ピンクのゾウは英語圏ではラリった人の見る典型的な幻覚として有名です。
「あ、ピンクのゾウが見える」というと心配されるかもしれません。
しかし、そんな幻覚の代表が南アフリカのクルーガー国立公園の水飲み場で確認されたのです。
確認されたピンク色の子ゾウは、珍しい体色にも関わらず仲間たちは気にせず優しく接しているという。
なぜこのゾウはピンク色になったのでしょうか?
目次
- メラニン色素の欠乏により、体全体がピンク色の「アルビノ」子ゾウが発見される
- 群れのゾウたちは、アルビノの子ゾウを「仲間外れ」にしない
メラニン色素の欠乏により、体全体がピンク色の「アルビノ」子ゾウが発見される
南アフリカのクルーガー国立公園は、アフリカ有数の大きさを持つ鳥獣保護区であり、その面積は約2万km2にもなります。
その中には、500種類以上の鳥類や、「ビッグ5」と言われるライオン、サイ、ゾウ、バッファロー、ヒョウが生息しています。
特にアフリカゾウの数は多く、2011年の時点で1万3000頭ものゾウが確認されています。
最近、そんなクルーガー国立公園の水飲み場で、生後1年ほどのピンクの子ゾウが発見されました。
通常、ゾウの色は灰色ですが、この小さな子ゾウは、体全体が薄いピンク色をしていたのです。
この色の違いは遺伝子疾患によるものであり、メラニン色素の生合成に関わる遺伝情報の欠損により、先天的にメラニンが欠乏しているためです。
このような個体は「アルビノ」と呼ばれます。
毛のある動物がアルビノになると、その体毛は白くなります。
通常は皮膚も白くなりますが、個体によっては皮膚の下の血管が透けることでピンク色に見えます。
今回発見された子ゾウがピンク色なのも、こうした理由によるものです。
とはいえ、野生哺乳類のアルビノは非常に稀であり、この子ゾウの映像を撮影したサファリオペレーターのテオ・ポトギーター氏は、「出生1万回に1回しか発生しない」と述べています。
群れのゾウたちは、アルビノの子ゾウを「仲間外れ」にしない
一般的に、アルビノとして生まれた動物の個体は、自然界で難しい状況に面することになります。
まず、アルビノの症状によって視力が低下します。
メラニン色素が不足すると目の発達が妨げられるため、食物を探したり、獲物を上手く追跡したりするのが難しくなるのです。
また、皮膚や毛の色素が無いということは、自然環境に溶け込むことができず、敵に狙われやすくなるということです。
さらに、アルビノの個体は、しばしば仲間に受け入れてもらえないことがあります。
実際、2015年のチェコ生命科学大学(Czech University of Life Sciences Prague)の研究は、ナマズのアルビノ個体が、同じナマズ集団から村八分にされると報告しています。
では、発見されたアルビノの子ゾウも、同じ問題を抱えているのでしょうか。
「視力が弱い」ことや「目立ちやすい」といった問題を、確かに抱えている可能性があります。
それでも、この子ゾウは、群れの中で仲間外れにされることはなかったようです。
実際、この子ゾウは群れのゾウたちの中で過ごしており、別の子ゾウと一緒に遊ぶ様子が確認されています。
ちなみに、アルビノの子ゾウが発見されたのはこれが初めてではなく、以前に発見されたアルビノの子ゾウも群れの仲間に受け入れられていました。
ポトギーター氏は、「群れの残りの個体は、これら若い個体を保護し、忍耐強く見守っているようだった」とコメントしています。
そして、「これらの極めて稀で、特別な動物を目撃できるのは、いつも光栄なことです」と続けました。
見た目が大きく異なる子ゾウが仲間に受け入れられている様子は、私たちを温かい気持ちにさせてくれますね。
私たちがゾウに感じていた「優しさ」や「結びつきの強さ」は、体の色が異なるゾウに対しても変わらずに示されるものだったのです。
参考文献
Watch a rare pink albino elephant baby playing by a waterhole in adorable footage
https://www.livescience.com/animals/elephants/watch-a-rare-pink-albino-elephant-baby-playing-by-a-waterhole-in-adorable-footage
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。