世界人口の約16%は頭痛持ちだと言われています。
その原因は様々ですが、その中には、「赤ワインを飲むと頭痛が生じる」という人も少なくありません。
白ワインを含む他のアルコール飲料は大丈夫なのに、なぜか赤ワインを飲んだ後にだけ頭が痛くなるのです。
この「赤ワインの頭痛」の原因は諸説あり、これまでにもいくつかの仮説が提出されてきました。
そして最近、アメリカのカリフォルニア大学デービス校(UC Davis)ブドウ栽培・ワイン学部に所属するアンドリュー・L・ウォーターハウス氏ら研究チームは、「赤ワインの頭痛」を説明する新たな仮説を提出しました。
彼らによると、赤ワインに豊富に含まれるフラボノイド「ケルセチン」が原因となっている可能性が高いようです。
研究の詳細は、2023年11月20日付の学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。
目次
- 「赤ワインの頭痛」の原因は諸説あり
- 赤ワインで頭痛が起こる原因は「ケルセチン」かもしれない
- 白ワインでは頭痛にならない理由は?頭痛にならない赤ワインもある!?
「赤ワインの頭痛」の原因は諸説あり
通常、「赤ワインの頭痛」は、赤ワインを飲んだ後、30分から3時間以内に発生すると言われています。
このような傾向がある人は、たとえ赤ワインを一杯程度しか飲まなくても、頭が痛くなります。
白ワインや他のアルコール飲料を少量飲んだとしても影響はなく、なぜか赤ワインだけ問題となるのです。
これまで「生体アミン」「亜硫酸塩」などの成分が、「赤ワインの頭痛」の原因かもしれないと報告されてきました。
しかし、ウォーターハウス氏ら研究チームによると、「赤ワインの頭痛の主な引き金として、関連性が明確に示された化学成分は無く、頭痛を引き起こすメカニズムも提出されてこなかった」ようです。
そこで彼らは今回、赤ワインを飲むと頭痛が生じるメカニズムを改めて調査し、新しい仮説を提出しました。
赤ワインで頭痛が起こる原因は「ケルセチン」かもしれない
研究チームの新しい仮説によると、「赤ワインの頭痛」の原因は、フラボノイドの一種である「ケルセチン(またはクェルセチン)」だと考えられるようです。
ケルセチンは、ブドウの果皮だけでなく、タマネギ、ブロッコリー、リンゴなど、身近な野菜や果物に含まれており、抗酸化作用や抗炎症作用があります。
このようにケルセチンは、「健康的な物質」の1つとして挙げられますが、アルコール代謝においては問題があるようです。
ウォーターハウス氏によると、「ケルセチンが血流に入ると、体はケルセチンを、ケルセチン3-グルクロニドと呼ばれる別の形態に変換する」のです。
そして、「その形態ではアルコールの代謝を阻害」します。
ここで、アルコール代謝について考えてみましょう。
通常、アルコールが体内に取り込まれると、胃と小腸で吸収され、肝臓まで運ばれます。
肝臓に届くと、アルコールはまず「アセトアルデヒド」に分解されます。
次いでアセトアルデヒドは無害な「酢酸」へと分解され、最終的に「尿・汗・呼吸」として体外に排出されるのです。
このアセトアルデヒドは毒性の強い炎症性物質であり、吐き気や頭痛を引き起こすことで知られています。
多量の飲酒が悪酔いや二日酔いを引き起こすのは、アセトアルデヒドが分解されずに体内に長時間留まるからです。
そしてアルコール代謝が苦手な体質の人は、比較的少量の飲酒でも、体調を崩してしまいます。
実際、東アジア人の40%はアルコールを分解する酵素があまり機能せず、体内にアセトアルデヒドが蓄積しやすいようです。
ここまでくると、ケルセチンが頭痛を引き起こすメカニズムも理解できますね。
もともとアルコール分解が苦手な人が、アルコール分解を阻害する「ケルセチン」を含んだ赤ワインを飲むことで、アセトアルデヒドが体内により蓄積しやすくなるのです。
その人が頭痛持ちだった場合は、アセトアルデヒドの悪影響が特に頭痛として表れやすいでしょう。
つまり新しい仮説によると、「ケルセチン」と「アルコール」の組み合わせである赤ワインは、アルコールに弱い人や頭痛持ちの天敵だったと言えます。
白ワインでは頭痛にならない理由は?頭痛にならない赤ワインもある!?
では、どうして同じワインでも白ワインでは頭痛が生じないのでしょうか。
これには製造方法が関係しているかもしれません。
赤ワインには主に黒ブドウが使用され、果汁、果皮、種を一緒に発酵させて作ります。
一方、白ワインには主に白ブドウが使用され、果皮や種を取り除き、果汁だけを発酵させて作ります。
ケルセチンは、ブドウの果皮に豊富に含まれているため、果皮ごと使用する赤ワインだけが頭痛を生じさせるのかもしれないのです。
とはいえ、ウォーターハウス氏によると、ケルセチンの含有量は赤ワインの中でも大きく異なるようです。
彼によると、「ケルセチンは太陽光に反応して生成される」とのこと。
そして「房を露出させた状態でブドウを栽培すると、はるかに高いレベルのケルセチンが得られる。場合によっては4~5倍になることもある」と続けています。
加えて、スキンコンタクト(果皮を漬け込む作業)、清澄(透明度を上げる作業)、熟成など、赤ワインの製造方法によっても、ケルセチンのレベルは異なるようです。
このことを利用して、研究チームは今後、「ケルセチンを多く含む赤ワイン」と「ケルセチンをほとんど含まない赤ワイン」を比較し、今回の理論を検証する予定です。
もしかしたら近い将来、「頭痛を生じさせない赤ワイン」が特定されるかもしれませんね。
参考文献
Why Do Some People Get Headaches From Drinking Red Wine?
https://www.ucdavis.edu/health/news/why-do-some-people-get-headaches-drinking-red-wine
元論文
Inhibition of ALDH2 by quercetin glucuronide suggests a new hypothesis to explain red wine headaches
https://www.nature.com/articles/s41598-023-46203-y
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。