個人の認証に使われる体の部位は、その詳細なパターンを科学的に分析して理解している必要があります。
代表的な物に指紋があり、古くから犯罪捜査に利用されたり、近年ではスマホなどデジタル機器の認証に広く使用されています。
現在指紋や網膜、顔認証は良く知られていますが、他にもパターンとして個人を特定できる「人それぞれに固有な場所」はあるのでしょうか?
イギリスのエディンバラ大学(The University of Edinburgh)情報学部に所属するリック・サーカール氏ら研究チームは、3D画像とAIを用いた分析により、人間の舌が指紋と同じくらい独特であることを発見したのです。
研究の詳細は、2023年12月14日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
目次
- 人間の「舌表面の突起」は人それぞれ固有のものであり、個人を識別できる
人間の「舌表面の突起」は人それぞれ固有のものであり、個人を識別できる
すべての人に備わっている「舌」には、食べ物を取り込んだり、味を感じたり、発音したりするのに重要な働きがあります。
そして鏡の前で自分の舌をじっくり観察してみると、その表面はザラザラ(もしくはブツブツ)しているのが分かるはず。
これは、舌の表面が「舌乳頭(ぜつにゅうとう)」と呼ばれる数百もの小さな突起で構成されているためです。
この舌乳頭は4種類に分かれており、そのうち3種類には味覚を感じるセンサー「味蕾(みらい)」があり、残り1種類には味蕾が存在しないものの、鋭敏な触覚を持っていると考えられています。
このように多くの人は、「舌全体や舌乳頭の機能」に関心を抱いており、これまでにも多くの研究がなされてきました。
一方、舌乳頭の形状・サイズ・パターンに関してはあまり調査がなされず、その違いもほとんど知られていませんでした。
そこで今回、サーカール氏ら研究チームは、舌乳頭が個人間でどのように異なっているのか調べることにしました。
この分析の対象となったのは、15人の参加者(18~55歳)たちです。
研究チームは、彼らの舌をシリコンでそれぞれ型取りし、そこから2000個以上の「個々の舌乳頭」の詳細な3D画像を取得しました。
そしてそれらの画像をAIに学習・分析させ、乳頭の個々の特徴をよく理解し、そこから各参加者の年齢や性別を予測できるようにしました。
その結果、このAIツールは、乳頭の種類を約85%の精度で推測し、それぞれの位置をマッピングすることに成功しました。
また舌乳頭(形状・サイズ・パターン)は個人差があり、人それぞれで固有のものだと判明。
さらにAIツールを用いるなら、1つの舌乳頭からでさえ、48%の精度で個人を識別できると分かりました。
私たちの舌は、指紋と同じく独特なものであり、個人を識別するのに役立つのです。
もしかしたら指紋認証の代わりに、舌を出してデバイスのロックを解除する「舌認証」システムを作ることも可能なのかもしれませんね。
私たちは、これまでに多くの人の舌を「なんとなく」見てきましたが、実はそれらすべては細部に至るまで異なっており、世界で唯一「その人だけのもの」だったのです。
ちなみに研究チームは、今回の発見が、「個人の舌の状態に合わせた食品のデザイン」や「口腔がんの早期診断」に繋がるかもしれないとも述べています。
個々の体に合わせたオーダーメイドスーツがあるように、個々の舌に合わせた「オーダーメイドな食品」が生まれたら面白いかもしれませんね。
参考文献
AI study reveals tongue’s unique surface
https://www.ed.ac.uk/news/2023/ai-study-reveals-individuality-of-tongue-s-surface
AI study reveals individuality of tongue’s surface
https://www.leeds.ac.uk/main-index/news/article/5479/ai-study-reveals-individuality-of-tongue-s-surface
元論文
Machine learning and topological data analysis identify unique features of human papillae in 3D scans
https://www.nature.com/articles/s41598-023-46535-9
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。