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捕食者なのに草食獣のように目が左右に離れていた絶滅哺乳類の不思議!


ティラコスミルス (Thylacosmilus)は、約300万年前に絶滅した肉食の哺乳類です。

サーベルタイガーと同じ長大な剣歯を持つ一方で、目が顔の左右に離れて付いていることが知られていました。

これはトラやチーターのような捕食者ではなく、ウシやガゼルのような被食者に見られる特徴です。

両目が顔の前面にあることは、獲物の位置や距離感を把握するのに役立つ「立体視(3D)」に欠かせません。

彼らはこの視覚的な難点をどう補っていたのか、アメリカ自然史博物館(AMNH)の研究チームは調査を開始。

その結果、ティラコスミルスは眼窩(眼球を納めているソケット)を顔の前方に突き出して、立体視を補っていたことが分かったのです。

研究の詳細は、2023年3月21日付で科学雑誌『Communications Biology』に掲載されています。

目次

  • 捕食者なのに「左右の目」が離れて付いていた?
  • 前方を向けるよう「眼窩の角度」が調節されていた!

捕食者なのに「左右の目」が離れて付いていた?

まずはティラコスミルスがどんな動物だったのか押さえておきましょう。

彼らはカンガルーやオポッサムを代表とする有袋類に近縁な「砕歯(さいし)目」というグループに属していました。

砕歯目は肉食性の強い哺乳類の一群であり、今日ではすでに絶滅しています。

ティラコスミルスは約700万〜300万年前の南アメリカに生息し、全長1.2〜1.7メートル、体重は100キロ前後、最大だと150キロに達しました。

サーベルタイガーと同様の長大な剣歯を持ちますが、彼らの牙は私たちの髪の毛のように一生涯にわたって伸び続ける「無根歯(むこんし)」だったようです。

また面白いことに、下アゴが下方に伸びており、剣歯を納める鞘のようになっていたことが化石から明らかになっています。

ティラコスミルスの頭蓋骨のイメージ
Credit: Jorge Blanco(phys, 2023)

このようにユニークな特徴の多い動物ですが、中でも特に注目されるのは両目が左右に離れて位置していることです。

これは捕食性の哺乳類とは一線を画す点です。

通常、チーターやライオン、ネコのような捕食者は両目が顔の前方に付いており、獲物の位置や距離感、奥行きを把捉するのに役立つ立体視(3D)を可能にしています。

対して、ガゼルやウシ、ウマのような草食の被食者は、左右の目が外側に離れて付いていることがほとんどです。

これは視野を広げて、天敵の接近をいち早く察知するメリットがありますが、前方の立体視には劣ります。

チーターが目が前方に、ガゼルは目が外向きに離れている
Credit: canva

よってティラコスミルスは目の配置が草食の被食者に近いので、前方の立体視ができなかった可能性があるのです。

そこで研究チームは、約300万年前に絶滅した「ティラコスミルス・アトロックス(Thylacosmilus atrox)」の頭蓋骨をCTスキャンして、立体視できたかどうかを探ることにしました。

前方を向けるよう「眼窩の角度」が調節されていた!

CTスキャンの結果、まず分かったのは長大な剣歯のせいで顔の前面に両目を置くスペースがなかったことでした。

先に言ったように、ティラコスミルスの剣歯は一生成長しつづけるため、成熟個体になると、剣歯の根元が頭蓋骨の上部にまで達していました。

つまり、鼻筋から額を通って頭部まで伸びる剣歯によって目が顔の外側に追いやられたのです。

さらにチームは、他の絶滅および現生の肉食哺乳類の頭蓋骨をスキャンし、目の配置から、左右の視野が重なる角度を比較しました。

すると他の捕食者ではだいたい50〜65度だったのに対し、ティラコスミルスはわずか35度に留まったのです。

下図の左からティラコスミルス、スミロドン(サーベルタイガーの一種)、ティラコレオ(絶滅したフクロライオン)、フクロオオカミです。

左右の目の視野が重なる範囲(グレー)
Credit: Charlène Gaillard et al., Communications Biology(2023)

目が横方向についているならば、この角度では相当寄り目にしなければ正面を見ることは難しい印象を受けます。

では、やはりティラコスミルスは前方への立体視はできなかったのでしょうか?

しかし研究主任のシャルレーヌ・ガイヤール (Charlène Gaillard)氏は「良好な立体視は、単に目の配置だけでなく、眼窩内の眼球をどれだけ前方に向けられるかにも依存する」と指摘します。

そこでティラコスミルスの眼窩の角度を調べたところ、他の捕食者に比べて、眼窩が外側に突き出し、顔の側面とほぼ垂直に(つまり前方に)向いていることが分かったのです。

これにより眼窩内の眼球を可能な限り前方に向けられると推定されました。

下図は上からティラコスミルス、ティラコレオ、スミロドンです。

ティラコスミルス(上)の眼窩は眼球が前方に向けられるようになっている
Credit: Charlène Gaillard et al., Communications Biology(2023)

これを考慮した結果、ティラコスミルスの視野の重なりは70度近くに達すると算出されました。

同チームのアナリア・フォラシエピ(Analia Forasiepi)氏は「これは明らかに活発な捕食者として成功するのに十分な視野である」と述べています。

となるとティラコスミルスは、捕食者と被食者の両方を兼ね備えた優れた視野の持ち主だったのかもしれません。

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参考文献

How the ‘marsupial sabertooth’thylacosmilus saw its world https://phys.org/news/2023-03-marsupial-sabertooth-thylacosmilus-world.html Ancient marsupial sabertooth had eyes like no other mammal predator https://www.livescience.com/ancient-marsupial-sabertooth-had-eyes-like-no-other-mammal-predator Ancient “Marsupial Sabertooth” Likely Saw in 3D https://www.amnh.org/explore/news-blogs/research-posts/ancient-marsupial-sabertooth-likely-saw-in-3d

元論文

Seeing through the eyes of the sabertooth Thylacosmilus atrox (Metatheria, Sparassodonta) https://www.nature.com/articles/s42003-023-04624-5
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