時速63万5266km、これはこの度、NASAのパーカー太陽探査機が実際に叩き出した人類史上でも最高の速度です。
この速度は秒速にすると176.74kmであり、1時間で地球をおよそ15周もできる速度です。
あまりにも速く、なかなかイメージしづらいスピードですが、東京-大阪間を約2.8秒で移動できると考えると、そのとてつもない速度が伝わるかもしれません。実に新幹線の約2118倍の速さということになります。
地球を周回している人工衛星は、速いものでもそのスピードは約秒速8km、時速にすると2万8800kmで、パーカー太陽探査機の約22分の1ほどです。
パーカー太陽探査機は、どのような仕組みで時速63万5266kmという速度を手に入れたのでしょうか。
また、それまでの最高速度はどれくらいのものだったのでしょうか。
目次
- パーカー太陽探査機とは
- 金星の重力を利用したスイングバイ
パーカー太陽探査機とは
NASAのパーカー太陽探査機(Parker Solar Probe)は、太陽の外部コロナ(太陽の外層大気の最も外側にあるガスの層)の直接観測を目的とし、2018年8月12日にアメリカ東部宇宙ロケットセンターより打ち上げられました。
パーカー太陽探査機のミッションでは太陽の極めて近くまで接近する必要があり、約600万キロメートルまで太陽に近づく計画をもとにその軌道が考えられました。
また、この探査機は地球軌道の約520倍という太陽からの強烈な熱放射と放射線を耐える必要があります。このため、約1400℃までの熱を防ぐ特製の耐熱シールドが正面に装備されており、主要な機器は、直射日光を避けるためこのシールドの影に配置されています。太陽への接近時には冷却用の流体を用いて温度を適切に維持します。
そんなパーカー太陽探査機は、2023年9月27日、17回目の太陽周回で時速63万5266kmという速度を打ち立てたのです。
しかし、具体的にはどのようにしてその驚異的な速度を得たのでしょうか。
それには金星の存在が関わってきます。
金星の重力を利用したスイングバイ
スイングバイとは、宇宙探査機が惑星や月の近くを通過することで、その天体の重力を利用して速度を増減させる技術です。
探査機は天体の近くを通過する際、その天体の運動エネルギーの一部を取得、または放出することで、自身の速度や進行方向を変えることができます。この方法は、探査機の速度を調整するための推進剤を節約するために広く利用されています。
これはハンマー投げの競技で鉄球をぐるぐる回して遠くへ飛ばすのと似た原理です。
パーカー太陽探査機は太陽に接近するにあたり、太陽の重力に引っ張られて太陽に落下しないようにするため、その速度を上げる必要がありました。
そのために金星の重力を利用してこのスイングバイを複数回行い、速度を上げていったのです。
なお、2021年11月21日に10回目の太陽周回した際には時速58万6864kmでした。
ちなみに、パーカー太陽探査機以前の最高速度は、同じく太陽探査を目的とし西ドイツとNASAが共同で1976年に打ち上げたヘリオス2号が2011年に記録した時速25万2792kmです。
速度だけでなく太陽との距離も記録的
パーカー太陽探査機が驚異的なのはその速度だけではありません。
上述したようにこの探査機は約600万キロメートルまで太陽に近づく計画を元に作られており、今回の接近では太陽の726万km上空まで近づいています。
2018年10月29日の1回目の接近時では、太陽から約4300万kmを通過したことから考えると、太陽との距離も徐々に近づいていることがわかります。
パーカー太陽探査機は全部で24回の太陽周回が予定されており、その都度太陽に近づいていく予定です。
2024年11月には、再度金星を利用したスイングバイを経て、翌月12月に太陽上空から620万km以内にまで接近する予定です。
そして、この時には、また最高速度が更新されると考えられています。
パーカー太陽探査機には、太陽のコロナと太陽風の謎を解明するという人類にとって重要なミッションが与えられています。
残り7回の太陽周回で、太陽のどのような情報を私たちにもたらしてくれるのか、そしてどれだけ加速するのか今から楽しみですね。
参考文献
Probe Blazes New Record For The Fastest Thing Ever Made by Humanshttps://www.sciencealert.com/probe-blazes-new-record-for-the-fastest-thing-ever-made-by-humans