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「手術中に患者がギター演奏!?」意外な方法をとる脳腫瘍切除手術の様子


世にも奇妙な手術の光景が公開されました。

米フロリダ州出身のミュージシャンであるクリスチャン・ノーレン(Christian Nolen)氏は、脳内に悪性腫瘍が見つかったことで切除手術を受けました。

多くの人はその手術の様子を思い浮かべる時、全身麻酔で昏睡状態の患者の姿を思い浮かべるでしょう。

ところがノーレン氏は、ギターを弾きながら腫瘍の切除手術を受けたのです。

今回は脳に致命的な損傷を与えないために、脳外科手術で実際に行われる意外な方法について解説していきます。

目次

  • 医師「手術の間、ギターを弾き続けてほしい」
  • 身体機能に必要な脳領域を傷つけていないかチェックする

医師「手術の間、ギターを弾き続けてほしい」

ミュージシャンのクリスチャン・ノーレン氏。頭部に外科手術の痕が
ミュージシャンのクリスチャン・ノーレン氏。頭部に外科手術の痕が / Credit: Sylvester Comprehensive Cancer Center(youtube, 2024)

米マイアミ大学 シルベスター総合がんセンター(UM Sylvester Comprehensive Cancer Center)の医学チームは、ノーレン氏の右前頭葉に「神経膠腫(しんけいこうしゅ )」を発見しました。

神経膠腫はグリオーマともいい、神経上皮細胞から発生する悪性の脳腫瘍のひとつです。

グリオーマが見られた右前頭葉は、身体の左半身の動きを制御する脳領域であるほか、発話や言語能力、その他の認知機能と密接に関連しています。

その悪影響は実際にノーレン氏の身に起こっていました。

ノーレン氏はインタビューで「左半身の感覚がなくなったように感じ、腰から上は腕が動かせなくて、顔の左半分も引きずられているようだった」と話しています。

ノーレン氏の脳内に見つかったグリオーマ(白い塊の部分)
ノーレン氏の脳内に見つかったグリオーマ(白い塊の部分) / Credit: Sylvester Comprehensive Cancer Center(youtube, 2024)

診断後、ノーレン氏は医師から悪性腫瘍の切除手術が必要であると告げられました。

それだけでなく、「手術をしている間にギターを何曲か弾き続けてほしい」という要求をされたのです。

驚きの提案ですが、実はこのような方法は、脳外科手術では割と一般的なのだといいます。

身体機能に必要な脳領域を傷つけていないかチェックする

一般的な感覚からすると、脳外科手術をする場合、患者は全身麻酔で深い眠りにつくのが当たり前と考えるでしょう。

ところが意外なことに、運動や言語能力に関わる重要な脳領域の手術をする場合、脳外科医は全身麻酔ではなく、患者の意識を保たせておくことを望むのです。

これは手術によって、運動や言語能力に関わる脳領域を傷つけていないかをリアルタイムで確認するためです。

もしそうした脳領域を誤って刺激したとすると、患者の運動や発話能力に異変が生じます。

しかし患者の反応を確認しながら、重要な脳領域を避けることができれば、術後も正常な運動や言語能力を維持することが可能なのです。

ノーレン氏(左)と主治医のリカルド・コモタール氏(右)
ノーレン氏(左)と主治医のリカルド・コモタール氏(右) / Credit: Sylvester Comprehensive Cancer Center(youtube, 2024)

対照的に、全身麻酔をした状態だと患者の反応がないため、重要な脳領域を知らぬ間に傷つけてしまう恐れがあります。

患者の目が覚めた後に身体機能の異常に気付いても、もはや後の祭りです。

こうした不幸な結果を生まないためにも、医師はぜひとも患者に起きておいてもらいたいのです。

また脳自体は痛覚がないので、術中に脳をいじられても患者にはどこをどう触られているのかは分かりません。

マイアミ大学のリカルド・コモタール(Ricardo Komotar)医師によると、同大学だけでも年間に数百件の脳外科手術が行われており、患者によっては術中に本を読んだり、歌ったり、バイオリンを弾いたりしてもらっているといいます。

手術中のギター演奏

ノーレン氏の手術は2023年の12月に行われ、術中にはプロのミュージシャンとしてギターを弾いてもらいました。

もしギター演奏に関わる脳領域を刺激したとすれば、彼の演奏にも異変が生じると考えられます。

ノーレン氏の方も覚醒状態での手術を受けることに迷いはなかったという。

それは今後、音楽活動ができるかどうかの命運がかかっていたからです。

ノーレン氏は「手術そのものに対する不安や恐怖よりも、全身麻酔で手術を受けることの方がリスクが大きかった」と話しています。

そうしてギター演奏をしながらの切除手術が敢行されました。

その貴重な映像がこちらです。

具体的なプロセスとしてはまず、開頭手術の段階までは麻酔でノーラン氏を眠らせ、悪性腫瘍を切除する準備が整ったタイミングで起きてもらいます。

手術中、ノーレン氏はギターで何曲かのロックを演奏し、その選曲にはデフトーンズシステム・オブ・ア・ダウンのような人気バンドの曲も含まれていたという。

結果、医師チームはノーレン氏の演奏を乱すことなく、悪性腫瘍を除去することに見事成功しました。

コモタール氏は「ノーレン氏は手術の翌日には家に帰宅し、病状の回復も目覚ましい」と話しています。

安全を期すため、ノーレン氏は術後の数週間はあまり体を動かさないように指示されましたが、以前のような左半身の麻痺もなくなり、現在では正常な生活に戻って、毎日ジムに通いつつギターの演奏もしているとのことです。

全ての画像を見る

参考文献

This man played the guitar as doctors removed a tumor from his brain
https://www.zmescience.com/science/news-science/brain-tumor-removed-guitar/

Playing Guitar During Brain Tumor Surgery?
https://news.umiamihealth.org/en/playing-guitar-during-brain-tumor-surgery/

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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