近未来を扱ったSF映画やゲームには、生体認証付きの銃が度々登場してきました。
そしてこの技術は、今や現実のものとなっています。
アメリカ・コロラド州を拠点とするスタートアップ企業「バイオファイアー・テクノロジーズ(Biofire Technologies)」が、顔認証と指紋によるロック機能を備えたスマートガンを発表し、アメリカで予約注文が開始されたのです。
これによって銃の誤った使用を防ぎ、特に子供たちの命を守ることができるかもしれません。
目次
- 銃乱射事件をきっかけに「生体認証付きのスマートガン」が生まれる
- 「生体認証付きスマートガン」は世界に広がるか?
銃乱射事件をきっかけに「生体認証付きのスマートガン」が生まれる
生体認証システムを備えたスマートガンは、SFの世界で登場してきました。
例えば、戦術アクションゲーム「メタルギアソリッド4」でも、生体認証付きの銃が存在する世界が描かれています。
「MGS」は当初、システム上の事情から敵が持っている銃や落とした銃をつかえないという制約があった。当時のリニアのシューターでは落ちている武器をとって進むものもあった。「MGS2」では、敵兵の銃はID登録されているのでプレイヤーは使えないという仮設定を置いた。「MGS4」ではそれを物語設定に。 https://t.co/NPtROY6XrD
— 小島秀夫 (@Kojima_Hideo) January 19, 2022
そしてこの度、現実世界でも、バイオファイアー社によってスマートガンが開発され、販売されようとしています。
バイオファイアー社の創業者兼CEOのカイ・クレプファー氏の狙いは、アメリカの銃乱射事件の連鎖に一石を投じることです。
2012年、アメリカ・コロラド州の都市オーロラにある映画館にて、銃乱射事件が発生しました。
24歳の青年が映画の銃撃シーンに併せて、所持していた拳銃、ライフル、ショットガンを観客に向けて乱射。12人の死亡者と58人の負傷者を出したのです。
当時高校生だったクレプファー氏は、乱射事件のあったオーロラから車で30分のところに住んでいました。
この事件がきっかけで、彼は銃器の事故や不正使用を防ぐ生体認証ロックシステムのアイデアを考え始めました。
やがてクレプファー氏は、アメリカの経済紙『フォーブス』が毎年発表している30歳未満の特筆すべき人物の一覧「フォーブス30アンダー30」にも選出され、その後3000万ドル(約40億円)の資金を調達することにも成功しています。
そしてオーロラ銃乱射事件から10年以上経った2023年に彼のアイデアは実現することになったのです。
「生体認証付きスマートガン」は世界に広がるか?
バイオファイアー社が発表したこのスマートガンは、近未来的なフォルムの9mm拳銃です。
そして光学式指紋センサーと3D赤外線顔認証の2種類の生体認証システムが備わっており、登録された真の所有者のみが発砲できるようになっています。
ユーザーがスマートガンを握るとその中指の指紋をスキャンし、同時に銃の後部でユーザーの顔を確認できるのです。
クレプファー氏は、「大切なのは、常にロックがかかっていることと、即座に使用できることだ」と述べており、ユーザーが触れるとスマートガンは即座に反応し、生体認証システムを通して認証を行うようです。
購入を希望している人は、「従来の銃を金庫に入れておくよりは、即座に使用できるスマートガンを近くに置いておくほうが良い」とその利点を認めています。
スマートガンは正規のユーザーが持っている間はロックが解除された状態を維持します。
ユーザーの手が離れるとミリ秒単位でロックがかかるため、誰かにスマートガンを奪われても不正使用される心配はありません。
現在、バイオファイアー社のスマートガンは1500ドル(約20万円)で予約注文を受け付けており、2024年に出荷される予定です。
非営利団体「Gun Violence Archive」によると、アメリカでは2023年の最初の4カ月だけで、既に1万3900人が銃によって亡くなっています。
では、こうしたスマートガンの取り組みで、本当に銃による死亡事故を減らせるのでしょうか?
バイオファイアー社は、「アメリカでの銃を使った自殺の3分の2を防げる。2018年であれば、2万2000人の命が救われたはずだ」と主張していますが、誇張された分析だと感じる専門家もいるようです。
とはいえアメリカでは自殺の半数に銃が使用されているため、確かに親の銃を使って自殺する子供は減ることでしょう。
また銃の誤使用で亡くなる子供も減少するはずです。
それでも一社からスマートガンが発売されるだけでは、銃乱射事件を無くすことはできません。
社会全体からスマートガン以外の銃器を排除できるなら一定の効果が得られるはずですが、現状では夢物語のようにも思えます。
「生体認証付きの銃」は今やSFではありませんが、「生体認証付きの銃だけが許可された世界」は、未だにSFの領域です。
バイオファイアー社が投じた一石の波紋が、今後アメリカ全土や世界に広がっていくのか、それとも無かったことになるのか、結果は近いうちに判明するでしょう。
参考文献
Is this the future of gun safety? World’s first ‘Smart Glock’with facial recognition and fingerprint unlock to launch for $1,500https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-12047111/Worlds-Smart-Glock-facial-recognition-fingerprint-unlock-launch-1-500.html