いかにして、テストで1点でも多く点を取るか。どうやって成績を上げるか。
学生時代、悩んでいた人も多いでしょう。
今回、東京大学社会科学研究所と、株式会社ベネッセコーポレーションが共同で行っている研究プロジェクトにより、「学習方法の理解」(自分に合った、上手な勉強のしかたを見つけること)と「学習意欲」、そして「成績」の関係について、興味深い分析結果が報告されました。
この共同研究プロジェクトは、「子どもの生活と学び」の実態を明らかにするために立ち上げられ、2015年以降、8年間にわたって複数の調査を実施し、同一の親子(小学1年生から高校3年生)の意識・行動の変化を明らかにしてきています。
昨年のニュースリリース(2022年4月20日発信)で報告された分析結果では、子どもたちの学習意欲が低下していることが分かりました。この傾向は、今年4月12日に発表された今回の調査結果でも同様だったようです。
よって、今回は、学習意欲を高めるために何をすればよいかを考えるため、「学習方法の理解」に注目した分析がなされています。
目次
- 「上手な勉強のしかたがわからない」子どもの増加について
- 学習方法の理解に至るためには、どんなことをすればいいの?
「上手な勉強のしかたがわからない」子どもの増加について
東京大学社会科学研究所と株式会社ベネッセコーポレーションが2015年以降、8年間にわたって行った調査のうち、2019~2022年におけるものの結果によると、「上手な勉強のしかたがわからない」子どもは特に増加しており、2022年には約7割に。
学校段階別に見ると、段階があがるほどその割合が高い傾向にあります。つまり、学習方法がわからないという悩みを抱えているのは、高校生が最も多いようです。
しかし、2019年〜22年にかけての増加幅を学校段階別で比較すると、段階が低いほど増加が大きい傾向が見られます。つまり、近年「勉強のしかたがわからない」との悩みが最も増えたのは小学生である、ということです。
「上手な勉強のしかた」と「学習意欲」、「成績」との関係は?
このグラフは、2022 年調査のデータを使用して分析されたもので、小学4年生~高校3年生の子どもたちにおいて「学習方法」、「学習意欲」、「学習時間」、「成績」の4つの要素がどのように関係し合っているか、を示しているものです。
2つの要素間の数字は「-1~1」であり、数値がプラス方向に大きいほど正の相関(片方が上がれば、もう片方も上がる)が強く、また、数値がマイナス方向に大きいほど、負の相関(片方が上がれば、もう片方は下がる)が強くなります。
「学習方法」と「学習意欲」は正の相関があります。つまり、学習方法の理解が進むにつれ、学習意欲も高まる、ということです。これは小中高、いずれの学校段階でも同様の傾向であることがグラフに示されていますね。
やり方が分かればやる気が出るけれど、勉強しろと言われても何をすればいいのか分からなければやる気は出ないというのは、イメージできる問題です。
また、「成績」という項目から見ると、最も強い正の相関があるのは「学習方法」。これに「学習意欲」が続きます。一方、「成績」と「学習時間」は正の相関ではあるものの、「成績」「学習方法」間の数値よりはだいぶ低いですね。
これは子供がゲームばかりやっているからといって、ゲームを隠して机に齧りつかせても、成績は特に上がらないということでしょう。
つまり、成績をあげるにはやみくもに勉強するのではなく、学習方法を身につけなければ、あまり意味がないということになります。
しかし、ここまでの話は正直ほとんどの人が言われなくてもわかっていることでしょう。
問題は「じゃあ、学習方法を理解するためには、どんなことをすればいいの?」という部分のはずです。
今回の研究では、成績上位の子と下位の子でどのような意識や学習方略の違いがあるかについても調査されています。
次のページでは、学習方法が良いとは具体的にどういうことを指すのか? その謎を解き明かしていきます。
学習方法の理解に至るためには、どんなことをすればいいの?
学習方法を理解している子どもと、理解していない子どもを比較し分析よると、両者の違いはさまざまな学習方法を実践しているかどうかにあることがわかりました。
特に、「自己調整方略」(自分に合った勉強のやり方を工夫すること)や、「モニタリング方略」(何がわかっていないか確かめながら勉強すること)、「プランニング方略」(計画を立てて勉強すること)において大きな差がついています。自分の学習を客観的にとらえ、自分で調整しながら学ぶことが、学習方法の理解を促進しているのです。
これは、見方を変えると、学習方法を理解している子どもは、最初からいきなり上手く行った訳ではなく、さまざまな勉強のしかたを試行錯誤している可能性が高い、ということが言えるのかもしれません。
世の中にはさまざまな勉強方法が存在していますが、どの学習方法が自分にあっているかは色々試してみないことにはわかりません。ここを怠ると、自分には合わない勉強方法を採用して思うように成果が上がらないという状況に陥る可能性があるかもしれません。
また、その他、「メリハリ方略」(遊ぶ時は遊び、勉強する時は集中して勉強すること)、「意味理解方略」(問題が解けた後に別解がないか考えること)、「深化方略」(授業で習った内容を自分なりに更に詳しく調べること)なども、学習方法を理解するために役立っているようです。
「学習方法の理解」の、学習面以外への効用
また、「学習方法の理解」は、論理的に考える力や粘り強さのような資質・能力にも関連することがわかりました。
「論理的に(筋道を立てて)考えること」が得意か苦手かをたずねた結果では、成績上位層ほど「得意」が多く、またいずれの成績層でも「学習方法を理解している」と考えている子たちは、論理的な考え方が「得意」であるという結果になっています。
また、「一度決めたことは最後までやりとげる」、すなわち「粘り強さ」についての質問でも、論理的思考への回答結果と同様、成績上位層ほど「あてはまる」が多く、なおかつ、いずれの成績層でも「学習方法を理解している」子の方が「あてはまる」が多い結果となりました。
子どもの時に学習方法を身に付けるということは、学習面へのメリットのみならず、一生にわたって役立つであろう、問題解決のための力を獲得することにもつながるのですね。
まとめ
以上、「学習方法の理解」と「学習意欲」、「成績」についての分析結果をご紹介しました。
これまで、「あんなにたくさん勉強したのに成績が伸びない……」「いつも遊んでいるように見えるあの人、テストの点数だけすごいよね」など、経験則として、学習する時間の長さと成績との釣り合わなさを感じたことのある人は多いと思いますが、実際の調査結果として示されると改めて納得してしまいますね。
成績が伸び悩んでいる人、子供の成績を気になっている親は、今回の結果を参考に、自分にあった勉強方法をいろいろ試しながら見つけることや、遊びと学習のメリハリをつけることを意識するといいかもしれません。
ただ、楽しみを削ってやみくもに勉強するのは効果的ではないので、ロジカルに勉強を楽しんでいきましょう。
参考文献
「上手な勉強のしかたがわからない」という悩みが約 7 割に増加(東京大学) https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400212331.pdf