空から舞い降りる白い雪。
その一粒一粒を拡大してみると、シンメトリックで美しい結晶になっているのはご存知でしょう。
どうしたらこんな宝石のような形になるのか、不思議で仕方ありません。
まさに自然の神秘を感じさせる現象です。
では、雪の結晶はどうやって生まれるのか。結晶にはどんな種類があり、その形状は何によって決まるのか。
また、これまでに確認された最も大きな結晶はどれくらいなのか。
ここでは「雪の結晶」にまつわる科学について紹介します。
目次
- 「雪の結晶」はどのように作られる?
- 結晶の形は「温度と湿度」で決まる?
「雪の結晶」はどのように作られる?
こんこんと降ってくる雪はすべて、上空に浮かぶ雲の中で作られています。
地上の海や川では常に水が蒸発しており、この水蒸気が上昇して集まったものが雲です。
雲の内部では水蒸気が大気中の小さなチリや微生物を芯にして集まり、地上から吹き上げてくる上昇気流によって、雲の上方に運ばれながら成長していきます。
そして氷点下の場所で冷えて、直径0.01mm〜数mmほどに固まったのが「雪の結晶」です。
この画像は単一の雪の結晶を写したものであり、英語圏では「スノウ・クリスタル(Snow Crystal)」と呼ばれます。
一方で、単一の雪の結晶が相互に集まり、上昇気流では支えきれない重さになって地上に落下してくるものが、いわゆる「雪」で、英語圏では「スノウ・フレーク(snowflake)」として区別されているようです。
ただ日本語でスノウ・フレークは「雪片」と訳され、単一の雪の結晶と、複数の結晶が集まって塊になった雪の両方を意味しています。
雪の結晶はなぜ「六角形」なのか?
意外と知られていませんが、実は雪の結晶を拡大してみると、すべて「六角形」が基本のパターンになっているのをご存知でしょうか。
どうして三角形でも四角形でもなく、六角形なのでしょう?
その理由は、雪の結晶のもとになる水分子にあります。
水分子(H₂O)は2つの水素(H)と1つの酸素(O)から成りますが、水分子の一つ一つは正四面体の形を取ります。
ところが、正四面体の水分子が相互に集まって氷になるときには、分子配列のルールにのっとって「六角形」がベースとなるのです。
つまり、六角形が水分子の集合にとって最も安定した形になります。
そしてこの六角形をベースとしながら、まわりに水蒸気がくっついて色々な形に成長していくため、雪の結晶はすべて六角形となるのです。
ただ六角形をベースにするとはいえ、雪の結晶にはたくさんの種類があります。
例えば、六角柱や扇状、針状、樹枝状、砲弾状、矛先状など実にバリエーション豊かです。
結晶の種類の一部をまとめたものがこちら。
実物の拡大写真の一覧はこちらのページからご覧いただけます。
では、こうした雪の結晶の形は何によって決まるのでしょうか?
結晶の形は「温度と湿度」で決まる?
これまでの研究で、雪の結晶の形には、それらが作られるときの「温度」と「湿度」が大きく関係していることが分かっています。
特に温度は結晶の基本形(平面型:Platesか柱状型:Columnsか)に影響し、湿度は結晶の形や模様の複雑さに影響します。
下の図を見てみましょう。縦軸は湿度、横軸は温度を示します。
これを見ると、0℃から−5℃くらいまでなら平面型で、−5℃から−10℃までなら柱状型、そこから−20℃くらいまでは再び平面型となり、また湿度が低いほど形や模様はシンプルで、湿度が高いほど複雑になることが分かります。
湿度が低いと結晶の材料となる水蒸気の量が少ないので、成長スピードがゆっくりになり、形もシンプルなものとなります。
反対に、湿度が高い(水蒸気量が多い)と、結晶の成長スピードも速く、形も枝状や針状と複雑になりやすいのです。
雪の研究者として世界的に有名だった中谷 宇吉郎(1900〜1962)は、雪の結晶を指して「天から送られた手紙である」と表現しました。
というのも、空から降ってきた雪の結晶の形を調べれば、上空の温度や湿度を含む気象状況が分かったからです。
それを彼は「天からの手紙」という詩的な言葉として残しました。
史上最も大きな「雪の結晶」はどれくらい?
雪の結晶は一般に直径0.01mm〜数mm程度なので、虫眼鏡や顕微鏡を使ってやっと美しい結晶が見れるほど小さなものです。
結晶同士が寄り集まることで数cm大の雪の塊になることはありますが、単一の雪の結晶そのものはそこまで大きくなりません。
仮定として手のひらサイズまで成長したとしても、結晶はとても繊細なので、地上に落下する途中で分解したり、他の雪とぶつかって簡単に壊れてしまうでしょう。
では、現時点で最も大きな「雪の結晶」のギネス記録はどれくらいなのか?
それは米カリフォルニア工科大学(Caltech)の物理学者で雪の専門家でもあるケネス・リブレヒト(Kenneth Libbrecht)氏が2003年12月30日に記録した直径10mmの樹枝状結晶です(Guiness World Records:Largest snow crystal)。
その実際の写真がこちら。
約1センチですから肉眼でも確認できるサイズであり、リブレヒト氏は「このモンスターは私の知る限り、これまでに撮影された中で最大の雪の結晶です」と話しています。
1センチだと頑張って探せばありそうな気もしますが、雪の結晶は非常に繊細であり、ちょっと人肌に触れるだけでもすぐに溶けてしまいます。
このように綺麗な形を保ったまま撮影して記録に残すのは至難の業なのです。
これから日本各地でも雪の降るシーズンですが、雪の溶けにくい氷点下の場所であれば、記録を塗り替える巨大な結晶が見つかるかもしれません。
参考文献
How big can snowflakes get?
https://www.livescience.com/planet-earth/weather/how-big-can-snowflakes-get
What’s the Largest Snowflake on Record?
https://a-z-animals.com/blog/whats-the-largest-snowflake-on-record/
SnowCrystals.com
http://www.snowcrystals.com/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。