新生活をスタートさせ、慣れない仕事に取り組む人にとって「休憩の取り方」は大切になるかもしれません。
これまでの研究では、仕事の合間に10分ほどの小休憩を定期的に入れると、気分がスッキリして作業効率が上がると言われていました。
実際に、この方法を実践されている方も多いでしょう。
ところがリトアニア体育大学(LSU)の最新研究によると、勤務中の定期的な小休憩は精神的な疲労感につながり、集中力や注意力、認知機能を低下させる可能性が示されたのです。
定期的な小休憩は返って仕事の作業効率を下げてしまうかもしれません。
研究の詳細は、2023年3月23日付で学術誌『International Journal of Psychophysiology』に掲載されています。
目次
- 定期的な小休憩は逆効果だった?
- 研究者が推める効果的な「休憩の取り方」とは?
定期的な小休憩は逆効果だった?
本研究では、23歳から29歳までの健康な男性18名に参加してもらい、7時間にわたって9つの認知タスク(オフィスライクなパソコン作業)をこなすことを求めました。
また作業中には50分ごとに10分間の小休憩を設けています。
この定期的な小休憩が参加者の認知機能、意欲、気分、集中力、中枢神経系におよぼす影響を評価するため、認知タスクのスコア評価、脳スキャン、血液検査を行いました。
これまでの定説通りであれば、小休憩ごとに疲労や集中力が回復し、タスクパフォーマンスが向上すると予想されます。
ところが調査の結果、広く知られている説に反し、定期的な小休憩は参加者の精神的疲労を誘発し、集中力、注意力、学習能力、視覚認識などの認知機能に悪影響を与えていることが判明したのです。
研究主任のマリウス・ブラザイティス(Marius Brazaitis)氏は「高いレベルの精神的努力を必要とする認知タスクのスコアは、7時間の間に徐々に悪化していました」と話します。
さらに精神的疲労や認知機能の低下の作用は、調査終了後に4時間半の休息を取った後でも完全には回復していませんでした。
「この結果は、勤務中に短い休憩を取り入れることが、疲労の予防や認知機能の改善には繋がらないことを示唆している」とブラザイティス氏は指摘します。
本研究には参加していない英キール大学(Keele University)のコリン・リグビー(Colin Rigby)氏は、この結果について次のような解釈を寄せました。
「定期的な小休憩を挟み込むために1日のノルマを分解することは、それ自体が仕事に関連する認知タスクとなり、結果として心理的なプレッシャーを増幅させると考えられます」
たとえば、あらかじめ何分ごとに1回の小休憩を入れると決めていると、リグビー氏いわく「タスクの進行具合ではなく、時計に従って仕事をすることになる」という。
そうすると、せっかく持続していた集中力が中断され、「休憩から戻ったときに、どこまで進めていたか、また休憩前にどんな思考プロセスを辿っていたかを思い出す必要がある」ため、返って認知タスクに負担がかかったり、仕事に余計な時間を費やしてしまうといいます。
その結果として、無駄な心労が増えたり集中力や注意力が落ちて、作業効率が悪くなるのです。
お昼休みの時間は決まっている会社も多いでしょうが、休憩時間を意識して作業するより、自身で一区切り付いたと休憩のタイミングを選ぶ方が、心理的には楽であり作業効率も高まる可能性があるかもしれません。
小まめに時間を決めて休憩は取らない方が良い、というのが今回の研究の結果でしたが、休憩自体は誰にでも必要となるものです。
では、どんな休憩の取り方が効果的に脳を休め集中力を回復させるのに有効なのでしょうか?
研究者が推める効果的な「休憩の取り方」とは?
今、コロナパンデミックの影響もあって、世界的にリモートワークが一般的になりつつあります。
その中で休憩を取ると、おそらくスマホをチェックしたり、ネットサーフィンをすることが多いのではないでしょうか?
しかし、それでは先に示されたように、返って認知機能を低下させてしまうかもしれません。
そこで研究者は、短い休憩でも頭をスッキリさせるのに有効ないくつかの方法を紹介しています。
その1:瞑想(マインドフルネス)を取り入れる
瞑想に脳の切り替え能力を高めて、頭をシャキッとさせる効果があるのは、これまでの多くの研究で示されています。
たとえば、1日10〜15分の瞑想を8週間つづけると、脳のオン・オフの切り替えスピードが増したり、あるいは3〜6カ月つづけると慢性的なストレス負荷を大幅に軽減できることが判明しています。
具体的な方法としては、リラックスできる姿勢を取って、深くゆっくりと呼吸を繰り返しながら、一つのことに注意を向け続けます(たとえば、自分の呼吸など)。
これを10〜15分するだけで頭の中をリセットするのに効果的です。
また精神面だけでなく、自律神経を整えたり、血圧を上げるなど身体へのメリットもあります。
その2:短い散歩をする
もし外に出られる環境であれば、休憩の間に家の周りを散歩をするとよいかもしれません。
過去の研究では、外を10分ほど歩くだけで、全体的な気分が高揚し、ストレスが軽減されることが分かっています。
また、外の新鮮な空気や日光に触れることも、心身をリフレッシュさせる効果があります。
その3:スクリーンから離れる
もしパソコンを使った仕事をしているなら、小休憩の間はスクリーンや電子機器をなるべく見ないようにしましょう。
こうすることで眼精疲労を抑えられるだけでなく、仕事と休憩のメリハリをつけることができます。
休憩の間は、軽い運動やストレッチをしたり、リラックスできる音楽を聴いたりして、画面から離れることを心がけましょう。
その4:ワークスペースの整理整頓
休憩の間にワークスペースの掃除や整理整頓をすることも、頭の切り替えに効果があるようです。
掃除や整理整頓はあまり休憩になっていないようにも思えますが、仕事に関する雑念が入りにくいので、認知機能のリセットに非常に向いています。
これらの方法は認知機能の回復や仕事の効率アップに有効な休憩の過ごし方として推奨されるものです。
4月に入り、これまでとは生活の環境が変わった人や、新しく仕事についた人も多いでしょう。上手な休憩の取り方は、慣れない仕事へ取り組む際の助けとなるものです。自分に最も合った休憩の取り方を見つけるといいかもしれません。
そして今回の研究結果が示すように、休憩のタイミングを時間で決めるのではなく、仕事の区切りがいいところで取るようにすると、余計な認知負荷を予防できるかもしれません。
参考文献
Short work breaks can lead to more fatigue, less focus https://www.earth.com/news/short-work-breaks-can-lead-to-more-fatigue-less-focus/元論文
Regular short-duration breaks do not prevent mental fatigue and decline in cognitive efficiency in healthy young men during an office-like simulated mental working day: An EEG study https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0167876023000612