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月を形成した「ジャイアントインパクト」が地球のプレートテクニクスを起動した!?


日本が地震国となった原因は、巡り巡って「月形成」まで遡れるようです。


いまから45億年前、原始地球に火星サイズの惑星「テイア」が衝突するジャイアントインパクトが発生しました。


米国のカリフォルニア工科大学(Caltech)で行われた研究によって、このとき惑星「テイア」の残骸が地球の地下深くまで潜り込んでしまった反動で、地球の内部から巨大な溶岩の上昇流(プルーム)が発生し、最初のプレートテクニクスが開始されたと発表。


研究結果が正しければ「宇宙に浮かぶ月」と「地球の大地を構成するプレート」、その両方の起源を一度に説明する画期的なものとなります。


研究内容の詳細は2023年3月13日に『第54回 月惑星科学会議』にて発表されました。




目次



  • ジャイアントインパクトが地球のプレートテクニクスを起動したとする研究が発表

ジャイアントインパクトが地球のプレートテクニクスを起動したとする研究が発表


ジャイアントインパクトが地球のプレートテクニクスを起動したとする研究が発表 
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

現在の水星・金星・地球・火星という岩石惑星が存在する区域にはかつて、小さな原始惑星が十数個存在したと考えられています。


これら原始惑星は時間の経過とともに互いの重力によって引き寄せられて衝突を繰り返し、現在の4つの岩石惑星を形成しました。


以前に行われたシミュレーションによれば、水星は1~2個の原始惑星が衝突して形成され、金星は8個前後、地球は10個、そして火星は1度も衝突を経験しなかった原始惑星の生き残りとされています。


ただ原始地球に起きた最後の衝突は、他のケースとはやや趣を異にしていました。


最後の衝突は今から45億年前に原始地球と原始惑星「テイア」の間で起こりました。


ですがこのときの衝突は真正面からのものではなく、重心から遠く離れた部分でこすれ合うように起きたと考えられています。


そのため惑星「テイア」の一部は地球と融合したものの、残りは地球の破片と一緒に大きく飛び散ってしまい、その後合体して月を作ることになりました。


この一連の出来事はジャイアントインパクトと呼ばれており、現在、月の起源の最も有力な理論となっています。


ただジャイアントインパクトはそのダイナミックさから直接的な証拠をみつけだすのは困難でした。


2カ所の異質な塊(LLSVP)は最初、地震の伝わりが異様に遅い場所として発見されました
Credit:What lies beneath: Thoughts on the lower mantle

しかし2016年に事態は大きく動きました。


地震波の観測技術の進歩により、アフリカ大陸と太平洋の下に、他の地球のマントルとは質的に異なる、地震の伝わりが極めて遅い巨大な塊(LLSVP)が沈んでいることが判明したのです。


45億年前に地球と衝突した惑星「テイア」の残骸がアフリカ大陸と太平洋の地下に眠っている
Credit:wikipedia

このような異質な塊(LLSVP)が、どのように地球内部から発生したかについて数々の理論が提唱されましたが、どれも決定的なものになりませんでした。


そこでカリフォルニア工科大学は発想を転換し、異質な塊(LLSVP)がかつて地球に衝突した惑星「テイア」の残骸であると考えるようになりました。


2021年に行われたシミュレーション研究では、惑星テイアのマントルが地球のマントルよりも密度が高い場合、衝突後に地球内部に潜り込み、観測されたものと類似の分布と規模を持つ塊を作ることが示されました。


太平洋にはジャイアントインパクトを引き起こした「原始惑星テイア」が埋もれている可能性がある



もしシミュレーション結果が正しい場合、ジャイアントインパクトの証拠は私たちの足元で眠っていたことになります。


ですが、大陸規模の巨大な塊が沈み込んだとなれば、地球に起きる影響は甚大なものになり、他の太陽系の惑星や衛星にはない「特別な個性」を地球に与えた可能性があります。


そこで今回、カリフォルニア工科大学の研究者たちが着目したのが「プレートテクニクス」の存在でした。


地球のマントルの上にある地殻(プレート)には、新たに地球内部から作り出される一方で、プレート同士の衝突によって地下深くに沈み込んで消えてきます。 このような地殻の流動的な特性をまとめた理論はプレートテクニクスと呼ばれており、現在の地球科学の基礎となっています。 またプレートが沈み込みを起こす部分「沈み込み帯」が地震の発生源となっていることが知られており、日本の東側に存在する日本海溝も世界有数の沈み込み帯となっています。
Credit:wikipwdia

これまでの惑星探査や衛星探査によって、太陽系のなかでプレートテクニクスが存在するのは、地球だけであることがわかっています。


地球のようなプレートテクニクスはすぐ近くの月にも、水星や金星、火星といった比較的近傍の惑星にも、木星や土星などの衛星に存在しておらず、地球の「際立った個性」だったのです。


そこで次に研究者たちは、テイアの残骸の沈み込みが地球に何をもたらしたのかをシミュレーションを用いて解析することにしました。


5枚目の画像
Credit:Q. Yuan et al . GIANT IMPACT ORIGIN FOR THE LARGE LOW SHEAR VELOCITY PROVINCES . 52nd Lunar and Planetary Science Conference 2021

シミュレーションでは、45億年まで原始地球とテイアが衝突したジャイアントインパクトを開始点としており、その後テイアの破片が地球内部でどのように分布するかを追跡しました。


6枚目の画像
Credit:Q. Yuan . A GIANT IMPACT ORIGIN FOR THE FIRST SUBDUCTION ON EARTH . 54th Lunar and Planetary Science Conference 2023

するとテイアの衝突から1億2300万年ほどすると、テイアの破片が地球内部に潜り込み、その反動によってに地球表面に向けて巨大な溶岩の上昇流(プルーム)が発生することが判明しました。


さらに衝突から1億3300万年後、発生した巨大プルームが地殻に到達して激しくマグマを噴き上げました。


噴き上げられたマグマが冷えて固まり続けていくにつれ、新たな地殻(プレート)が形成されるようになり、衝突から1億4900万年後には新しく生成された地殻(プレート)の下側に、周囲の古い地殻が沈み込んでいく様子がみてとれました。


今回のシミュレーション結果が正しければ、月の形成とプレート形成の初期段階が結びつくことになるでしょう。


プレートテクニクスによって地球では惑星内部の物質が表面に盛んに供給されるようになり、生物誕生を促進する役目を果たしました。


またプレートテクニクスの働きは水に覆われていた地球に陸地をうみだし、豊かな生態系を築く礎を提供し、地球の際立った個性の1つとなったのです。


もし45億年前に起きた惑星衝突の角度がほんの少し違っていたとしたら、地球には月もプレートテクニクスも大陸も誕生せず、生命も今とは全く別物になっていたかもしれません。


研究者たちは、太陽系外惑星を探索する際に大きな月やプレートテクニクスを持つ惑星があれば、地球のような特殊なジャイアントインパクトを起こした可能があると述べています。


もしそのような系外惑星で地殻変動を確認できれば、地球と同じような進化過程を辿って生命を誕生させているかもしれませんね。


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参考文献

A moon-forming cataclysm could have also triggered Earth’s plate tectonics
https://www.sciencenews.org/article/moon-planet-collision-earth-plate-tectonics

元論文

GIANT IMPACT ORIGIN FOR THE LARGE LOW SHEAR VELOCITY PROVINCES.
https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2021/pdf/1980.pdf
A GIANT IMPACT ORIGIN FOR THE FIRST SUBDUCTION ON EARTH
https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2023/pdf/2723.pdf
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