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並行世界でタイムリープを繰り返す!?効率的な新しいシミュレーション技術


最良の世界線のみ続けることを許されます。

東京工業大学で行われた研究により、「SFの並行世界」や「タイムリープ」の概念を取り入れたシミュレーション方法を効率的に動かす方法が開発されました。

また最良の結果をまとめて分析する方法を組合わせることで、理論上計算時間を1000億分の1に短縮することが可能になり、複雑な分子の挙動を現実的な時間でシミュレートすることが可能になります。

開発されたプログラムは現在誰でも使えるよう公開されています。。

研究結果の詳細は2024年4月5日付けで科学雑誌『The Journal of Physical Chemistry B』に掲載されています。

目次

  • 複数の並行世界をシミュレートする

複数の並行世界をシミュレートする

MDシミュレーション(分子動力学シミュレーション)とは、コンピュータを使ってタンパク質やDNAのような生体の基本成分や水分、塩分などの化学物質がどのように動き、エネルギーがどのように変わるかを見る技術です。

この技術によって、私たちの体の中で分子がどのように動いているのかを詳しく知ることができます。

これは新しい薬を作る際に非常に重要で、例えば、ある病気を治すための薬を開発するとき、このシミュレーションを使って、その薬が体の中でどのように作用するかを予め見ることができます。

そうすることで、より効果的で安全な薬を開発する手助けになります。

ただし、通常のMDシミュレーションでは見ることができるのはマイクロ秒(百万分の1秒)からミリ秒(千分の1秒)程度の短い瞬間です。

なぜなら分子動力学シミュレーションは、多数の原子や分子の動きを非常に細かい時間単位で計算するからです。

これらの分子や原子は常に動いており、それぞれが互いに力を及ぼし合います。

そのためこの複雑な相互作用をリアルタイムで計算するには膨大な計算量が必要となり、予測できる時間も短くなってしまいます。

しかし、2013年に筑波大学の原田隆平准教授らが開発したPaCS-MD法では、この時間制限を超える新しいアプローチが導入されました。

この方法は、複数のシミュレーションを同時に実行し、その中から特に成果の良い瞬間を選び出し、その瞬間に「時間を巻き戻して」少し条件を変更して再びシミュレーションを行う、というプロセスを繰り返します。

このプロセスは、まるでSF映画に登場するような「並行世界を行き来しながら最適な未来を選択する」ようなものです。

この方法は、複数のシミュレーションを同時に実行し、その中から特に成果の良い瞬間を選び出し、その瞬間に「時間を巻き戻して」少し条件を変更して再びシミュレーションを行う、というプロセスを繰り返します。
この方法は、複数のシミュレーションを同時に実行し、その中から特に成果の良い瞬間を選び出し、その瞬間に「時間を巻き戻して」少し条件を変更して再びシミュレーションを行う、というプロセスを繰り返します。 / Credit:東京工業大学

こうすることで、通常ではまれにしか観察できない現象を効率的に捕捉し、短時間で本来は長期間かかる現象を観察することが可能になります。

これにより、科学者たちは新しい薬の効果を予測するなど、以前では不可能だった研究を行うことができるようになりました。

さらに今回の研究ではPaCS-MD法で得たデータをさらに詳しく分析するために、MSM法(マルコフ状態モデル)が用いられます。

この方法は、さまざまな分子の状態間での変化の確率を計算する技術です。

再びSFで例えるなら、複数のパラレルワールド(平行世界)から得られたデータを集めて、最も望ましい結果をまとめるようなものです。

MSM法によって、特定の分子の状態がどれだけ頻繁に現れるか、その状態がどのくらいのエネルギーを持つか、そして一つの状態から別の状態に変わるまでの時間がどれくらいかが計算できます。

これにより、短いシミュレーションからでも、実際には数秒から数時間かかるような現象の発生確率や所要時間を予測することが可能です。

この技術を利用することで、科学者たちは疑似的に時間と空間を超えて、実験室で起こり得る事象を高速にシミュレートし解析することができるのです。

具体的な例として、Gタンパク質共役型受容体(多くの医薬品の標的となる分子)から化合物が離れる過程を観察しました。

現実のこの過程は数分かかりますが、PaCS-MDを使用すると、わずか3ナノ秒(10億分の3秒)でシミュレーション上で化合物を解離させることができました。

これは現実の解離時間の約1000億分の1です。

もし通常のMDシミュレーションでこの解離を観察しようとすると、理論上1000億倍もの計算時間が必要となり、現実的ではありません。

また、このシミュレーションで計算された分子の結合の強さ(標準結合自由エネルギー)は、実際の実験結果とも良く一致しました。

これにより、PaCS-MD法の有効性が証明され、実際には時間がかかるプロセスを短時間でシミュレートし観察することが可能になったのです。

PaCS-Toolkitは、Python3でプログラムされ、誰でも使用や改良が可能です。このツールキットは、GNU General Public License v3 (GPLv3) のもとで公開されており、GitHubから無料でダウンロードできます。さらに、いくつかの実行例が含まれているため、それらの例を参考にすれば、PaCS-MDシミュレーションを手軽に始めることができます。

このツールキットを利用すれば、さまざまなコンピュータ環境に簡単にインストールし、PaCS-MDの実行もスムーズに行えます。これにより、生体分子がどのように働くかを理解する基礎研究や、新しい薬剤の設計や効果の予測などの応用研究が加速されることが期待されます。

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参考文献

「並行世界でタイムリープを繰り返す」ことで効率的なシミュレーションを可能にするソフトウエアツールを開発・公開
https://www.titech.ac.jp/news/2024/069220

元論文

PaCS-Toolkit: Optimized Software Utilities for Parallel Cascade Selection Molecular Dynamics (PaCS-MD) Simulations and Subsequent Analyses
https://doi.org/10.1021/acs.jpcb.4c01271

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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