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「ほくろから太い毛が生えやすい」問題がハゲ治療のカギになる!


ほくろからニョロっと生える毛を見つけた経験はありませんか?

迷惑なほどに元気な太い毛は、なぜほくろから生えてくるのでしょう?

米国カリフォルニア大学アーバイン校の研究者らは、皮膚にある「ほくろ」の内部の分子が、毛髪の成長を活性化する重要な役割を果たしていることを発見しました。

さらに研究者たちは、この分子をハゲた頭皮に注入することで、休止期にある毛包を再び活性化できる可能性も示唆しています。

研究の詳細は、2023年6月21日付の科学誌『Nature』に掲載されました。

目次

  • 老化細胞が発毛促進に関与していた
  • 分子注入による毛髪再生が可能になるかもしれない

老化細胞が発毛促進に関与していた

最近発表された研究により、皮膚母斑(別名「ほくろ」)に存在する「オステオポンチン」と「CD44」という2つの分子が、ほくろに生える長くて太い毛の成長を促進させる原因であることが明らかになりました。

「ほくろ」は、色素細胞(メラノサイト)が、 皮膚の一部に集まって形成される母斑の一種です。

ただし「ほくろ」と一言で言っても、その種類は様々で、中には老化色素細胞(老化メラノサイト)が多く存在し、「長くて太い」毛がフサッと生えるものもあります。

論文の筆頭著者であるワン博士はこの「長くて太い毛を生やすのが上手いほくろ」に、以前から魅了され続けていたそうです。

「人の体にできる「ほくろ」で、毛が成長しやすいという不思議な現象に興味がありました。

そこで私たちは、なぜ「ほくろ」に毛が生えやすいのか、そしてその現象をどの遺伝子がコントロールしているのかを調べることにしたのです」とワン博士は語っています。

研究チームはまず、人間の肌にほくろをつくるのと同じ遺伝子変異を持つマウスモデルを作りました。そして、通常の皮膚と「毛深いほくろ」を比較し、「毛深いほくろ」は発毛サイクルが短いことを発見しました。

通常の皮膚と「毛深いほくろ」との主な違いは、老化した色素細胞の数でした。そこで研究者らは、老化した細胞が毛の成長を促進する分子を放出している可能性があると考え、マウスとヒトのほくろの皮膚サンプルを用いて、これらの細胞がどのように機能するのかを調査しました。

b, ほくろの発毛促進をを引き起こすメカニズムの模式図。
Credit: Xiaojie Wang  et al. ,Nature(2023)

結果、老化した色素細胞は、オステオポンチンと呼ばれるシグナル伝達分子を大量に生成し、周りにある毛幹細胞にははこれに反応するCD44という受容体分子を持っていることが判明しました。

オステオポンチンとCD44が分子レベルで相互作用すると、毛幹細胞が活性化され、毛髪がしっかりと成長することがわかったのです。

このプロセスを確認するため、オステオポンチンとCD44を取り除いたマウスモデルを作製したところ、ほくろの毛の成長が著しく遅くなったことも確認されました。

オステオポンチンは、傷の治癒、組織の再生、骨の強化など、体の他の部分でも重要な役割を果たしていることが以前から知られていました。

しかし、これが毛の成長に関与していることが示されたのは、今回が初めてです。

分子注入による毛髪再生が可能になるかもしれない

本研究のもう一つの注目点は、老化細胞が「若返り」にも影響することを示したところにあります。

老化細胞は、細胞分裂が停止し、もはや活性化しないにもかかわらず、炎症を促進したり再生を阻害するなどの悪影響を及ぼす可能性のある細胞です。

しかし、毛髪にとっての老化細胞は、オステオポンチンを生成することで、元気で若々しい毛髪の成長を助ける存在になっているようなのです

「私たちの研究では、老化した色素細胞がオステオポンチンと呼ばれる特定のシグナル伝達分子を大量に産生することを発見しました。このシグナル伝達分子は、休眠状態の毛包の幹細胞を活性化し、毛髪を健康的に成長させるのです」と、本研究に参加したプリクス教授は語っています。

老化細胞は通常、再生に有害であり、全身の組織に蓄積することで老化プロセスを促進すると考えられていますが、本研究は、細胞の老化には良い面もあることを明確に示しています

将来は分子を注入する治療が開発されるかもしれない。
Credit: Canva

プリクスは、オステオポンチンを毛を作らなくなった古い毛根の周囲に注射することで、眠っていた幹細胞が再び活性化し、加齢とともに頭部にできるハゲが再生するのではないかと考えています。

カリフォルニアを拠点とするバイオテクノロジー企業であるアンプリフィカ社は、本研究から着想を得た脱毛治療薬の臨床試験を開始する予定だと発表しています。

将来は、ボトックス注射を打つように、頭皮の毛包オステオポンチンを細い針で打ち込む治療が一般的になるかもしれません。

なお、オステオポンチンが「ほくろ」をつくるわけではないので、これを注入する治療を行ったとしても、頭が一つの巨大なほくろになってしまう心配はないそうです。

研究者は今後について「さらに詳しいことが分かれば、その情報を利用して、老化細胞の特性を標的とした新しい治療法を開発し、一般的な脱毛を含む幅広い再生疾患を治療できる可能性があります」と語っています。

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参考文献

UC Irvine-led researchers reveal new molecular mechanism for stimulating hair growth – UCI News https://news.uci.edu/2023/06/21/uc-irvine-led-researchers-reveal-new-molecular-mechanism-for-stimulating-hair-growth/

元論文

Signalling by senescent melanocytes hyperactivates hair growth https://www.nature.com/articles/s41586-023-06172-8
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