夢は人間以外も見るのでしょうか?
生物学者は、人間以外の動物や鳥たちも夢を見ていると考えています。
では鳥たちはどんな夢を見るのでしょうか?
アルゼンチンのブエノスアイレス大学(University of Buenos Aires)に所属するガブリエル・B・マインドリン氏ら研究チームは、睡眠中の鳥の鳴き声を調査したところ、縄張り争いの声と一致することを発見しました。
どうやら鳥たちは、縄張り争いをする殺伐とした夢を見ている可能性があるようです。
研究の詳細は、2024年4月2日付の学術誌『Chaos』に掲載されました。
目次
- 「鳥たちの夢を解き明かす」取り組み
- 睡眠中の鳥の鳴管の信号から合成歌を生成!「縄張り争い」の鳴声に近いと判明
「鳥たちの夢を解き明かす」取り組み
鳥たちが「夢を見ているかもしれない」ことは、研究者たちの間で以前から知られていました。
例えば20年以上も前から研究者たちは、睡眠中の鳥の脳が「歌っている」証拠をつかんでいました。
彼らは、鳥が眠っている間でも「歌うことに特化した脳領域」の活動が続いており、昼間に起きて歌っている時に示す神経パターンに似た傾向を示すことを知っていたのです。
しかしこれまで、その神経活動のパターンを解析することはできておらず、鳥たちが実際にどんな夢を見ているのか分かっていませんでした。
今回、マインドリン氏ら研究チームは、鳥たちの夢を解析するために、鳥類の発声器管である「鳴管(めいかん)」に着目しました。
人間は歌ったり話したりするために、喉の「声帯」を用います。
一方で、鳥類は、胸のあたり(気管が肺に分岐する場所)に「鳴管」を持っており、これを用いて、さえずりや地鳴き(さえずり以外の鳴き声)を行うのです。
呼気で鳴管にある振動膜が振動することで様々な発声が行われますが、この振動膜は鳴管の周囲の筋肉によって調整されています。
そして、マインドリン氏ら研究チームは、睡眠中の鳥の脳から発せられる指令が、鳴管の筋肉にまで及んでいることを発見しました。
睡眠中の鳥の脳活動から直接、夢の内容を解き明かすことは難しくても、鳴管の筋肉がどのように動いているか、それによってどんな鳴声が出るか分かるなら、鳥たちの夢を垣間見ることができるはずです。
人間でも、脳活動だけでどんな夢を見ているか解き明かすのは難しいですが、「寝言」や「体の動き」からいくらか推察できるのと同じですね。
そのためマインドリン氏は、「私は鳥の鳴声の物理学と、筋肉の情報を歌声に変換する方法について研究してきました」と述べています。
睡眠中の鳥の鳴管の信号から合成歌を生成!「縄張り争い」の鳴声に近いと判明
睡眠中の鳥がどんな鳴き声で歌っているか再現するため、マインドリン氏ら研究チームは、以前の研究で使用され、よく理解している種「キバラオオタイランチョウ(学名:Pitangus sulphuratus)」を研究対象として選びました。
キバラオオタイランチョウは、スズメ目タイランチョウ科に分類される鳥類であり、中南米全域に広く生息します。
鳴声が極めて特徴的であり、カリブ海では、「kis-ka-dee」という3つの音に聞こえることから、そのまま「kiskadee」と名付けられています。
そして今回研究チームは、睡眠中のキバラオオタイランチョウの「鳴管の筋肉活動」を、筋電図(筋肉や神経の伝わり方を記録する検査)を用いて記録し、そのデータを用いて合成歌を生成することに成功しました。
鳴管は複雑な筋肉組織を持っているため、その活動を鳴声に翻訳するのは簡単ではなかったようですが、キバラオオタイランチョウにおいては、最近ようやく、鳴声の「物理的な仕組み」を発見できたようです。
これにより合成された歌は次の動画で示されています。
キバラオオタイランチョウが睡眠中に発している鳴声は、よく知られている「いつもの鳴声」ではなく、短い音節で構成される鳴声でした。
これは、キバラオオタイランチョウが、日中に縄張り争いをする際に発する鳴声です。
彼らは頭の羽毛を逆立てながら、この音を出して相手を威嚇するのです。
このことは、キバラオオタイランチョウが縄張り争いの夢を見ている可能性を示唆しています。
この結果を受けて、マインドリン氏は、「孤独な鳥が夢の中で縄張り争いをしているのを想像して、すごく共感しました」と述べています。
また、「私たちは、普段認識している以上に、他の種との共通点が多いのです」と続けました。
私たち人間も、誰かと口論したり喧嘩したりする夢を見るものですが、もしかしたら鳥たちも同じような夢を見ているのかもしれませんね。
マインドリン氏らチームは、今回の研究を他の種にも応用できる可能性があると考えています。
参考文献
What Do Bird Dreams Sound Like?
https://publishing.aip.org/publications/latest-content/what-do-bird-dreams-sound-like/
Birds sing in their sleep – and now we can decipher their dreams
https://newatlas.com/biology/bird-sleeping-dream-song/
元論文
Synthesizing avian dreams
https://doi.org/10.1063/5.0194301
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。