読者のみなさんは本を読むとき、紙の本、電子書籍,どちらで読みますか。
最近はaudibleやaudiobook.jpのようなサービスがリリースされ、本を読むのではなく聞いている人もいるでしょう。
それぞれの読書の方法でメリット・デメリットがありますが、読んだ本の内容の理解が深いのはどれなのでしょうか。
近年のメタ分析を見てみると、紙の本が内容の理解度と記憶に残る情報が多く、次に電子書籍とオーディオ・ブックが同列で並ぶようです。
しかし時間的な制約がある場合は、この関係性が変わってくることも分かっています。
電子書籍は今後も伸びていくでしょうが、紙の本がなくなるのは嫌だと思う人は多いはずです。
ここでは紙の本、電子書籍が持つ固有の特性やメリットに関する研究を見ていきましょう。
目次
- 紙の本と電子書籍で内容の理解度は変わるのか
- オーディオ・ブックで読んでも頭に残るのか
紙の本と電子書籍で内容の理解度は変わるのか
読者のみなさんは本を読むとき、紙の本で読みますか、それとも電子書籍で読みますか。
紙の本であれば、自分がどこまで読み進めたかや「本の真ん中手前あたりにこの情報があったな」と、どこに情報が載っていたかを物理的に把握することができます。
電子書籍には実体が無いので、そうした物理的な把握ができませんが、引き換えに何冊でも簡単に持ち歩くことができます。
それぞれメリットとデメリットがあるわけですが、いったいどの方法で読書した方が内容が頭に残るのでしょうか。
「Journal of Experimental Education」に投稿された、米メリーランド大学のローレン・シンガー氏(Lauren Singer)らの研究では、紙と電子書籍での内容理解度を比較しています。
実験には大学生90名が参加しました。
参加者は、①印刷された紙で読む人と、②デバイスで読む人の2つのグループに分けられ、その後に読んだ内容の理解度を測るテストを受けました。
内容の理解度を測るテストでは、文章の趣旨、要点、その他の関連する情報を書き出してもらっています。
実験の結果、読んだ文章の趣旨、その他の関連情報に関して、デバイスで読んだ人と比較して、印刷した紙で読んだ人のほうがより多くの情報を思い出すことができたのです。
またこの紙の内容理解の優位性は、新聞・専門書などジャンルが異なっても確認されています。
この紙の内容理解の優位性は、電子書籍よりも、紙の本は自分の必要としている情報が「何ページのどこあたりにあったか」を物理的に把握できるからだと考えられています。
紙の方が電子書籍よりも内容をよく理解できる傾向は複数の研究結果をまとめたメタ分析の研究でも報告されています。
「Educational Research Review」に「紙の本を捨てるな」という題目で投稿された、スペインのバレンシア大学のパブロ・デルガド氏(Pablo Delgado)らの研究では、「紙の本と電子書籍での理解度」を比較した過去の54件のメタ分析しています。
分析の結果、専門書や新聞などのジャンルを問わず、電子書籍よりも紙の本で読むほうが内容がより理解できることが確認されました。
ただし、この傾向は読書に使える時間の制約によって変化してしまうことが報告されています。
読書時間が限られている場合は紙の本のほうが内容の理解が進みますが、時間的な制約がない場合には、紙の内容理解の優位性は弱くなってしまうのです。
この結果は本の内容をできる限り早く理解し、記憶に定着させたい場合、紙の本が1番である可能性を示唆しています。
しかし電子書籍には、紙の本と比べて持ち運びが便利で、サイズも統一されているなど多くのメリットが存在することも確かです。
読書時間に制約がない場合、理解力の差が縮まるというのであれば、「あと何時間で読み終わらないと」という時間の制約がある状況でない余裕がある状況での読書なら、電子書籍で読んだ方が良いのかもしれません。
オーディオ・ブックで読んでも頭に残るのか
最近はaudibleやaudiobook.jpのようなサービスがリリースされ、本を読むのではなく聞いている人もいるでしょう。
実際のところ、紙の本と電気書籍と比べ、オーディオ・ブックで読んだ際の内容の理解度に違いはあるのでしょうか。
「SAGE Open」に投稿された、米ブルームズバーグ大学のベス・ロゴウスキー氏(Beth Rogowsky)らの研究チームは、電子書籍とオーディオ・ブックの読書の理解度の違いを検討しています。
実験には大学生91名が参加しました。
参加者は、①オーディオ・ブックで読む人と、②電子書籍で読む人、②電子書籍で読み上げ機能を使って読む人の3つのグループに分けられ、読んだ後と2週間後に内容の理解度を測るテストを受けてもらっています。
実験の結果、本を読み終えた後と2週間後のテストの得点を比較してみると、読書の方法で内容の理解度に違いはありませんでした。
Credit: Rogowsky et al., (2016).
この結果は、本の内容を音声で聞いても、電子書籍で読んでも内容の理解度に差はないことを意味しています。
また情報の視覚・聴覚情報の両方からインプットした場合には、記憶の定着率が高まるような気もしますが、どうやら視覚・聴覚情報が単体でインプットされた場合と理解度に違いはないようです。
この電子書籍とオーディオ・ブックの内容理解に差がない現象は、複数の研究結果をメタ分析した研究でも確認されています。
しかし参加者が自分のペースで読む進められるなどの時間的な制約がない場合には、オーディオ・ブックよりも電子書籍の方が理解が深まるようです。
この理由はオーディオ・ブックでは、もし聞き逃してしまっても音声が止まるわけではない点にあると考えられます。
文字媒体の電子書籍では、理解できなかった場合、目線を戻すだけで読み返すことできますが、音声の場合、該当箇所を再生し直すのは手間がかかります。
これらの結果を考慮すると、読んだ内容の理解度が高いのは、やはり紙の本で、次に電子書籍とオーディオ・ブックが並ぶ形という理解でいいでしょう。
しかしこうした差異は、紙媒体で育った人がまだ多いためだとも考えられます。
若い頃から電子書籍の読書に慣れ親しんでいるデジタル・ネイティブに限った場合は、いわゆる「デジタルの慣れ」の差で、紙の本と電子書籍の理解度の差が無くなる可能性も考えられるのです。
その点に関する検討は、今後の研究の結果を待つところでしょう。
元論文
Does Modality Matter? The Effects of Reading, Listening, and Dual Modality on Comprehension
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/2158244016669550
Don’t throw away your printed books: A meta-analysis on the effects of reading media on reading comprehension
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1747938X18300101
Listening Ears or Reading Eyes: A Meta-Analysis of Reading and Listening Comprehension Comparisons
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.3102/00346543211060871
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。