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同じ一日に閉じ込められる!?不思議な疾患「既体験(デジャ・ヴェキュ)」とは?


『Re:ゼロ』や『涼宮ハルヒのエンドレスエイト』など、古今のアニメでも人気の高い、同じ日を延々と繰り返すシチュエーション。

現実に時間がループすることはありえませんが、ループする世界に閉じ込められたと錯覚する不思議な症状は現実に存在するようです。

豪ロイヤル・プリンス・アルフレッド病院(RPAH)はこのほど、80代男性に起きた「毎日が同じ出来事の繰り返しに感じる」という珍しい症例を報告しました。

それによると、男性は身の周りに起こるすべての出来事が”過去に体験したもの”として認識されるようになったという。

これはデジャヴュのような感覚が長期間持続する「既体験(déjà-vécu:デジャ・ヴェキュ)」と呼ばれる現象だといいます。

研究の詳細は、2023年5月16日付で科学雑誌『BMJ Case Reports』に掲載されています。

目次

  • 1日がループし続ける世界に閉じ込められた男性
  • 「既体験(デジャ・ヴェキュ)」を発症していた

1日がループし続ける世界に閉じ込められた男性

この珍しい症例は、今から約4年前に男性が異常行動を起こし始めたことで発覚しました。

というのも男性は、電子書籍リーダーのメーカーやテレビの技術者に執拗にクレームを入れるようになったのです。

診察を担当した医師が話を聞いてみると、男性は「電子書籍リーダーが故障して、同じ読み物が何度も出てくるようになった」とか「テレビを見ると、いつも同じニュースが流れてくるようになった」と話したといいます。

しかし、男性が使っていた電子書籍リーダーを確認しても故障はしておらず、ちゃんと違うタイトルの本を提示しており、テレビは当然同じニュースを流したりしていません。

つまり、男性は新しく見るもの、聞くものをすべて”過去に経験したもの”として認識していたのです。

見るもの、聞くもの全てが経験済み?
Credit: canva

男性は自身の苦境についてこう語っています。

「毎日が前日の繰り返しで、テレビを見るたびに同じことが繰り返されています。

どこに行っても同じ人が道端にいて、同じ人が乗った同じ車が通る。同じ人が同じ服を着て、同じバッグを持ち、同じことを言いながら車から降りてくる。

私の周りでは何も新しいことが起きないのです」

彼に起きたこの不思議な症状は一体何なのでしょうか?

「既体験(デジャ・ヴェキュ)」を発症していた

既体験は同じ日が繰り返されているように感じる
Credit:canva

研究者によると、これは一般に知られる「既視感(デジャ・ヴ)」とは別の「既体験(déjà-vécu:デジャ・ヴェキュ)」と呼ばれる現象だといいます。

既視感が一瞬の感覚であるのに対し、既体験は現在の持続する状況がすべて同じことの繰り返しに感じる奇妙な現象です。

新しく出会った人や物までが過去に経験したものとして認識されてしまいます。

さらに既体験を持つ人はしばしば、自分の身に起きる異常な認識を正当化するために、妄想や強迫観念に似た行動を取るようになります。

この男性を例に取ると、「自分が同じニュースを見ているのは誰かが同じ放送を繰り返しているからではないか」と考えクレームを入れるなどです。

こうした事実とは異なる虚偽の説明を付けることを、専門的に「回想における作話(Recollective Confabulation)」と呼びます。

研究者は「既体験は一般に、回想における作話の発症によって症状が複雑化する」と指摘します。

「妄想や強迫観念が悪化すると周囲や社会との葛藤が続き、家庭や仕事での要求を満たすことができず、抑うつ障害や精神病などの二次的な病気をもたらすこともあるのです」

既体験は非常に稀ですが、1896年に最初の症例が医学的に記載されて以来、何度も報告されています。

正確な原因はまだ分かっていませんが、これまでのところ、アルツハイマー病を含む神経変性疾患の患者によく散見されるという。

神経変性疾患とは、脳や脊髄の神経細胞が徐々に失われて、認知症や運動障害を発症する病気です。

男性は年齢的にも認知症の疑いがあるため、この点を調べてみました。

アルツハイマー病による合併症の可能性

脳スキャンの結果、男性は左側頭葉と前頭葉の活動が異常に低くなっていることが分かりました。

側頭葉は視覚や聴覚、言語の記憶に関与し、前頭葉は、生活をする上で必要な情報を整理し、行動を開始または抑制する機能を司ります。

さらに認知テストでは、記憶力や言語能力の機能低下が見られ、2つの別々の話を1つの話であるかのように混同する傾向がありました。

また脳と脊髄を包んでいる脳脊髄液(CSF)を検査した結果、認知症の原因としても知られる「タウタンパク質」の濃度が髄液中で非常に高くなっていました。

以上の結果から研究者は「これらはアルツハイマー病を発症している兆候であり、男性の症状はアルツハイマー病のまれな合併症として現れた可能性が高い」と結論しています。

アルツハイマー病による合併症の可能性も
Credit: canva

男性は症状の発症から4年が経過していますが、認知テストのスコアは初診時よりも低下していました。

また医師チームは男性に対してアルツハイマー病の免疫療法を試みましたが、残念ながら改善の兆しは見られていません。

男性は現在も既体験の症状に悩まされていますが、それでも医師の診断を受けながら、一人で自立した生活を続けているとのことです。

男性がいつか新しい一日を迎えられることを祈ります。

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参考文献

‘Groundhog Day’syndrome made a man feel like he was reliving the same events https://www.livescience.com/health/alzheimers-dementia/groundhog-day-syndrome-made-a-man-feel-like-he-was-reliving-the-same-events Rare Syndrome Leaves Man Living In “Groundhog Day”https://www.iflscience.com/rare-syndrome-leaves-man-living-in-groundhog-day-69092 デジャヴュと記憶 : ベルクソンと現代の記憶哲学(福岡大学) https://fukuoka-u.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=5492&item_no=1&page_id=13&block_id=57

元論文

Déjà vécu with recollective confabulation: an unusual presentation of Alzheimer’s disease https://casereports.bmj.com/content/16/5/e255411
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