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分類が分からない!エイリアンみたいな古生物「タリーモンスター」の脊椎動物説に反証


イカのような丸みのある胴体に、ちょこんと乗っかった棒状の目。

マジックハンド式に伸び出した口先にはトゲトゲの鋭い歯が並ぶ。

まるで子供が落書きしたようなこの生き物は「タリーモンスター」の名で知られる約3億年前の海に実在した古生物です。

60年以上前に発見されて以来、既知のどの生物にも似ていないため、研究者らは分類ができずにいました。

しかし近年になり、タリーモンスターは「ヤツメウナギに近い脊椎動物だった」という研究が発表されて一件落着…

かと思いきや今回、東京大学大学院の最新研究によって「やっぱり脊椎動物じゃない!」という説が浮上したのです。

専門家も手をこまねくタリーモンスターの真の正体は一体何なのか?

その秘密に迫りましょう。

研究の詳細は、2023年4月16日付で科学雑誌『Palaeontology』に掲載されています。

目次

  • 「タリーモンスター」ってどんな生き物?
  • やっぱり「脊椎動物」ではなかった!

「タリーモンスター」ってどんな生き物?

タリーモンスターは正式な学名を「トゥリモンストゥルム(Tullimonstrum)」といいます。

米イリノイ州にある石炭紀(3億5920万〜2億9900万年前)の地層から産出する「メゾンクリーク生物群」でのみ見られる古生物です。

最初に化石が見つかったのは1955年で、フランスのアマチュア化石収集家であるフランシス・タリーにより発掘されました。

学名のトゥリモンストゥルムは”タリーの怪物”の意で、そこから英名のタリーモンスターが来ています。

タリーモンスターの復元図
Credit: ja.wikipedia

全長は約10センチと小柄ですが、マジックハンド式の口先を駆使して小さな獲物を捕食したと見られます。

問題はその分類です。

タリーモンスターは既知のどの古生物とも似ていなかったせいで、分類は困難をきわめました。

研究者らは、タコやイカの軟体動物、ゴカイやミミズの環形動物、約5億年前のカンブリア紀にいたオパビニアなど、いくつかの種と近縁であると提唱しましたが、いずれも決定的な証拠に欠けています。

口先の類似性からオパビニアとの関係も指摘されたが証拠はない
Credit: ja.wikipedia

ところが2016年に入り、長らく軟体動物の線が濃厚だった中で「タリーモンスターは脊椎動物である」という説が発表されたのです。

ヤツメウナギに近い脊椎動物だった?

この説は2016年に米イェール大学が、次いで2020年に米ウィスコンシン大学が発表し、かなり説得力のある仮説として注目されています。

根拠としては、それまで消化管と考えられていた薄色の帯に「脊索」の特徴が見てとれたことです。

脊索とはのちに「脊髄」になる神経を保護する器官で、脊椎動物の成長のごく初期に見られます。

他にも脊椎動物に似た脳、ヒレを支える構造、ヤツメウナギやヌタウナギと近い角質歯など、脊椎動物に見られる特徴がいくつも挙げられました。

この仮説を支持する研究報告は、当サイトでも2020年に取り上げています。

石炭紀の怪物「タリーモンスター」が脊椎動物だと判明! 決め手はケラチン

 

その一方で、タリーモンスターの化石に関する解釈を巡ってはいまだに論争が続いており、この説で決着が付いているわけではありませんでした。

そんな中、東京大学大学院の研究チームが新たに、脊椎動物説に反証する証拠を発見したのです。

やっぱり「脊椎動物」ではなかった!

タリーモンスターの化石と復元画
Credit: 東京大学大学院 –謎の古生物「タリーモンスター」、3D形態解析で脊椎動物説に反証(2023)

研究チームは今回、タリーモンスターの正体に迫ることを目的に調査を開始。

日本国内の7つの博物館に保管されているタリーモンスターの化石(計153点)と、メゾンクリーク生物群のさまざまな動物化石(計75点)を詳しく調べました。

最初にレーザースキャナーで化石表面の3Dデータを分析したところ、脳や歯、ヒレを支える構造と目されていたものが、脊椎動物のそれらとは異なる特徴を持つことが分かったのです。

たとえば、脊椎動物は頭部にはっきりとした分節構造を持ちませんが、タリーモンスターの頭部(下の赤かっこ)には体幹部(白かっこ)から連続して分節構造がありました。

タリーモンスターの頭部の分節構造(右は化石表面の起伏を色で示した図)
Credit: 東京大学大学院 –謎の古生物「タリーモンスター」、3D形態解析で脊椎動物説に反証(2023)

またこれまではタリーモンスターのヒレに、ヤツメウナギやヌタウナギを含む円口類と同じく、ヒレを支える構造があるとされていました。

ところが、よく分析すると、タリーモンスターにはヒレを支持する構造がないことが判明しています。

タリーモンスターにはヒレを支持する構造がない
Credit: 東京大学大学院 –謎の古生物「タリーモンスター」、3D形態解析で脊椎動物説に反証(2023)

それからX線マイクロCTで歯を調べた結果、タリーモンスターの歯は、これまで知られていた「傘型」と新たに判明した「基部隆起型」の2タイプに分けられ、前者はアゴの下側に、後者はアゴの上側のみに生えていることが分かりました。

先行研究では、傘型の歯がヤツメウナギの持つ角質歯に似ていると指摘されていましたが、新たに見つかった基部隆起型は、ヤツメウナギを含む円口類には見られません。

タリーモンスターの「歯」
Credit: 東京大学大学院 –謎の古生物「タリーモンスター」、3D形態解析で脊椎動物説に反証(2023)

以上をふまえて、タリーモンスターは脊椎動物には分類されず、ヤツメウナギと近縁ではないことが明らかになりました。

タリーモンスターの正体はまた謎に包まれたわけですが、チームは現在のところ「脊椎動物以外の脊索動物」の可能性を挙げています。

脊索動物とは、脊椎動物を含むより広い分類群のことです。

脊椎動物の中には、魚類や両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類が含まれますが、その以外の脊索動物としては、たとえば、尾索動物(ホヤ)や頭索動物(ナメクジウオ)がいます。

もしかしたらタリーモンスターはこれらと近い存在なのかもしれません。

今回の結果は、60年以上も続くタリーモンスターの正体を巡る議論をさらに白熱させること間違いなしでしょう。

全ての画像を見る

参考文献

謎の古生物「タリーモンスター」、3D形態解析で脊椎動物説に反証 https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2023/8399/

元論文

Three-dimensional anatomy of the Tully monster casts doubt on its presumed vertebrate affinities https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pala.12646
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