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母親のお腹の中にいる「胎児の脳手術」に世界で初めて成功!


赤ちゃんの外科手術は、生まれる前に病気が発覚したとしても、基本的には出産後に行われます。

中には妊娠子宮を開いて直視下に手術をする場合もありますが、母子への負担やリスクが非常に大きいです。

しかし米ボストン小児病院(BCH)とブリガム・アンド・ウィメンズ病院(BWH)の医療チームは先日、お腹の中にいる状態の胎児に対して脳手術を行い、見事に成功したことを発表しました。

胎内にいる赤ちゃんへの脳外科手術が実施されたのは世界初とのことです。

研究の詳細は、2023年5月4日付で医学雑誌『Stroke』に掲載されています。

目次

  • 脳内の動脈と静脈が直につながってしまう病気に
  • 胎内にいる赤ちゃんの外科手術に初成功!

脳内の動脈と静脈が直につながってしまう病気に

米ルイジアナ州在住のケニヤッタ・コールマンさん(Kenyatta Coleman)は昨年、36歳で4人目を妊娠し、幸せの最中にありました。

ところが妊娠30週目に超音波検査を受けた際、胎内の赤ちゃんの脳に異常があることが発覚したのです。

医師の診断で下されたのは「ガレン静脈奇形(vein of Galen malformation : VOGM)」という病気でした。

エコー(超音波)検査で撮影された胎児の画像
Credit: American Heart Association –In first in-utero brain surgery, doctors eliminated symptoms of dangerous condition(2023)

これは簡単にいうと、脳のある部分で動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接つながってしまい、血管のかたまり(専門的にはナイダスと呼ぶ)ができてしまう先天性疾患です。

正常な胎児では、動脈と静脈の間の毛細血管が血圧を下げるクッションとして働きます。

しかし毛細血管がないと動脈の血流がそのまま静脈に流れ込むため、血圧が高くなり、薄い血管の壁を破りやすくなるのです。

そうなると脳出血くも膜下出血といった命にかかわる症状が起こってしまいます。

無事に生まれてきたとしても、血流異常から心臓や肺に大きな負担がかかり、心不全肺高血圧症(心臓から肺へ血液を送る血管の血圧が高くなる病気)の発症率も高まるのです。

従来の治療法は?

この病気は一般に「血管内塞栓術」という方法で治療されます。

これは胎児が生まれた後に、カテーテルを脳内の患部に挿入し、動脈と静脈の結合部に液体状の塞栓物質を注入して固めることで、異常な血流を遮断するというものです。

新生児にも比較的負担の少ない方法とされていますが、それでも出産後では手遅れになるケースが多いといいます。

また研究主任のダレン・オーバック(Darren Orbach)医師は「手術に成功した場合でも重度の神経的および認知的な障害が残りやすい」と話します。

そこで研究チームは、胎児が母親のケニヤッタさんのお腹にいる状態で、血管内塞栓術を世界で初めて行うことにしました。

胎内にいる赤ちゃんの外科手術に初成功!

手術は今年3月15日、ケニヤッタさんの妊娠34週と2日の時点で実施されています。

医師団はまず、超音波ガイドで胎児の姿勢をモニタリングしながら、頭が母体の腹壁に向いていることを確認する必要がありました。

さらにその位置から動かれてはまずいので、頭が最適な位置に来たときに少量の麻酔を注射して胎児の動きを止めています。

そこからチームはケニヤッタさんの腹壁から細い針を刺し、胎児の頭まで慎重にカテーテルを通し、脳内の患部まで挿入。

血管内塞栓術と同じ方法で、動脈と静脈の間の異常な血流を遮断し、血圧が正常値まで低下するのを確認しました。

A手術前の患部、B静脈内を通るカテーテル(青矢印)、C塞栓後の正常な血流
Credit: Darren B. Orbach et al., Stroke(2023)

これは胎内の胎児に対する世界初の手術の成功例とのことです。

そして2日後の3月17日、手術を受けた胎児は元気な女の子として無事に産声を上げています。

女児はデンバー・コールマン(Denver Coleman)ちゃんと名付けられました。

母親のケニヤッタさんは「初めて泣き声を聞いた瞬間は言葉にならないほどの感動を味わいました」と話しています。

後遺症もなくスクスクと元気に成長中

無事に生まれたデンバーちゃん(CBS Bostonより抜粋)
Credit: CBS Boston –Boston doctors perform groundbreaking brain surgery on baby still in womb(youtube, 2023)

研究主任のオーバック氏は「術後から6週間が経過した時点で、女児は驚くほど順調に成長している」と説明。

「他の赤ちゃんと同じようによく食べ、よく寝て、体重も増えており、脳への悪影響も見られず、薬の服用もしていません」と続けています。

出生後のエコー(超音波)検査でも心拍数は正常でした。

数週間は病院で見守られていましたが、何らの異常も見られないので、現在はすでに自宅の家族の元に帰っているとのことです。

オーバック氏は最後にこう話しました。

「今回の胎内手術は世界初の成功例であり、ガレン静脈奇形の治療におけるパラダイムシフトとなる可能性を秘めています。

私たちは今後、同じ病気を抱える胎児にも普遍的に手術を行えるよう、手術の効率や安全性を向上させていくつもりです」

全ての画像を見る

参考文献

Doctors performed brain surgery on a baby before she was born and now she’s thriving https://edition.cnn.com/2023/05/04/health/brain-surgery-in-utero/index.html In first in-utero brain surgery, doctors eliminated symptoms of dangerous condition https://newsroom.heart.org/news/in-first-in-utero-brain-surgery-doctors-eliminated-symptoms-of-dangerous-condition?preview=597c

元論文

Transuterine Ultrasound-Guided Fetal Embolization of Vein of Galen Malformation, Eliminating Postnatal Pathophysiology https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STROKEAHA.123.043421
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