血圧の高さが気になって「運動しよう!」と思い立っても、いきなりランニングやウエイトトレーニングを始めるのはハードルが高いものです。
そんな中、英カンタベリー・キリスト・チャーチ大学(CCCU)の研究が、老若男女を問わず、誰でも簡単にできる「アイソメトリック運動」が血圧の低下に効果的であることを発見しました。
またアイソメトリック運動は、難易度別に種類が豊富なため、自分の体力と相談しながら柔軟にメニューを変えられます。
さらに研究者によると、この運動は血圧低下の他にも様々な健康効果が期待できるとのことです。
では、アイソメトリック運動とはどんなものなのでしょうか?
研究の詳細は、2023年7月25日付で医学雑誌『British Journal of Sports Medicine』に掲載されています。
目次
- アイソメトリック運動とは?
- アイソメトリック運動で血圧は下がる!
アイソメトリック運動とは?
アイソメトリック運動とは、日本語で「等尺性筋収縮」を意味します。
これは一言でいうと、ある特定の筋肉を収縮させた状態のまま動かさずに一定時間、保持する運動のことでプランクという名前でも有名です。
この運動のイメージとしては、よく腕相撲が例に挙げられます。
腕相撲では相手との腕の力が拮抗している場合、腕の筋肉が収縮した状態でピタッと動きが止まります。
このように筋肉の長さが変わることなく力が加わった状態が等尺性筋収縮であり、アイソメトリック運動のベースとなる考えです。
また初級・中級・上級に合わせて、豊富なメニューが揃っています。
ここではリストの一例を紹介しましょう。
初級レベル
まず初級では、体幹を鍛えるプランクの簡易バージョンがおすすめです。
「ストレイトアーム・プランク」では、両手をまっすぐ床につき、両足を揃えてつま先を立て、背中から腰、足首にかけて一直線になるように保持します。
このとき、おへそを背中側に引き絞るイメージを持つといいでしょう。
また、この状態から両肘と両膝を床につき、膝から下の足を少し浮かせば「ニー・プランク」となります。
続いては「ショルダー・ブリッジ」です。
仰向けになり、両足を肩幅に開いて膝を立て、そのまま腰を浮かします。
胸からお腹、膝までが一直線になるようにキープしましょう。
背筋や腰の筋肉を鍛えて、姿勢の悪さを改善できます。
初級では他にも、中腰の状態で両手を前に伸ばしキープする「スクワット・ホールド」などがあります。
中級レベル
中級の最初は一般的な「プランク」です。
両肘を肩からまっすぐ床に立てるまではニー・プランクと一緒ですが、ここでは両膝をつけずに、つま先を立てて上体をキープします。
背中を反ったり、お腹が下に落ちないように注意しましょう。
続いて「サイド・プランク」です。
横向きになって左右どちらかの肘を床に立て、頭からつま先までまっすぐになるようキープします。
左右両方を行うことで、お腹の横側の筋肉(腹斜筋)がバランスよく鍛えられるでしょう。
ただし肩への負担が大きな動作ですので、肩まわりに問題のある方は別のメニューをおすすめします。
次は「ストレイト・ブリッジ」です。
仰向けの状態で両手を肩からまっすぐ床につき、胸からお腹、足先までが一直線になるようにキープします。
ここでは背中から腰、ハムストリングス(お尻の付け根〜太ももの裏側)にいたる背面の筋肉が全体的に鍛えられます。
上級レベル
最後に上級の一つ目は「ウォール・シット」です。
壁に背中をつけ、両足を少し前に出した状態でゆっくりと腰を沈めていきます。
中腰になった辺りで姿勢をキープしてください。
太ももの表側に大きな負荷がかかる強度の高い動作です。
次は「ホロウ・ボディ」です。
仰向けの状態で両腕を後ろにまっすぐ上げ、両足をお腹より少し上に浮かします。
腹部への強い負荷がかかる動作で、腰への負担が大きいので、腰痛持ちの方は別メニューを選びましょう。
それから「スーパーマン・ホールド」です。
うつ伏せの状態で両腕と両足を少し浮かせて、スーパーマンのような姿勢をキープします。
これにより、腰まわりの筋肉を有効に鍛えることが可能です。
上級では他に、ストレイトアーム・プランクの両手を顔より大きく前方の位置で固定し負荷を高める「エクステンデッド・プランク」などもあります。
具体的なメニュー
アイソメトリック運動の具体的なメニューとしては、このリストから自分の体力に応じて2〜3個を選び、初級者であれば1回の動作で10秒間キープ、中級者であれば20〜30秒キープ、上級者であれば30秒から最大2分キープ。
計2分間でワンセッションとし、休憩を挟みながらこれを2〜4セット行います。
ここで大切なのは「フォームを崩さない」ことと「呼吸を忘れない」ことです。
フォームが崩れると筋肉の長さが変わって効果が得られませんし、呼吸を止めたまま力を入れ続けると血圧が逆に上がってしまいます。
そして研究チームは今回、アイソメトリック運動が血圧低下にどれほど効果があるかを調べました。
アイソメトリック運動で血圧は下がる!
本調査では、合計1万5000人を超える被験者を対象とした270件のランダム化比較試験(対象者を2つ以上のグループにランダムに分けて運動の効果を検証する)が検討されました。
この実験では、計2分間のアイソメトリック運動を4セット行い、各セットの間には1〜4分間の休憩時間が設けられています。
その結果、顕著な血圧低下が表れたのは、1週間に平均3回のアイソメトリック運動を行ったときであると判明しました。
被験者に見られた血圧低下は、標準的な降圧薬(血圧を下げる薬剤)を服用している人と同程度のものだったとのことです。
また全体として心臓や血管系、自律神経系の機能改善も見られ、アイソメトリック運動が心血管疾患のリスク低下に役立つことが示されました。
アイソメトリック運動が血圧の低下につながった理由として、研究主任のジェイミー・エドワーズ(Jamie Edwards)氏は、筋肉を収縮させた状態で保持すると一時的に血管が圧迫されるが、これが解除されて筋肉が弛緩すると、血管への血流量が増加して血の流れが良くなるからと説明しています。
さらにアイソメトリック運動には、血圧低下の他にも様々な健康メリットがあるようです。
アイソメトリックで得られる健康効果とは
まず一つ目は「ケガの予防」です。
例えば、私たちは膝や足首の関節の動きを安定させるために靭帯を使っていますが、その周りの筋肉が衰えていると、靭帯に過剰な負担がかかり、損傷の原因となってしまいます。
前十字靭帯の断裂はその一例です。
しかしアイソメトリック運動で周囲の筋肉を鍛えることで靭帯にかかる負荷を減らし、大きなケガの予防につながります。
二つ目は「筋肉バランスの改善」です。
私たちには利き腕や利き足があるため、左右どちらかの筋肉群がもう片方より強く発達し、全身の筋肉バランスが悪くなることが多々あります。
これはサッカーやバレー、バスケットなど、左右どちらかの体をより多く使うアスリートにもよく見られるものです。
しかし筋肉バランスの悪さはケガのリスクを高めることにも繋がるため、楽観視できません。
そこでアイソメトリック運動により、弱い側の筋肉部位を狙って鍛えることで、筋肉バランスの改善が期待できます。
それからアイソメトリック運動は「リハビリにも打ってつけ」です。
ランニングやウエイトトレーニングのような高強度の運動とは違い、静止した状態で筋肉の収縮と弛緩を繰り返すため、ケガ明けの運動には最適です。
痛みと相談しながらメニュを変えることも可能ですし、また自分の体力に合わせてメニューを選べるため、運動未経験者でも気軽に取り組むことができます。
他にも「時間効率の良さ」や「日常生活に必要な身体機能の向上」など、アイソメトリック運動には多くのメリットがあります。
自分で好きなメニューを作って習慣化することで、健康で丈夫な体が手に入れられるかもしれません。
参考文献
Scientists Reveal The 2 Best Exercises to Lower Blood Pressure https://www.sciencealert.com/scientists-reveal-the-2-best-exercises-to-lower-blood-pressure The isometric secret: 15 ways to get much fitter – without moving a muscle https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2023/aug/08/the-isometric-secret-15-ways-to-get-much-fitter-without-moving-a-muscle元論文
Exercise training and resting blood pressure: a large-scale pairwise and network meta-analysis of randomised controlled trials https://bjsm.bmj.com/content/early/2023/07/02/bjsports-2022-106503