メガロドンは太古の海に実在した史上最大のサメです。
近年では映画『MEG ザ・モンスター』やその続編となる『MEG ザ・モンスターズ2』でも取り上げられ、世間的にも知名度の高い古生物となっています。
このメガロドンの復元像は「頭から胴体にかけて丸々と肥え太ったずんぐり体型」として描かれるのが常です。
ところが今回、米デポール大学(DePaul University)の最新研究により、実際のメガロドンはずんぐりむっくりではなく、細身でスレンダーだった可能性が浮上しました。
研究の詳細は2023年12月1日付で科学雑誌『Palaeontologia Electronica』に掲載されています。
目次
- メガロドンは「ずんぐり」か「スレンダー」か?
- 実は細身でスリムだった?
メガロドンは「ずんぐり」か「スレンダー」か?
メガロドン(学名:Otodus megalodon)は約2300万〜360万年前にかけて世界中の海に存在しました。
推定される全長は約10〜15メートル、最大だと20メートルという途方もないサイズに達します。
”ジョーズ”として恐れられるホオジロザメでさえ全長6メートルですから、もしメガロドンが生きていれば、私たちは今ほど熱心に海遊びはできなかったでしょう。
一方で、メガロドンは現代のサメと同じ「軟骨魚類」であり、歯以外の全身骨格は柔らかい軟骨でできていました。
軟骨は化石として残りにくいため、メガロドンの化石は大量の歯を除くと、部分的な脊椎しか見つかっていません。
それゆえ、彼らの全体像は歯や脊椎のサイズから予想するしかなく、正確な全体像は謎めいたままでした。
それでもメガロドンはホオジロザメを代表とする「ネズミザメ目(Lamniformes)」のグループに属することが分かっています。
そこで専門家たちは伝統的に「現代の近縁種であるホオジロザメに近い見た目をしていただろう」と考えて、メガロドンを「頭から胴体にかけて丸々と肥え太ったずんぐり体型」として復元してきたのです。
しかしデポール大は新たな研究によって、実はメガロドンが細身でスレンダーなモデル体型だった可能性を見出しました。
その研究結果を見てみましょう。
実は細身でスリムだった?
今回の報告は、英スウォンジー大学(SU)が2022年に発表した研究結果の見直しに基づいています(Science Advances, 2022)。
両者の研究はともに、同じメガロドンの脊椎化石をもとに生前時の体サイズを推定するというものです。
2022年の研究では、ホオジロザメの体型を基本モデルとし、ホオジロザメの脊椎の直径がメガロドンの脊椎の直径と同じになるまで、体サイズをスケールアップするという方法を取りました。
そうして導き出された全長は頭を含めて約9.2メートルとなっています。
しかし研究チームは今回、同じメガロドンの不完全な脊椎セットをそれぞれ測定し直し、部位ごとに並べて再評価した結果、頭を含めない脊椎の全長だけでも約11.1メートルに達することが支持されたのです。
加えて、この個体がもしホオジロザメと同じ体型だったと仮定すると、約11.1メートルの胴体を支えるには強度不足であるとの結果が示されました。
研究者は「ホオジロザメの体型をこの脊椎化石に当てはめてみると、この脊椎の直径では小さすぎて、体の筋肉を支えることはできなかったでしょう」と話しています。
ずんぐりした胴体が脊椎を圧迫して、バキッと壊してしまう恐れがあるのです。
これを踏まえてチームは、メガロドンの体型は頭から胴体にかけて細身でスレンダーだった可能性が高いと提唱しました。
細長い胴体であれば、この脊椎の直径でも十分に筋肉を支えられるといいます。
また研究者らは、メガロドンの体型モデルとしてはホオジロザメよりもアオザメの方が適切であると指摘しました。
アオザメも同じネズミザメ目に属しますが、ホオジロザメとは違い、鼻先から胴体にかけてスラリとした細身体型をしています。
「ずんぐり」か「スレンダー」かは意外に大きな問題
研究者らは、メガロドンがずんぐり体型でもスレンダー体型でも、海の頂点捕食者だったことに変わりなかっただろうといいます。
その一方で、メガロドンの生態には大きな違いが出ると話しました。
例えば、体の形の違いによって効率的な泳ぎ方や遊泳スピードは変わりますし、また食生活にも影響を出ます。
具体的には、ホオジロザメのようなずんぐり体型だと消化管が短くなり、食べ物の消化・吸収の効率が落ちるので、どんどん獲物を食べる必要があります。
ところがスレンダー体型で消化管が長くなると、消化・吸収の効率が上がり、少ない獲物から十分な栄養が得られると予想されるのです。
となるとメガロドンもそこまで狩りに熱心にならなくて済んだかもしれません。
さらにこのことは周りにいる生物への捕食圧力が小さくなることを意味するので、生態系のネットワークにも少なからぬ影響を与えると思われます。
このようにメガロドンの体型がずんぐりかスレンダーかで、太古の海の様相はかなり変わってくるのです。
しかしチームの新たな仮説が正しいことを証明するには、メガロドンの全身骨格を見つけるしかありません。
それが見つかるまでは、ずんぐりvsスレンダー論争も続きそうです。
参考文献
Slender shark: Study finds Megalodon was not like a gigantic great white shark
https://resources.depaul.edu/newsroom/news/press-releases/Pages/shimada-jan2024-megalodon.aspx
Was Megalodon Slimmer Than Previously Thought?
https://cnas.ucr.edu/media/2024/01/21/was-megalodon-slimmer-previously-thought
The ‘meg’ may have been longer and less chonky than previously thought
https://www.popsci.com/environment/megalodon-less-wide-more-narrow-long/
元論文
White shark comparison reveals a slender body for the extinct megatooth shark, Otodus megalodon
https://palaeo-electronica.org/content/2024/5079-megalodon-body-form
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。