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都会では「地下の温暖化」が起きていると判明!建物が不安定になる危険も?


都市部で通勤している人なら、地下鉄構内のうだるような暑さに辟易としているかもしれません。

実際、温暖化しているのは地上ばかりではないようです。

このほど、米ノースウェスタン大学(Northwestern University)の研究で、都市部のインフラが排出する熱が地中に拡散し、地下の温度を上昇させていることが明らかになりました。

さらに地下温度の上昇で地形が変化することで、建物や交通システム、橋などの耐久性に影響を及ぼす可能性もあるという。

同じ現象は世界中の大都市で起こっているとみられ、地中からジワジワと建物を蝕んでいるかもしれません。

研究の詳細は、2023年7月11日付で科学雑誌『Communications Engineering』に掲載されています。

目次

  • なぜ大都市では地下温度が上昇しやすい?
  • 地下の温度上昇は都市にどんな影響をもたらすのか?

なぜ大都市では地下温度が上昇しやすい?

なぜ大都市では地下温度が上昇しやすい?
Credit: canva

専門家らは数十年前から、都市部の地下で温暖化が起き始めていることに気づいていました。

彼らが「地下の気候変動(Underground Climate Change)」と呼ぶこの現象は主に、ロンドンやニューヨークの他、アムステルダム、イスタンブール、南京、ベルリンなどの大都市で記録されています。

地下の温度が上昇すると、地下水の汚染や熱中症の増加が起こることが懸念されています。

また、土壌が乾燥して収縮を起こすため、地盤が変形したり沈下する恐れもあります。この影響は特にたくさんのインフラが集まる大都市ほど、高いリスクに繋がると予想されます。

というのも地下を温める熱は、地上のビル群や駐車場、地下鉄、都市部を縦横に走る電線、地中のパイプラインなどによって放出されるからです。

しかし、都市部の地下温度上昇と地形変化の関連性については、まだあまり理解されていません。

そこで今回の研究チームは、地下の温度上昇と地盤の変形の関連を調査し、都市の地下ヒートアイランドが土木構造物やインフラストラクチャー(建物の基礎、土留構造物、その他の地下構造物や設備など)の性能に及ぼす、潜在的な危険性について調査を行ったのです。

地下の温度上昇は都市にどんな影響をもたらすのか?

今回の研究では、米イリノイ州にあるシカゴ・ループ地区をモデルケースとして調査を行いました

ループ地区は市中心のダウンタウンを走る高架鉄道や地下鉄が集まる場所で、地下温度への影響も強いと考えられます。

調査では、ループ地区の地上と地下に150機以上の温度センサーを設置し、3年間にわたってデータを収集しました。

ループ地区の3Dモデル(色の付いた点は温度センサーの設置場所)
Credit: Northwestern University –The ground is deforming, and buildings aren’t ready(youtube, 2023)

その結果、ループ地区全体の地下温度は年間に約0.14°Cずつ上昇していることが判明しています。

また、北側の高層ビル群がより密集したエリアの方が、南側の建物がまばらなエリアに比べて、地下温度の上昇率が大きいことも分かりました。

このため地区全体では、地下温度の平均値に約1〜15°Cの開きがありましたが、温度上昇の大きい地域では、土壌の収縮により地盤の高さに8〜12mmの変位を生じさせていました

研究主任のアレッサンドロ・ロッタ・ロリア (Alessandro Rotta Loria) 氏は「数ミリというと小さく聞こえるかもしれませんし、都市の建物はある程度の柔軟性に耐えられるように設計されています」と指摘。

しかしその上で「古い建物や強度の低いインフラでは、地形の変化の影響を受ける可能性が十分にある」と述べています。

地下は層状になっているが、土壌の種類によっても変形率は変わるという
Credit: Northwestern University –The ground is deforming, and buildings aren’t ready(youtube, 2023)

さらにチームは温度上昇率のモデルをもとに、ループ地区の1951年〜2051年までの温度変化をシミュレーションしてみました。

下の図は、1951年・2022年・2051年の各時代における3つの深さの地下温度を表しています。

1つ目は地下10メートルの柔らかい土壌、2つ目は地下17.5メートルの硬い土壌、3つ目は地下23メートルの最も硬い土壌です。

これを見ると、地表に近い場所ほど年を追うごとに温度が高まることがよく分かります。

1951年〜2051年の地下温度の変化率をシミュレート
Credit: Alessandro Rotta Loria et al., Communications Engineering(2023)

ロリア氏は「こうした温度上昇と地形変化によって建物が今すぐに倒壊することはない」といいます。

ただし地形の変化が長期にわたると、建物の基礎部分への負担やひび割れを引き起こす可能性はあるでしょう。

その一方で、今回の発見は「地下の熱を役立てるチャンスにもなる」と研究者らは指摘します。

地下熱をエネルギー源としてリサイクルする!

地下温度の上昇は確かに都市インフラへの脅威となりますが、研究者は「地下熱を役立てる潜在的なチャンスでもある」と見ています。

なぜなら、さまざまな都市インフラから排出された熱を回収することで、地下の気候変動を緩和すると同時に、未開発の熱エネルギー源としても再利用できるからです。

実際にロンドン北部イズリントン地区では数年前から、地下鉄で発生した排熱を再利用して、家庭や企業に送り込み、暖房として活用するプロジェクトが進められています。

地下鉄の排熱をリサイクルする
Credit: canva

このように「地下熱リサイクル」は実現可能なアイデアであり、地下の気候変動を緩和しながら、都市インフラのエネルギー源にできる可能性があります。

現在は冬場の熱の利用が想定されているだけですが、地下の温度上昇の影響や詳しい温度変化の分布が理解されれば、影響の大きい夏場の熱の利用法などについてもいいアイデアが提案されるかもしれません。

今後の世界の都市部では、この地下熱リサイクルを計画に入れた都市開発が必要となっていくでしょう。

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参考文献

‘Underground Climate Change’Threatens to Destabilize Buildings https://www.sciencealert.com/underground-climate-change-threatens-to-destabilize-buildings The ground is deforming, and buildings aren’t ready https://news.northwestern.edu/stories/2023/07/the-ground-is-deforming-and-buildings-arent-ready/ Underground line to heat up north London homes https://www.bbc.com/news/uk-england-london-49482840

元論文

The silent impact of underground climate change on civil infrastructure https://www.nature.com/articles/s44172-023-00092-1
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