卵を使い忘れて冷蔵庫に長期間放置していたという自堕落な人はいるでしょうか?
もちろん、日本のパック卵は賞味期限(約2週間)を超えたからといってすぐに腐るわけでも、強烈な臭いを放つわけでもはありませんが、賞味期限からかなり経過した卵は正直殻を割って中身を確認するのもちょっと怖い気がします。
ところが2019年、ヨーロッパ最大の考古学団体「Oxford Archaeology」は、1年前の腐った卵どころか、「1700年前の卵」をローマ時代の遺跡から発掘されたと報告しました。
さらにこの卵をCTスキャンにかけたところ、なんと中身が未だに残っており「卵白と卵黄だったであろう液体」が満たされているとわかったのです。
卵は殻で守られているとはいえ、通気性を持っているため普通は長期間放置すれば中身も干からびてしまいます。
なぜこの卵はこれほどの長期間中身が無事だったのでしょうか?
目次
- CTスキャンにより、1700年前の卵の中身が明らかになる
CTスキャンにより、1700年前の卵の中身が明らかになる
2019年、考古学団体「Oxford Archaeology」は、イギリス・バッキンガムシャーの都市「アリスバーリー(Aylesbury)」の郊外にある「ベリーフィールズ(Berryfields)」の遺跡から1700年前の卵が発見されたと報告しました。
発掘作業は、2007年から2016年にかけて行われ、遺跡はローマ街道沿いに掘られた穴で水に浸かった状態となっていました。
その穴からは、かご、陶器、コイン、革靴、動物の骨など様々な物品が発見されており、考古学者たちは、この遺跡がコインを投げ入れたり、神様への供え物を入れたりするような「願いの井戸」として人々に信仰されていたと考えています。
そしてそれら数々のコレクションに加え、4つの卵も発見されました。
ローマ時代、卵は豊穣と再生の意味合いを持つ神々と関連付けられており、この卵も神への供物だった可能性があるようです。
それら1700年前の卵は非常に脆くなっており、発掘中に3つの卵が割れてしまいました。
周囲には「信じられないほどの硫黄の臭いが漂った」と言われています。
それでも残りの1つは、無傷な状態で回収することができ、博物館へと運ばれました。
Oxford Archaeologyは、「イギリスで発見された唯一の完全なローマの卵」と述べています。
1700年も前の卵が崩壊せず、これほど完全な状態を保っていたのは、穴を満たしていた水が乾燥からその卵を守っていたからだと考えられます。
そしてこの「唯一の卵」は、ニワトリの卵である可能性が高く、最近になって再分析されることになりました。
イギリスのケント大学(University of Kent)で行われたマイクロCTスキャンによって卵の中身が明らかになったのです。
なんと、1700年前の卵には、まだ液体の中身がしっかりと入ったままだったのです。
生成した画像では、液体が赤色で示されており、殻と液体の間に小さな気泡が見られます。
また卵黄と卵白を区別できるような境界線はなく、時間の経過とともに、卵黄と卵白が混ざり合ったと考えられます。
意図せずに(人為的な介入なしで)、卵の中身まで保たれる可能性は非常に低いため、この分析に携わった考古学者のダナ・グッドバーン・ブロウ氏は、「一生に一度の発見かもしれない」と興奮気味に語っています。
現在、この卵はアリスバーリーの博物館に保管されており、殻を割らずに中身を取り出す方法を探して研究が続けられています。
1年前の「腐った卵」であれば、あえて中身を出さずに捨ててしまいたくなるものですが、確かに1700年前の卵となると、逆にその中身を確認したくなりますね。
1700年前の卵白と卵黄がどんな色をしているのか、またどれほど強烈な臭いを発するのか気になるところです。
参考文献
Amazingly Preserved Roman-Era Egg Is Still Full of Liquid 1,700 Years Later
https://www.sciencealert.com/amazingly-preserved-roman-era-egg-is-still-full-of-liquid-1700-years-later
The Berryfields Roman Egg
https://www.buckinghamshire.gov.uk/blogs/archaeology/berryfields-egg/
Roman egg recovered from site in Aylesbury
https://www.oxfordarchaeology.com/news/roman-egg-recovered-site-aylesbury
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。