リラックスタイムに音楽を聞いて過ごすという方も多いのではないでしょうか?
ヒーリングミュージックなどの音楽は人間の自律神経に作用し、副交感神経を優位にして体をリラックスさせる効果があります。
また、音楽は知覚される痛み、不安、ストレスの軽減につながることが報告されており、人間の医療現場ではすでに音楽の活用が始まりました。
このメカニズムは動物に対しても有効であると考えられており、音楽を使ってペットの動物病院におけるストレスを減らすべく様々な研究が行われています。
今回はその中でも音楽がネコに及ぼすリラックス効果に関する研究を解説するとともに、ネコがリラックスできるように作られたネコ専用のヒーリングミュージックについてご紹介します。
目次
- 避妊手術中のネコに対する音楽の影響
- ネコが好きな音を集めたネコ専用の音楽
避妊手術中のネコに対する音楽の影響
ポルトガルのアンジョス・オブ・アシス獣医医療センター(CMVAA)の研究チームはネコに対する音楽の影響を調査するため、全身麻酔下のネコに対して様々な音楽を聞かせる実験を行いました。
この研究は『Journal of Feline Medicine and Surgery18号』に2015年3月30日付けで掲載されています。
聞く音楽による呼吸数と瞳孔径の変化を調査
聞かせる音楽の種類はクラシック、ポップ、パンクロックの3つで、ネコがリラックスしている状態にあるか調べるために呼吸数と瞳孔径の変化を調査しました。
呼吸数と瞳孔径が少なくなるほど副交感神経が優位で、リラックスした状態であると考えられます。
実験は避妊手術を受けるメスのネコ12匹に対して行われました。
全身麻酔により意識を失っている中、耳にヘッドフォンを装着し、2分間音楽を聞かせて呼吸数と瞳孔径を測定しました。
クラシック音楽で最もリラックスしている状態に
調査の結果、ネコたちはクラシックを聞いたとき最も呼吸数も瞳孔径が小さくなりリラックスした状態になりました。
逆にパンクロックを聞いたときには呼吸数も瞳孔径も大きくなり、ポップスではクラシックとパンクロックとの中間程度の値です。
我々人間もクラシックを聞くと落ち着いた気持ちになり、パンクロックを聞くとテンションが上がります。
人間用に作られた音楽ですが、ネコにも同様の影響があると考えると、音楽というのは人間だけのものではなく、動物の本能に響いているのかもしれません。
一方で、動物には幼少期に聞く親の鳴き声など人間とは別の「落ち着く音」があります。
ネコの場合、喉の鳴らすゴロゴロ音などがそれにあたるでしょう。
そんなネコが落ち着く音を集めて音楽を作ったらどうなるのでしょうか?
ネコが好きな音を集めたネコ専用の音楽
国立交響楽団のソリストであるデイビッド・テイエ氏は動物科学者と協力してネコ専用の音楽「Music For Cats」を制作しました。
私も公式サイトから試聴してみましたがネコの喉を鳴らすときのような音や、おっぱいを飲むときのような音が心地よいメロディーとともに流れてきて、人間にとっても癒しを感じる楽曲です。
我が家にはネコが2匹いますが、パソコンで再生すると不思議そうに画面を眺め、しばらく聞き入っていました。
リラックスしているかどうかまではわかりませんでしたが、ネコにとって興味がある音であることは間違いないようです。
ネコ専用の音楽は動物病院での緊張をやわらげる?
アメリカ、ルイジアナ州立大学獣医学部(School of Veterinary Medicine, Louisiana State Universit)の研究チームはこの「Music For Cats」がネコのストレスにどのような影響を及ぼすか調査しました。
この研究は『Journal of Feline Medicine and Surgery20号』に2019年2月12日付けで掲載されています。
音楽を聞かせるタイミングは動物病院で検査を始める前の10分間とし、「Music For Cats」とクラシックに加え、無音の場合についても調査が行われました。
それぞれのネコのストレス値は検温などを含む一通りの身体検査を終えたあとの血液検査によって測定しました。
ネコのストレス緩和と1つとして「音楽」は有効
調査の結果、「Music For Cats」を聞かせたネコはクラシックや無音の場合よりストレス値が有意に低くなりました。
人間の病院でもストレス緩和の一環として処置室や手術室で音楽を流すところは多いようですが、動物病院にもBGMとして「Music For Cats」のようなネコ専用の音楽を用いることで、ストレス緩和につながる可能性があります。
今回はネコに関する研究を紹介しましたが、イヌもまた音楽に対して人間と同じような影響を受けることがわかっています。
このため、今後はイヌ専用のヒーリングミュージックについても研究が進むかもしれません。
病院は動物にとって精神的負担が非常に大きいもの、動物に合ったBGMを流すだけでストレス緩和ができるならどんどん取り入れて欲しいものですね。
参考文献
Can Music Make Cats Less Stressed? https://avsab.org/can-music-make-cats-less-stressed/元論文
Influence of music and its genres on respiratory rate and pupil diameter variations in cats under general anaesthesia: contribution to promoting patient safety https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1098612X15575778 Effects of music on behavior and physiological stress response of domestic cats in a veterinary clinic https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1098612X19828131