パンダみたいな白黒模様、ガイコツのあばら骨を彷彿とさせる白い血管。
これらの特徴から「ガイコツパンダホヤ」の愛称で親しまれる生物をご存じでしょうか?
この生物は2017年頃にSNSやテレビで話題になりましたが、生物学的な正体はずっと謎に包まれていました。
しかし今回、北海道大学はついにガイコツパンダホヤがツツボヤ属 (Clavelina)に属する新種のホヤであることを突き止めました。
このことから正式な学名として「クラベリナ・オシパンダエ(Clavelina ossipandae)」と命名されています。
研究の詳細は2024年2月1日付で科学雑誌『Species Diversity』に掲載されました。
目次
- そもそもホヤってどんな生き物?
- 新種と判明!正式な学名も与えられる
そもそもホヤってどんな生き物?
ホヤは脊索動物門の尾索動物というグループに属し、これまでに世界で約3000種、日本では約300種が見つかっています。
赤ちゃん時代はオタマジャクシのような姿で浮遊しており、大人になる段階で海底に固着し、死ぬまで海中のプランクトンをろ過摂食する生活を続けます。
ホヤは大型のもので体長数十センチに達し、小型のものは数ミリ程度に留まります。
繁殖形態としては、卵と精子が受精して子孫をつくる有性生殖のみを行う「単体性のホヤ」と、有性生殖とともに体の一部から新しいホヤを生みだす無性生殖も行う「群体性のホヤ」がいます。
群体性で生み出されたホヤたちはすべてクローンで、元の個体と遺伝的にまったく同じです。
ちなみにガイコツパンダホヤは群体性のホヤであることが分かっています。
2017年頃からSNSなどで話題に
ガイコツパンダホヤは沖縄県の久米島周辺に生息するホヤです。
体の前端部の白い部分に3つの黒い斑点があり、これがパンダの顔のように見えます。
また胴体は半透明で透けており、胸部のエラに走る白い血管がガイコツのあばら骨を連想させます。
こうした特徴から「ガイコツパンダホヤ」と通称され、2017年頃に久米島のダイビングショップのウェブサイト上で初めて紹介されました。
これを皮切りにTwitter(現X)で「不気味」「かわいい」などの大反響を呼び、それ以後、NHKや民放各社により幾度もテレビ番組で取り上げられるようになったのです。
著作『へんないきもの』などで有名な作家・早川いくを氏は当時、こんなユニークな投稿をTwitterに上げています。
「ガイコツパンダホヤ」なる生物の名を聞いた時「そんなもんいない」と答えた私だが、ちゃんと実在しやがった。しかも脳裡に浮かんだ安直なイメージとほぼ同じ姿形であった。写真は各自検索するように。 pic.twitter.com/rc9VIVmNb2
— 早川いくを(著作家・デザイナー) (@phagetypet40) September 12, 2017
こうしてガイコツパンダホヤの存在は人々の間に知れ渡ったものの、生物学上の正体はずっと不明のままでした。
しかし北海道大学の最新調査で、ついにその正体が解き明かされます。
新種と判明!正式な学名も与えられる
研究チームは2021年3月に、沖縄県久米島の南に位置する通称・トンバラと呼ばれるダイビングポイントにて、ガイコツパンダホヤを合計4群体採集しました。
採取したホヤを顕微鏡下で解剖し、体内の形態を詳しく観察。それからDNA分析を行って、近縁種間における系統的な位置を調査しています。
その結果、ガイコツパンダホヤはツツボヤ科のツツボヤ属 (Clavelina)に属する種であることが分かりました。
さらに世界中から報告されているツツボヤ属の44種と形態などを比較したところ、いずれの既知種とも異なる特徴をもつことから生物学的に未記載の新種であることが特定されたのです。
そこでチームは、ガイコツパンダホヤの正式な学名として、ラテン語で「骨の」を意味するossisと「パンダ」を意味するpandaeを組み合わせて、「クラベリナ・オシパンダエ(Clavelina ossipandae=骨パンダのツツボヤ)」と命名しました。
今のところ、ツツボヤ属は日本国内で10種が確認されており、ガイコツパンダホヤは11 種目となっています。
加えて、今回の発表以前に久米島のホヤ類に関する学術的な研究報告はなされていません。
したがって、ガイコツパンダホヤは久米島を代表するホヤ第一号となりました。
第二のガイコツパンダホヤの発見なるか?
日本におけるホヤの多様性調査は150年以上の歴史がありますが、久米島を含む南西諸島ではホヤの調査がほとんど進んでいません。
南西諸島はサンゴ礁が豊かで、生物多様性が高いことで知られているため、ガイコツパンダホヤのような奇妙なホヤが新発見される可能性が大いに期待できます。
また今回の研究の特筆すべき点として、SNSやメディアを通じて生物の情報が研究者のもとに届けられた結果、 新種の発見に繋がったということが挙げられます。
これは専門家でなくても、新種生物の第一発見者になりうることを示唆しています。
自然の散策中に奇妙な生物を見つけたら、写真に撮ってSNSに上げてみるといいかもしれません。
もしかそれが生物学者の目に留まった結果、新種と判明することも現代では十分あり得ることなのです。
参考文献
ついにガイコツパンダホヤの正体が判明!~SNSによる情報拡散から新種の発見へ~
https://www.hokudai.ac.jp/news/2024/02/sns.html
元論文
Graveyards of Giant Pandas at the Bottom of the Sea? A Strange-Looking New Species of Colonial Ascidians in the Genus Clavelina (Tunicata: Ascidiacea)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/specdiv/29/1/29_SD22-16/_article
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。