypress/about-us/news-and-blogs/from-fungi-to-fashion-mushroom-ecoleather-is-moving-towards-the-mainstream
Mushroom Eco-Leather: The Next Step for Sustainable Fashion?
https://www.technologynetworks.com/tn/news/mushroom-eco-leather-the-next-step-for-sustainable-fashion-386925
元論文
Growing mycelium leather: a paste substrate approach with post-treatments
https://doi.org/10.1017/btd.2024.6
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部