宇宙開発で注目されている分野は、火星の探索だけではありません。
地球低軌道上には、国際宇宙ステーションや衛星など数々の人工物が存在しており、今やその空間は、商業的価値の高いものとなっています。
しかし、宇宙への資材の運搬は、積載量に大きな制限があり、また一度の運搬で莫大な資金がかかります。
宇宙開発をビジネスとして成立されるためには、より少ない資材で低コストの拠点を築けるようにする必要があるのです。
そこで最近、アメリカの航空宇宙企業「シエラ・スペース(Sierra Space)」は商業宇宙ステーション用に、まるでテントのような膨らませて使えるモジュールを開発し、その耐久テストを行いました。
トップ画像はその様子を示したもので、宇宙ステーション用の膨張式居住スペース「ライフ(LIFE)1.0」のシェルが大爆発していますが、これは実験成功であり、推奨値以上の耐久性を示すことができたといいます。
目次
- 膨張式宇宙ステーション「ライフ1.0」の圧力テスト
膨張式宇宙ステーション「ライフ1.0」の圧力テスト
シエラ・スペース社が開発中の宇宙居住スペース「ライフ」は、商業宇宙ステーションを構成する「モジュール」の1つです。
ライフは特殊な素材で構成されており、軌道上で「膨張」し、鋼鉄よりも頑丈になります。
この特性により、従来のロケットには圧縮した状態で積み込むことができるのです。
そして「ライフ1.0」では、軌道上で6m×9mのサイズ(2~3階建ての住宅レベル)にまで膨張します。
容積は285m3にもなり、宇宙飛行士4人と、科学実験装置、運動器具、ガーデニングシステムなどが収まるほどのスペースです。
シエラ・スペース社によると、わずか3回の打ち上げで容積的には、国際宇宙ステーション全体よりも広い居住・作業環境を展開できるようです。
将来的に計画されているライフ3.0は、1回の打ち上げで国際宇宙ステーションを超える1400m3まで膨張するのだとか。
ライフを用いたより安価な宇宙ステーションの構築は、研究開発だけでなく、宇宙観光ビジネスを推し進める上で大いに役立つことでしょう。
もちろん、これらの宇宙居住スペースは、その耐久性がテストされる必要があります。
そのため2024年1月22日、シエラ・スペース社は、アメリカのアラバマ州ハンツビルにあるマーシャル宇宙飛行センターにて行ったライフ1.0の破裂試験の結果を報告しました。
動画では、圧力に耐えきれず、ライフ1.0が爆発する様子が映し出されています。(※動画開始直後の爆発音に注意)
もちろん、これは失敗ではなく、ライフ1.0の内部圧力を破裂するまで高めるテストでした。
その結果、ライフ1.0はNASAが推奨する安全レベル(60.8psi)を27%上回る77psiの圧力で破裂しました。
これはモジュール最大動作圧力の4倍を上回る数値です。
この結果についてシエラ・スペース社は、「膨張式宇宙居住スペースの開発において、画期的なマイルストーンを達成した」とコメントしています。
ライフ1.0が爆発する様子は、壮大であり、どこか美しくもありますね。
このテストで得られたデータは、ライフ1.0が実際の衛星軌道上でどのように動作するのかをシミュレーションするのに役立つでしょう。
今後、このような宇宙ステーション・ビジネスはますます加速していくに違いありません。
参考文献
Watch a house-sized space habitat (intentionally) burst
https://phys.org/news/2024-01-house-sized-space-habitat-intentionally.html
シエラ・スペースが革新的な商業宇宙ステーション技術を進歩させる
https://www.sierraspace.com/newsroom/press-releases/sierra-space-advances-its-revolutionary-commercial-space-station-technology/
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。