野良猫の体内には、人類の知らない脅威が潜んでいるようです。
英ケンブリッジ大学病院(CUH)はこのほど、イギリス在住の男性が野良猫に噛まれた後、科学的に未知の細菌に感染したことを報告しました。
男性の患部は複数回噛まれた数時間後にパンパンに腫れ上がり、強い痛みを伴ったという。
いくら可愛いとはいえ、野良猫に安易に触れるのは注意が必要かもしれません。
研究の詳細は、2023年6月14日付で医学雑誌『Emerging Infectious Diseases』に掲載されています。
目次
- 野良猫による咬傷であらわれた症状
- 科学的に「未知の細菌」と判明!
野良猫による咬傷であらわれた症状
イギリスに住む48歳の匿名男性は2020年、道端をうろついていた野良猫に触れた際に両手の複数箇所を噛まれました。
これまでの研究で、野良猫は人獣共通感染症の一般的な感染源であることが分かっており、猫の咬傷には注意が必要です。
男性も噛まれたことで有害細菌が体内に混入したと見られ、咬傷から8時間後に患部が大きく腫れ上がりました。
その後すぐに救急病院に駆け込み、傷口の洗浄と消毒、包帯による応急処置と破傷風の予防注射を受けています。
それから抗生物質を処方されて家路につきました。
これで一件落着かと思いきや、患部の症状はさらに悪化し、男性は翌日に再び病院へ戻ることになったのです。
そのとき、男性の左手の小指、右手の中指、左の前腕、右の手の甲から手首にかけてが、激痛とともに赤くパンパンに腫れ上がったといいます。
原因不明の感染症の可能性があると見て、医師たちは傷口まわりの皮膚サンプルを採取し、分析にかけることに。
男性への処置としては、3種類の抗生物質を静脈注射し、加えて経口での抗生物質の服用を追加しました。
その5日後、幸いにも男性の症状は治まり、現在では後遺症もなく全快しているとのことです。
一方で、医師チームには男性の症状の原因を突き止める仕事が残されていました。
科学的に「未知の細菌」と判明!
チームが皮膚サンプルに含まれていた微生物を分析したところ、レンサ球菌によく似た細菌の単離に成功しています。
レンサ球菌はグラム陽性球菌に属し、肺炎や咽頭炎、創傷、皮膚感染症、敗血症、心内膜炎など、多くの疾患の発症原因となる細菌です。
ところが単離した細菌のゲノム配列を解読した結果、過去に記録されているどのレンサ球菌の菌株とも一致しないことが判明したのです。
これは明らかに科学者が正式に記録したことのない新しい細菌でした。
その後の調査で、この細菌はグラム陽性球菌の中のグロビカテラ(Globicatella)という、レンサ球菌とは別属に分類される細菌グループの一種であることが特定されています。
それでも細菌のゲノム配列は、グロビカテラ・サルフィドファシエンス(G.sulfidfaciens)のような他の近縁株とも約20%ほど異なっていました。
G.サルフィドファシエンスは、いくつかの典型的な抗生物質に耐性があるため、体内から根絶することが難しい細菌として知られています。
今回見つかった新種は幸運にも、追加で処方した一部の抗生物質によく反応しましたが、この症例報告は私たちにとって無視できない警告を与えているでしょう。
医師らは「今回のケースは、いまだ発見されていないヒト病原性の細菌種の貯蔵庫として、野良猫が重要な役割を果たしていることを強調している」と指摘しました。
つまり、安易に野良猫に触って噛まれたりでもすると、特効薬が存在しないような未知の細菌に感染する危険性があるのです。
また噛まれるだけでなく、爪で引っ掻かれたり、あるいは元々あった傷口を舐められるのも注意しなければなりません。
医師らは「もし野良猫に噛まれたた場合は、すぐに傷口を石鹸や塩で優しく洗い流し、医師の診察を受けるべきです」と述べました。
道端でのほほんとしている野良猫を見かけると、ついつい撫でたくなりますが、くれぐれも反感だけは買わないように気を付けてください。
参考文献
Man Bitten by Stray Cat Contracts Infection Unknown to Science https://www.sciencealert.com/man-bitten-by-stray-cat-contracts-infection-unknown-to-science元論文
Soft Tissue Infection of Immunocompetent Man with Cat-Derived Globicatella Species https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/29/8/22-1770_article