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ヒト脳は「1~4」までは正確に反応するが「5以上」では曖昧になっていた!


数の認識には「4」と「5」の間に大きな壁があるのかもしれません。

独ボン大学(University of Bonn)とテュービンゲン大学(University of Tübingen)の研究チームはこのほど、ヒト脳のニューロンが「1〜4」まではそれぞれの数に対応に反応することを発見。

一方で、それ以上の数に対しては「5以上」というくくりで反応するシステムになっていることを特定しました。

つまり、目の前に置かれたリンゴが4個までなら瞬時にその正確な数が分かるのですが、5個以上になった途端、一目では何個あるか分からず、識別に時間がかかり始めるようです。

研究の詳細は、2023年10月2日付で科学雑誌『Nature Human Behaviour』に掲載されています。

目次

  • 「一目で分かる数は4まで」は150年前に指摘されていた
  • 脳の数認識は「4以下」と「5以上」の2システムになっていた

「一目で分かる数は4まで」は150年前に指摘されていた

実は「4までなら瞬時に識別できる」という仮説は、今から150年以上前に、イギリスの経済学者であるウィリアム・スタンリー・ジェヴォンズ(William Stanley Jevons)により提唱されていました。

ジェヴォンズは独自の実験で、数字の4にまつわる興味深い発見をします。

ジェヴォンズ(1835~ 1882)
Credit: ja.wikipedia

彼は段ボール箱の中に黒豆をランダムに放り込み、それをチラ見しただけで数を正確に当てられるか実験。

これを1000回以上繰り返したところ、ある明確なパターンを見つけ出しました。

箱の中の黒豆が4個以下なら常に正確な個数を当てられたのに対し、黒豆が5個以上になるとチラ見での正答率が下がり始めたのです。

特に数が5より大きくなればなるほど、正答率も低下しています。

このことから彼は、人間が1〜4個までのものは、瞬時に正確な数を識別できる「スービタイジング(Subitizing:数の即座の認知)」をしており、数が5以上なら、なるべく近い数を推定する「エスティメイティング(Estimating:数の推定)」をしていると予想されました。

ジェヴォンズは1871年に自らの発見を科学雑誌『Nature』に発表しています。

赤玉は「スービタイジング」できるが、青玉は「エスティメイティング」に頼る
Credit: en.wikipedia

彼の発見は「数の認識」に関する大きな議論を巻き起こしましたが、この仮説を証明する脳内メカニズムはこれまで特定されていませんでした。

ところが本研究チームはついにそれを発見するに至ったのです。

脳の数認識は「4以下」と「5以上」の2システムになっていた

ジェヴォンズ以降、「数の認識」に関する研究は大いに進展しました。

最も大きな発見は、ヒト脳のニューロン(神経細胞)に特定の数に反応して発火する仕組みがあったことです。

例えば、2という数専門に反応するニューロンがあり、その数を認識すると発火し、脳スキャンでそのニューロンが光って見えるのです。

この仕組みはヒトの他にサルやカラスでも見つかっています。

ボン大学とテュービンゲン大学のチームは今回、これをさらに発展させて、ヒト脳のニューロンが特定の数を与えられた場合にどのように発火するかを実験することに。

ただしニューロン発火を正確に測定するには、脳内に電極を挿入する必要があるのですが、そのような侵襲的な方法を一般人に行うことは倫理的にできません。

そこでチームは、治療や診断のために元から電極を埋め込んでいる17名の「てんかん患者」に協力してもらいました。

彼らには、コンピューター画面上に1〜9までの数のドットを0.5秒間ランダムに提示し、その数がいくつだったか、あるいは偶数か奇数のどちらだったかを答えてもらいます。

ドットの表示例(過去の類似研究から抜粋)
Credit: Andreas Nieder et al., Nueron(2018)

これを何度も繰り返し、収集された801件のデータを分析したところ、驚くべき法則が見つかりました。

まずもって被験者は、1〜4までのドット数では識別にミスがなかったのに対し、ドット数が5以上になると識別にミスが増えたり、思考時間も長くなっています。

そしてニューロンを見てみると、ドット数4以下では特定のニューロンが選択的に発火し、それ以外のニューロンの発火を抑制していたのです。

例えば、ニューロン3が発火するとき、その前後の2や4は明確に沈黙していました。

そのおかげで被験者はドット数が3であることを一瞥しただけで判断できたのです。

ところが、ドット数が5以上になった途端、ニューロンの選択性がまったく機能しなくなっていました。

例えば、6が発火するとき、数を判断するニューロンはその前後の5や7にも発火が見られ、これは数が大きくなっていくほど曖昧になっていきます。

これにより被験者はドット数が6であることに確信が持てず、「おそらく6個だろう」という推定になり、識別のミスにつながっていたと考えられます。

これには、研究主任のアンドレアス・ニーダー(Andreas Nieder)氏も驚きを隠せませんでした。

こうした「数の認識」におけるニューロンの明確な境界線は、動物実験でも確認されたことがなかったからです。

この結果から、私たちの脳は数を識別する上で、「4以下」のスービタイジング(即座の認知)「5以上」のエスティメイティング(推定)という2つのシステムを持っていることが証明されました。

ジェヴォンズの人が1~4までしか正確に認識できないという仮説は、脳科学的に見ても正しかったのです。

どうして「4まで」は瞬時に認識できるのか?

他方で、この発見は「どうして人類は4以下の数を瞬時に見極めるよう進化し、5以上は推定に頼るようになったのか」という新たな疑問につながります。

当然ながら、数を瞬時に把握することは、あらゆる生物にとって生存に欠かせない能力です。

例えば、サルは木の中にある実の数と、それを奪い合うライバル集団の数をすばやく照らし合わせて、逃げるか闘うかを決める必要があります。

また原始時代の人類も捕食者が何頭いるかを瞬時に見極めて、戦闘か退避かを決めていたでしょう。

もしかしたら、その決め手に「4以下」と「5以上」が何らかの境界線として関係していたのかもしれません。

言語がないと人間は「4」までしか数えられない

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参考文献

Why the Human Brain Perceives Small Numbers Better https://www.quantamagazine.org/why-the-human-brain-perceives-small-numbers-better-20231109/ Perception Puzzles: Our Brain’s Unique Counting Methods https://neurosciencenews.com/number-perception-neuroscience-24906/

元論文

Distinct neuronal representation of small and large numbers in the human medial temporal lobe https://www.nature.com/articles/s41562-023-01709-3
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