シャコは、人の指を折ったり、分厚い水槽にヒビを入れたりするほど強力なパンチを持っていることで有名です。
では、シャコ同士の喧嘩で彼らが無事なのはどうしてでしょうか。
アメリカのカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)に所属する生態学者パトリック・グリーン氏は、同種からパンチを受けたシャコが、尾のクッションを使ってボクサーのように衝撃を吸収しているのを発見しました。
研究の詳細は、2024年4月2日付の科学誌『The Journal of Experimental Biology』に掲載されました。
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- 80km/hのパンチを吸収・分散するシャコたちの防御術
80km/hのパンチを吸収・分散するシャコたちの防御術
人間のプロボクサーのハンドスピードが30~50km/hなのに対し、シャコは80km/h超えのパンチを繰り出します。
カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)の2020年の研究では、ハードパンチャーであるシャコは、「ナノ粒子をまとうことで自分の拳を守っている」ことが分かっています。
攻撃する側は、自分の体をしっかり守っているのです。
では、シャコ同士の争いにおいて、強力なパンチを受ける側のシャコたちは、どうして粉々に砕けてしまわないのでしょうか。
カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)に所属するパドリック・グリーン氏は、この点を調査するため、縄張り意識の強い2匹のシャコを殴り合わせ、その映像を通常のカメラの約1000倍にあたる毎秒3万~4万フレームで撮影しました。
その結果、シャコの驚くべき防御術が明らかになりました。
まずシャコ同士の殴り合いが始まると、攻撃を受けるシャコは、体の前に尾を持ってきて、まるで盾の様に扱います。
過去の実験では、この頑丈な尾の盾が、パンチの衝撃を69%低減できると分かっています。
しかし、今回の実験では、シャコは「尾の頑丈さ」だけに頼っているわけではないと判明しました。
なんと防御側のシャコは、パンチが当たった際に、体と尾をカールさせてまるでバネやクッションの様に衝撃を吸収していました。
さらに足や尾を海底から離して、体を水中に浮かべることで、踏ん張らずに衝撃を逃がしていることも分かりました。
これにより防御側のシャコは、パンチの衝撃をさらに20%多く吸収できていました。
つまりシャコたちは、パンチを受けて動くボクサーのような戦略を用いて、シャコパンチの衝撃を約90%も受け流していたのです。
ハードパンチャーであるシャコたちは、シャコ同士の争いにおいて、ただ頑丈なボディに頼るのではなく、衝撃を逃がす巧みなテクニックも活用していたことになります。
グリーン氏は、今後もシャコの防御について研究を続ける予定であり、世界に存在する400種類以上のシャコにおいて、尾の形状の違いがもたらす効果を調べていくつもりです。
参考文献
Watch: Mantis shrimp takes .22-caliber bullet punch using built-in shield
https://newatlas.com/biology/watch-mantis-shrimp-tail-shield/
Rolling with the punches: How mantis shrimp defend against high-speed strikes
https://news.ucsb.edu/2024/021466/rolling-punches-how-mantis-shrimp-defend-against-high-speed-strikes
元論文
Behavior and morphology combine to influence energy dissipation in mantis shrimp (Stomatopoda)
https://doi.org/10.1242/jeb.247063
Recoil protects mantis shrimp from mighty blows
https://doi.org/10.1242/jeb.247825
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部