米フロリダ州にあるワニ園のゲーターランド(Gatorland)は7日、世界で最も稀少な”純白のワニ”が同園で誕生したと報告しました。
この個体は通常の茶褐色の模様があるワニとは違い、全身がホワイトチョコレートのような美しさを湛えています。
こうした真っ白な個体が生まれると多くの人は「アルビノ」と思いがちですが、このワニはアルビノではなく、「白変種(リューシズム)」と呼ばれる希少な個体です。
しかも今回は飼育下で生まれた世界で初めての白変種ワニとなっています。
白変種とはなんなのでしょうか? そしてこのワニは一体どのような経緯で生まれたのでしょうか?
目次
- 白変種のワニが誕生!飼育下では世界初
- アルビノと白変種はどう違うのか?
白変種のワニが誕生!飼育下では世界初
白変種のワニは極めてレアであり、新たに生まれた赤ちゃんを含めても世界に8匹しか知られていません。
同園のCEOであるマーク・マクヒュー(Mark McHugh)氏は、この奇跡のワニが生まれるに至った経緯を説明しています。
マクヒュー氏は2008年に、ルイジアナ州ニューオーリンズにあるオーデュボン動物園(Audubon Zoo)から「景気が悪くてワニを飼育できないので引き取ってくれないか」との連絡を受けました。
その中にいたのが白変種のワニ「ジェイアン(Jeyan)」でした。
ジェイアンはアメリカアリゲーター(学名:Alligator mississippiensis)のオスで、真っ白な体を持っています。
加えて「アシュリー(Ashley)」という別のメス個体も引き取っていました。
彼女の見た目は普通の個体と同じ体色をしていますが、表(見た目)には現れない潜性遺伝子として白変種のDNAを持っていると考えられていました。
それ以来、ゲーターランド(Gatorland)はこの2匹の繁殖を進めており、今年8月ついにその成果が形となって現れます。
アシュリーは2つの卵を産み、一つからは典型的な茶褐色のオスのワニが、そしてもう一つから純白のメスのワニが誕生したのです。
こちらは白変種のメスが生まれる瞬間を捉えた映像です。
キャプションには「白変種のワニの赤ちゃんがゲーターランドで生まれました。飼育下での誕生は世界で初めてです!」との旨が書かれています。
A Baby Leucistic Alligator has hatched at out at Gatorland &it is the first one in the world#alligator#leucisticalligator#whitealligator#rare#amazing#alligators#floridapic.twitter.com/oHn54xxQnR
— Gatorland Orlando (@Gatorland) December 7, 2023
このメスの赤ちゃんは透き通るような真っ白な肌をしており、瞳の色は深いクリスタルブルーとなっています。
マクヒュー氏も「これは珍しいなんてものじゃなく、まったく驚くべきことです!」と喜びを爆発させています。
しかし、真っ白という点では「アルビノ」も同じですが、白変種とは何がどう違うのでしょうか?
アルビノと白変種はどう違うのか?
アルビノ(albino)とは、簡単にいうと、体のメラニン(色素)をつくる遺伝子が欠損していることで、全身のメラニンが先天的に欠乏している個体を指します。
アルビノは遺伝的にメラニンが合成できないので、皮膚や体毛、羽毛に至るまで体中が真っ白になります。
これと反対に、白変種(リューシズム)は色素をつくる遺伝子は正常であるものの、体の色素が減少することで皮膚や体毛が白化した個体を指します。
白変種になるには、両親から白変種の遺伝子を受け継がなければなりません。
というのも、皮膚や体毛を白化させる遺伝子は表には現れない潜性遺伝子であり、たとえ片方の親から受け継いだとしても、通常の顕性遺伝子に隠されてしまうため、見た目の特徴としては現れません。
(※潜性遺伝および顕性遺伝はそれぞれ劣性遺伝、優性遺伝と呼ばれていたものです。言葉のイメージから意味を誤解される事があるため現在は呼び方が変わっています)
そこで白化を表現型として現すには、父親と母親の両方から白変種の潜性遺伝子をもらわないとダメなのです。
野生下で白変種の個体がめったに見られない理由はここにあると考えられています。
またアルビノと白変種を見分けるポイントは「瞳の色」にあります。
先ほど言ったように、アルビノは遺伝的に色素がつくれないので瞳の色素も抜け落ちてしまい、奥の血管が透けて赤っぽく見えるようになります。
一方で、白変種は色素をつくる遺伝子は正常に働いているため、瞳の色は通常と同じ色になります。白化が現れるのは主に皮膚と体毛、羽毛だけです。
ただアルビノも白変種も野生下で生き抜くには、不利な形質と言われています。
真っ白な体は他の仲間と違って非常に目立つため、天敵にも見つかりやすくなりますし、またメラニンの欠如により直射日光にも弱くなります。
頂点捕食者であるワニも大人になれば安全かもしれませんが、小さな子供のうちは危険です。
ワニの子供はジャガーやニシキヘビに捕食されることが知られています。
純白のワニはすくすくと成長中
ゲーターランドで生まれた純白のワニは現在、ホワイトゲーター沼(White Gator Swamp)と呼ばれる野生環境を模した安全な園内スペースで飼育されています。
そこには直射日光からワニを守る日陰が十分にあり、細かく切った鶏肉を食べて元気に成長しているようです。
健康状態は一緒に生まれたオスと共に良好で、すでに体重約96グラム、体長49センチに達しているといいます。
マクヒュー氏によると、純白のワニは来年初めから一般公開をスタートし、それまでに兄弟のワニも含めて、正式な名前を決める予定とのことです。
名前はゲーターランドの公式facebookやYouTube上で募集しており、現時点で「ルーシー&リッキー(Leucie and Rickie)」「ソルト&ペッパー(Salt and Pepper)」「ライス&ガンボー(Rice and Gumbo)」などが候補に挙がっています。
皆さんも名前のアイデアを送ってみてはいかがでしょうか。
参考文献
The ‘Rarest Alligator in The World’Was Just Born in Florida
https://www.sciencealert.com/the-rarest-alligator-in-the-world-was-just-born-in-florida
Exceptionally rare white alligator born at Florida park
https://www.theguardian.com/us-news/2023/dec/08/white-alligator-florida-park-orlando
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。