恋愛心理には多くの謎があります。
その一つに、「自分と似た人に惹かれるのか」それとも「自分とは異なる人に惹かれるのか」という謎があります。
明るくて元気な女性が、内向的で影のある男性に惹かれるとか、スラリと背が高い人が小柄なふっくらさんを好むとか…。
人々の興味関心の的となってきたこの謎に、研究は一つの答えを出してきました!
研究によれば、実際、ほとんどの人は自分とよく似た人とカップルになる傾向があることが示されました。
研究の詳細は、2023年8月31日付の『 Nature Human Behavior』誌に掲載されています。
目次
- 心理学における「男女の惹かれあい」に関する研究
- データは「正反対の相手が引き合うことは殆どない」と語る
- 「似たような人を選ぶ傾向」が次世代に与える影響
心理学における「男女の惹かれあい」に関する研究
「相反するものは互いに引き合う」とはよく言われることですが、一方で「似た者同士の方が惹かれ合う」と考える人もいます。
このテーマは心理学においても、長きにわたり研究され、議論が交わされてきました。
たとえば、カークホフとデイビスは、私たちがパートナー候補を絞り込む方法を「フィルター理論(The Filter Theory)」を使って説明しました。
この理論では、私たちは一連のフィルターを使って、ふさわしい候補者を絞り込むことで、恋愛相手を選ぶと説明します。
最初のフィルターは社会的属性(物理的な近さ、教育のレベル、社会階級、宗教など)、2番目のフィルターは態度の類似性(信念や価値観)、最後のフィルターはニーズの補完性です。
この理論は、他の研究によっても支持されています。たとえば、ウィンチら(Winch, Ktsanes and Ktsanes)は1955年発表の論文で、興味、態度、性格特性の類似性が関係の初期には不可欠である一方、相補性が長期的には不可欠であることを発見しました。
一方で、アンダーソン(Anderson)らは2003年発表の論文で、カップルは交際当初から類似しているのではなく、時間の経過とともに類似性が高まることを示唆しています。
このように男女の惹かれあいにおける類似性と相反性の理論は様々にありますが、心理学研究を概観すると、類似性を重視する仮説に一貫して支持が集まっています。
今回ご紹介する研究でも、「似ている人同士が引き合う」という結果が示されました。
数百万組のカップルの情報を含む大規模データを使用した調査において、研究者らは「パートナーは共有している特徴を持つことが多い」という結果を引き出しました。
宗教心や政治的学習などの深い価値観、喫煙や性行為などの経験も含め、パートナーは最大89%の特徴を共有していたそうです。
一方で、個人は自分とは異なる人とパートナーを組む傾向は、3%しかみられないことも示されています。
データは「正反対の相手が引き合うことは殆どない」と語る
米国コロラド大学ボルダー校(University of Colorado at Boulder)の研究者らは、人々が恋愛関係や結婚をする際に、どれだけ似た特性を持つ人々と結びつくかを調査しました。
研究は2つの分析から成っています。
一つは、過去の199の研究論文から480のデータを収集して、様々な角度から統合したり比較した分析です。ここでは、心理学、社会学、人類学などでよく研究される22の特性についてパートナー間の類似性を調査しました。
もう一つは、英国の大規模データベースを使用し、79,074組のカップルの133の異なる特性に関する類似性の分析です。
いずれの研究も、対象となったカップルは男女の組み合わせでした。
IQも悪癖も〜似たような人を選ぶ私たち
その結果、分析した特徴の82%から89%において、パートナーは類似している可能性が高いことが明らかになりました。
どちらの分析でも、政治的・宗教的態度、教育レベル、IQの特定の尺度といった特徴が特に高い相関を示していました。
薬物使用にまつわる特徴も高い相関を示し、ヘビースモーカー、大酒飲み、無趣味の人は、同じような習慣を持つ人とパートナーとなる傾向が強くみられたそうです。
一方、身長や体重、病状、性格特性などの特徴は、低いながらも正の相関を示していました。
性的パートナーの数や、子供の頃に母乳で育てられたかどうかといったマイナーな特徴についても、ある程度の相関関係が見らました。
ちなみに、カップルが最も類似しやすい特徴は、生まれ年だったそうです。
外交的な人は内向的な人を好むわけではない
ところが、外向性のような特性については、まったく相関がみられませんでした。
「外向的な人は内向的な人が好きだとか、外向的な人は他の外向的な人が好きだとか、いろいろな説がありますが、実際のところは、外向的な人は同じように外向的な人と結ばれる可能性が高いのです」とホーウィッツは言う。
「朝型」と「夜型」は引き合うことがある
分析の結果、研究者たちは、「異なった人同士が引き合う」という言説について「説得力のある証拠はない」と結論づけています。
負の相関関係があると思われた特性は、聴覚障害、心配性、クロノタイプ(「朝型」か「夜型」か)という3つの特徴だけだったそうです。
「似たような人を選ぶ傾向」が次世代に与える影響
研究者らは、私たちの「似たような人を選ぶ傾向」が次世代に与える影響について、次のように述べています。
「例えば、背が低い人が同じく背が低い人と結びつき、背が高い人が背が高い人と結びつく場合、次の世代では身長の両極端な人が増える可能性が考えられます。
精神医学的、医学的、またはその他の特性についても同様の傾向が見られるでしょう。」
さらに、社会的な影響も考えられると研究者たちは指摘します。同じような教育背景を持つ人とパートナーを組む可能性が高まれば、社会経済的な格差が拡大する可能性があるのです。
実際、アメリカでは同じような教育背景を持つ人とカップルになる傾向が強まっているとする報告もあります。
研究者らはこの研究が、より良い形で、学問分野を超えたさらなる研究のきっかけになることを期待しています。
「私たちは、皆さんがこのデータを用いて独自の分析を行い、人々がどのような関係を築くのか、その背景にある理由についての知見を深めていただけることを願っています」
参考文献
News flash: Opposites don’t actually attract | CU Boulder Today | University of Colorado Boulder https://www.colorado.edu/today/2023/08/31/news-flash-opposites-dont-actually-attract元論文
Evidence of correlations between human partners based on systematic reviews and meta-analyses of 22 traits and UK Biobank analysis of 133 traits | Nature Human Behaviour https://www.nature.com/articles/s41562-023-01672-z