研究は続いていたようです。
中国の北京工科大学で行われた研究によって、セイザンコウから得られたコロナウイルス株「GX P2V」をマウスに感染させたところ、非常に強い毒性を発揮し、感染後8日の段階で致死率100%に達したと報告されました。
研究に使われたマウスたちは死ぬ2日前(6日目)に脳への感染が劇的に増化し、死ぬ1日前(7日目)には目が白くなるという奇妙な共通点がみられました。
コロナ関連ウイルスを使ったマウス実験において、致死率が100%に達したのは今回の研究がはじめてです。
ただ実験に使われたマウスはウイルス感染が起こる部位「ACE2」を「ヒト化」させており、人間に対する潜在的な影響が懸念されています。
研究内容の詳細は2024年1月4日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて公開されました。
目次
- 目が白くなって8日目に100%死亡した
- 欧米の専門家ら「この狂気の実験はすぐにやめるべき」
目が白くなって8日目に100%死亡した
今回の研究で使われたウイルスGX P2Vは、センザンコウと呼ばれる動物に感染するコロナウイルスを起源としています。
北京工科大学は以前の研究において、このセンザンコウ由来のウイルスが初期培養時に既に変化を起こしておりGX P2V (short_3UTR)という適応変異体へと進化していることを報告しました。
変異元となるGX P2Vはその分子構造からヒト、ネコ、ブタ、ゴールデンハムスター、マウス、ラットなどの広範囲の宿主種に感染する可能性があります。
ただこれらの動物で元の GX_P2V ウイルスが循環しているという証拠はなく、研究者たちの培養によって新たに誕生したGX_P2V(short-3UTR) 変異体に関する情報も存在しません。
そこで今回北京工科大学の研究者たちは新たな変異株「GX P2V (short_3UTR)」の感染がどんな結果になるかを調べるためのマウス実験を行うことにしました。
また使用するマウスは細胞のACE2と呼ばれる部分をヒト化させたものが使われました。
ヒト化させることにどんな意義があるかは議論がありますが、1つにはヒトへの感染を部分的に模倣する効果があると考えられます。
(※ACE2は新型コロナウイルスがターゲットとなる細胞を認識する部位として知られています)
すると感染後5日目から体重の減少を示し始め、6日目までに初期体重から10%の減少。
また感染後7日目までに、マウスは立毛(毛が逆立つこと)、猫背、動作の鈍さ、目が白くなる、などの症状を示し、わずか8日で感染したマウスの全てが死亡することが判明しました。
さらに感染したマウスの体を分析したところ、ウイルスが肺、骨、目、気管、そして脳に感染していることが示されました。
特に死ぬ2日前(6日目)には肺でウイルスが減少したものの、脳でのウイルスの爆発的な増加が起こっていることが判明。
このことから脳感染の重篤化が死因になったと結論付けられました。
研究者たちは研究成果について「これまで行われたコロナウイルス関連の研究において、マウスの死亡率が100%であることを報告したのは初めてであり、GX_P2Vがヒトに波及するリスクを示唆している」と述べています。
欧米の専門家ら「この狂気の実験はすぐにやめるべき」
研究結果がネット上で公開されると、世界中の専門家たちによる懸念が表明されるようになりました。
多くの批判は、致死性の高いコロナウイルスを、ヒト化させたマウスで実験する危険性について指摘するものです。
ウイルスがヒト化したマウスへの感染を繰り返すことで、本当にヒトへ感染する能力を獲得する可能性があるからです。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン遺伝学研究所の疫学専門家フランソワ・バルー氏は研究について「最悪で、科学的に全く無意味」と評価すると共に「研究に使われた生物安全性水準や生物安全注意事項が明示されていない」と指摘しました。
安全水準が記されていないことにより、この研究が最小限の安全性や生物学的な封じ込めがないままに、無謀な実験が行われた可能性が疑われます。
またスタンフォード大学の元医学部教授であるゲンナディ・グリンスキー氏は「この狂気は手遅れになる前に止めなければならない」と述べています。
なお今回の研究は中国の武漢ウイルス研究所とは関係なく独立した研究となっています。
ニューヨーク・ポストは「このような研究結果を発表するということは中国がパンデミック以降も無謀な研究を行っていることを物語っている」とし「もう1つの世界的なパンデミックが再び始まる前に火遊びをやめなければならない」と記しています。
元論文
Lethal Infection of Human ACE2-Transgenic Mice Caused by SARS-CoV-2-related Pangolin Coronavirus GX_P2V(short_3UTR)
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.01.03.574008v1.full
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。