最近、人型ロボットの存在がメディアを賑わすことが増えてきました。
そして多くの人は、等身大の人型ロボットが動いているのを目にする度に、未来の世界では人間とともに多くの人型ロボットが共に生活している情景を思い浮かべるかもしれません。
しかし実のところ、「人間の代わりに働くロボット」は人型である必要は全くなく、シンプルな構造でありながら人間の暮らしをサポート可能な高性能ロボットが登場しています。
ドイツのフラウンホーファー物流・ロジスティクス研究所(Fraunhofer IML)が開発した自律型運搬ロボット「evoBOT」は2輪のシンプルなロボットですが、最大100kgの荷物を運ぶことができます。
初期の人型ロボットが目指している「運搬作業」に関して言えば、既に人型ではない作業ロボットが器用にこなしているのです。
もしかしたら、未来の光景としてよりリアルなのは、「evoBOT」のような作業ロボットが多く用いられる社会であり、人型ロボットの存在は少ないのかもしれません。
目次
- 人型ロボットに求められている役割りとは?
- 自律型運搬ロボット「evoBOT」は「初期の人型ロボットの目標」に到達している!?
人型ロボットに求められている役割りとは?
人型ロボットに関するニュースはメディアを大いに盛り上げます。
最近では、カリフォルニアに拠点を置く「Figure」というスタートアップ企業が、多用途の人型ロボットを開発していることで話題になりました。
では、これら人型ロボットはどんな目的で開発が続けられているのでしょうか。
Figure社のCEOであるブレット・アドコック氏が、科学メディア「NEW ATLAS」に語ったことからすると、人型ロボットは研究開発か商業用のどちらかの目的で作られている場合が多い、ということです。
例えば、ボストン・ダイナミクス社は研究開発グループであり、飛んだり跳ねたりできる高性能人型ロボット「Atlas」の開発を続けていますが、これは「人間の代わりに働く」ことよりも、二足歩行ロボットの性能を向上させるための実験的側面が強いようです。
SF映画に出てくる「人間と同レベルの人型ロボット」を作るには、こうした研究の積み重ねが必要不可欠でしょう。
一方、商用目的で開発される人型ロボットは、多くの場合、人間の役に立たなければいけません。
そしてクライアントたちは、実際に人間と一緒に、もしくは人間の代わりに働く人型ロボットを要求しています。
では、「人間の代わりに働く人型ロボット」は、近い将来、どんな仕事を行えるようになるのでしょうか。
アドコック氏は、「物を拾い上げたり、置いたりする作業、つまり、トラックから荷物を降ろして再び積み上げ、注文に応じてピッキングし、パレットに載せる、といった作業なら行えるようになるはずだ」と述べています。
こうした需要はもっとも高いため、荷運びに特化したロボットこそが商用ロボット市場を席巻することになると予想されます。
初期の「働く人型ロボット」の目指すところは、結局のところ「荷物運び」なのです。
では、その仕事をあえて人型ロボットに行わせる必要はあるのでしょうか?
実は、物を運搬するという目標は既に別のロボットが達成しており、人型ロボットに任せることは、現実的ではないかもしれません。
自律型運搬ロボット「evoBOT」は「初期の人型ロボットの目標」に到達している!?
フラウンホーファー物流・ロジスティクス研究所(Fraunhofer IML)が開発した自律型運搬ロボット「evoBOT」は、非常にシンプルな構造ながら、運搬ロボットとして高いレベルを実現しています。
伸縮可能な2本の足の先には車輪がついており、この車輪でスムーズに移動したり、荷物を抱えながらもバランスを保ったりできます。
また自動ロック式の2本のリフティングアームは、重い荷物を挟み込んで持ち上げるだけでなく、回転するグリッパーによって荷物を意図的に傾けたり、水平に保ったまま上げたり降ろしたりできます。
将来、人型ロボットは人間と同じように、5~6km/hで歩き、約20kgの荷物を運ぶことができるかもしれません。
しかしevoBOTは、現時点でその基準をクリアしています。
それどころか、10倍速い60km/hで走り、単独で3倍重い65kgの荷物を持ち上げることができます。
また他の人が積み込みを手伝うなら、最大100kgの荷物を運ぶことさえできます。
加えてevoBOTは、「荷物を持ち上げて運ぶ」以上の作業も器用にこなします。
例えば、「水やり」「ケーブルの巻取り」「人間から小物を受け取る」ことも難なく行えます。
しかもevoBOT自身の重量は40kgと人間よりも軽く、バッテリー充電で最大8時間も動作します。
このように「evoBOT」が現時点でできることを考えると、人間の代わりに働くロボットは、人型である必要が全くないように思えます。
仮にあと数年で人型ロボットがこれらの機能を備えたとしても、その時には、evoBOTのような作業ロボットは、もっと便利で多くの仕事をこなしているでしょう。
よく将来のイメージとして「人間の周りで人型ロボットが働いている」様子が描かれますが、実は、evoBOTのようなロボットがたくさん働いているイメージの方が、よりリアルなのかもしれません。
しかもこれら非人型のロボットは、『スター・ウォーズ』の「R2-D2」や、ロボット掃除機「ルンバ」のように、どこか可愛らしさも持ち合わせており、ペットの変わりのような役割も担う可能性があります。
私たちが欲しているのは、高額な高性能人型ロボットではなく、可愛らしくて役に立つシンプルな作業ロボットたちなのかもしれませんね。
参考文献
Fraunhofer’s high-speed logistics robots may steal humanoids’thunderhttps://newatlas.com/robotics/fraunhofer-evobot-o3dyn/
Figure’s Brett Adcock on the practicalities of humanoid robot workers
https://newatlas.com/robotics/figure-brett-adcock-interview-practicalities-humanoid-robot-workers/?itm_source=newatlas&itm_medium=article-body
evoBOT –The evolution of autonomous mobile robotic systems
https://www.iml.fraunhofer.de/en/fields_of_activity/material-flow-systems/iot-and-embedded-systems/evobot.html