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魚なのに、なぜ水から出ちゃうの!?飛ぶ魚「トビウオ」の秘密


トビウオ(飛魚)と言えば「飛ぶ魚」として、誰しもご存知かと思います。英語名も、その最大の特徴のまま「flyingfish」と言います。

跳ねる程度の魚は他にもいますが、トビウオほど長い距離を飛ぶ魚はおらず、独自の進化を遂げた魚と言えます。

存在こそ有名なトビウオですが、では一体なぜ飛ぼうと思ったのでしょうか? そして、なぜ飛べるのでしょうか? 

その理由を知る人は少ないでしょう。今回はそんな「トビウオ」の秘密に迫ります。

目次

  • トビウオと人間との関わり
  • 3種のヒレを使い、飛行している
  • 航空力学の分野からも魅力的なトビウオ

トビウオと人間との関わり

トビウオの卵「とびっこ」の軍艦寿司
Credit:写真AC

トビウオは、ダツ目トビウオ科の魚の総称で、太平洋、インド洋、大西洋の亜熱帯~温帯の海に生息し、世界中や日本全国で見られるメジャーな存在です。

沿岸部の表層付近を泳いでいることが多く、世界で50種ほど確認されています。また、体長はどれも約30cm程度です。

人との関わりとしては、古くから食用として親しまれてきました。

日本人なら誰しも、寿司ネタの「とびっこ」をご存知でしょう。これは正にトビウオの卵です。

成魚も食されてきた文化があり、旬である夏~秋には一部のスーパーに並べられる時もあります。脂肪分が少なく、刺身、塩焼き、フライに向いているとされます。

また、近年「アゴ出汁」がブームとなっており、ラーメン店などでも見かけるようになりました。アゴとは何の魚かご存知でしょうか?そう、アゴとは九州、山陰地方、関西地方でのトビウオの別名なのです。

トビウオが、飛びたい理由とは?

トビウオの天敵の一種である大型魚類「マグロ」
Credit:パブリックドメイン

当然のことですが、魚類が酸素を取り込むための器官「エラ」は、水中に僅かに溶けている酸素を取り込むことに特化しています。よって、水中から出れば窒息死してしまいます。

ではトビウオは、なぜ水の外にでようとするのでしょう。

短時間とはいえ、飛行中の彼らは窒息死のリスクと戦っていることになります。そのリスクを冒してまで、彼らが飛びたい理由とは、何なのでしょうか?

トビウオが飛ぼうとする理由として最も有力なのは「外敵から逃げるため」というものです。

表層を泳ぐトビウオは、マグロ、カジキ、サバ、シイラなどの大型魚類に水中から狙われることがあります。これらの大型回遊魚は泳ぐのがとても速いため、水中で追いかけっこをすればトビオウは簡単に捕食されてしまいます。

では、「水面下には敵、上には空中」という絶体絶命の状態で、トビウオはどうするのでしょうか?

そう、彼らは敵の目をくらませるために、決死のジャンプをするのです。マグロなどにしてみれば、余裕で仕留められると思ったトビウオが突然水中から消えるのですから、この戦術は有効だと言えそうです。

また、夜間の照明など、何かに驚いた際にトビオウが飛ぶこともあります。船のエンジン音に驚いて、誤って船の上に飛び込んでしまうケースも報告されています。飛行能力があるばっかりに、残念な最期を遂げてしまうこともあるようですね。

では水中の生き物であるトビウオは、具体的にどうやって空を飛んでいるのでしょうか?

3種のヒレを使い、飛行している

海面を飛ぶトビウオ
Credit:パブリックドメイン

トビウオはどうやって飛んでいるのでしょうか? それは、胸ビレ、腹ビレ、尾ビレを上手に使っているためになります。

トビウオは、飛ぶ前にまず水中で十分に加速します。十分なスピードが出た後は、尾ビレで水面を叩いて飛び上がります。

この行動で推進力を得た後は、胸ビレをグライダーの翼ように使って、揚力を得ます。一部のトビウオでは腹ビレは退化しているものの、腹ビレで空気の流れを変えることにより、揚力を向上させることもできます。

また、ヒレの棘の間にある膜「ヒレ膜」も頑丈な作りをしているため、飛行中の大きな空気の抵抗にも耐えられるようになっています。

見た目のイメージから「発達した胸ビレだけが役に立っている」と思われがちですが、他の部位も飛行に貢献していたのですね。

では、その飛ぶ高さ、距離、速さ、時間、道筋などはどうなっているのでしょうか?

1度の滑空で飛ぶ高さは約3m、距離は約80mほどですが、水面に近づくと再び尾ビレでジャンプすることができます。

そのため連続の合計距離では、約300mも連続して飛んだことが確認されています。いくら天敵から逃げるとは言え、そんなに長い距離を飛んでしまって、窒息死したり、体が乾燥したりしないのでしょうか?

それは、トビウオが飛ぶ速度に関係があります。速さは時速約60kmにもなると言われており、これはツバメやヒヨドリなど、一部の鳥よりも速い速度になるのです。

つまり、飛行距離と速さから計算すると、飛行時間は最大でも約50秒程度になります。「思ったより速い!」のではないでしょうか?

また、急停止、方向転換をすることも可能です。空中には鳥という天敵もいますし、窒息死するリスクもあるため、このように進化したようですね。

このトビウオのヒレは生後約2週間から大きくなるため、稚魚でも飛ぶことが可能です。

幼い頃から、トビウオは魚界の「ジャンプ名人」と言えそうですね。

航空力学の分野からも魅力的なトビウオ

体が軽いため、飛行できる

軽くて空を舞うものの例
Credit:写真AC

ヒレ以外にも、トビウオが飛ぶことができる理由があります。それは、「体の軽さ」「体の形」が関係しています。

まず、当然体は軽くないと飛ぶことができません。

トビウオは、そもそも消化しやすい甲殻類の大型プランクトン、カニ、多毛類の幼生などを食べます。無胃魚であり腸も直線的で短いため、すぐに消化して排泄をします。

ちなみに、身近なメダカ、サンマ、イワシなども無胃魚です。プランクトンなどの小さな生物を食べる魚に多く、決して魚界としては珍しい構造ではありません。

つまり、食べ物を体内に長時間溜め込まないようになっているため、体重を軽く保てるのです。また、「体に余計な脂肪が無いこと」も軽量に貢献しています。

お陰で、私達人間にとっては「脂っこくない美味しい食べ物」としても認識されているのは、何とも皮肉ですね。

鳥類と同じように、「骨密度が低いこと」も、軽量化に一役買っているようです。

軽量ということだけでなく、その体型にも秘密があります。

見た通り細長い円筒形をしていますが、これは空気の抵抗を減らすことに貢献しています。航空機や新幹線のようなフォルムをしていることにも、理由があったのですね。

トビウオの飛行メカニズムの、人間社会への応用

トビウオの飛行メカニズムを、産業へ利用できる可能性
Credit:写真AC

科学技術分野には、「自然界の物を模倣して、人間社会の産業に利用しよう」という「ネイチャー・テクノロジー」という分野があります。

特に、生物を模倣して産業機械を作ることを「バイオ・ミミクリ―」と言い、その学問分野を「バイオ・ミメティクス」と呼びます。

この分野で有名な例としては、古くはレオナルド・ダ・ヴィンチが鳥の飛翔の様子を観察して、飛行機械を設計した話などがあります。

このバイオメミティクスが、トビウオに関しても期待されています。

既に「良く飛ぶ紙飛行機」や「浮いて走る乗り物」の研究の際には、トビウオを含む様々な生物の飛行システムが参照されているのです。

今後、航空機など何らかの乗り物に、トビウオの飛行システムが応用されるかもしれません。

もしも、水面スレスレを飛ぶ乗り物などが開発された際には、きっと我々は食用として以外にもトビウオに感謝するのかもしれませんね。

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参考文献

トビウオの滑空のしくみ, 岡山県立図書館 http://digioka.libnet.pref.okayama.jp/detail-jp/id/ref/M2021031216214611814 トビウオ、銀ビレで大海原を翔ける魚, マルハニチロ https://umito.maruha-nichiro.co.jp/article93/ よく飛ぶ紙飛行機Ⅶ ~飛ぶ力と尾翼の形~, 静岡大学教育学部附属浜松中学校1年 https://gakusyu.shizuoka-c.ed.jp/science/sonota/ronnbunshu/R2/202051.pdf よく飛ぶ紙飛行機Ⅸ ~滑空生物の翼と飛ぶ力~,静岡大学教育学部附属浜松中学校3年(PDF) https://www.tsukuba.ac.jp/community/students-kagakunome/shyo-list/pdf/2022/j7.pdf 『ネイチャーテクノロジー』―自然に学んだモノづくり「ロボット技術」―, 鈴木由郎(PDF) http://jnetssk.fc2web.com/mainReport/2015/6-12/SUZUKI-NATURE%20TECH.pdf How Do Flying Fish Manage To Fly?, Ruqqaiya Khan https://www.scienceabc.com/nature/animals/how-do-flying-fish-manage-to-fly.html

元論文

How and why do flying fish fly?, John Davenport https://link.springer.com/article/10.1007/BF00044128 トビウオの滑空における地面効果の影響に関する研究(流体工学,流体機械), 染矢 聡 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaib1979/75/758/75_KJ00005756341/_article/-char/ja/
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