クモがネズミを食べていました。
アイルランド国立大学ゴールウェイ校で行われた研究によって体長1.4cmほどの小さな帰化クモ(Steatoda nobilis)が自分の10倍もの体重を持つトガリネズミ(Sorex minutus)をクモ糸で吊し上げ、捕食している様子が記録されました。
発見時点でトガリネズミはまだ生きていたものの、その後、屋根の上のほうに向けて25cmほど引き上げられ、3日後には「骨・皮膚・毛」だけの姿となって捨てられていました。
研究者たちは、この小さな帰化クモが脊椎動物を習慣的に捕食している可能性があり、生態系に影響を及ぼすおそれがあると述べています。
しかしトガリネズミほどの大きさならば、クモ糸の拘束から容易に逃げられそうに思えます。
なのになぜトガリネズミは無抵抗なまま食べられてしまったのでしょうか?
研究内容の詳細は2023年2月10日に『Ecosphere』にて公開されました。
目次
- クモ糸にひっかかたトガリネズミが「3日かけて」食べられ残骸に
クモ糸にひっかかたトガリネズミが「3日かけて」食べられ残骸に
現在地球上には確認されているだけで5万631種、132科のクモが存在しており、そのうちの39科がヘビやトカゲなど小型の脊椎動物を捕食することが知られています。
たとえばタランチュラなど大型なクモは、強力な毒を使って大きなラットも捕食できることが知られています。
一方、街中にいるような小さなクモが、自重の10倍以上ある哺乳類を常習的に捕食しているハンターであるとは考えられていませんでした。
しかし近年になって帰化クモと呼ばれている体長1.4cmほどの小さなクモが、トカゲやコウモリを食べているとの報告が相次いでいました。
そして今回、その対象がトガリネズミにも及んでいることが明らかになりました。
キッカケとなったのは2022年8月4日木曜日の朝、今回の研究論文の著者の1人が、上の図のように、窓の外にクモ糸に絡まった小さな哺乳類をみつけたことでした。
興味を惹かれた研究者はさっそく動画撮影を開始し、まもなく捕らわれている哺乳類がトガリネズミの一種(Sorex minutus)であり、捕らえているのが帰化クモ(Steatoda nobilis)であることが判明します。
帰化クモの体長はわずか1.4cmほどであり体重は0.5gほどしかありません。
一方トガリネズミの体長は5cmと帰化クモ3倍以上もあり体重は5gと10倍もあります。
また発見された時点ではまだトガリネズミは生きていましたが、動きが鈍く、クモ糸から抜け出そうとする様子はみられませんでした。
トガリネズミの動きが鈍かった点について研究者たちは、帰化クモの強力な神経毒「α-ラトロトキシン」が使われた可能性を指摘しています。
神経毒「α-ラトロトキシン」は哺乳類の神経と筋肉を麻痺させる作用があるため、たとえトガリネズミに意識が残っていたとしても、体が麻痺した状態にあったと考えられます。
その後、帰化クモはトガリネズミの体と窓の上の垂木(たるき)を行ったり来たりしながらクモ糸を増強し、20分かけてトガリネズミの体を25cm引き上げると、体を完全にクモ糸で包み込んでしまいました。
(※これまでの研究によって、クモ糸の配置を工夫することで滑車のような仕組みを作り出せることが知られています。これまで報告されている最大の引き上げは自重の355倍ものヘビを捕獲したケースになります)
そして3日後、クモ糸の隙間からトガリネズミを構成していた骨と皮膚と毛がこぼれ落ちてきたことが確認されました。
帰化クモが脊椎動物を捕らえたとする報告は5年間で3回目となります。
(※帰化クモがトガリネズミを食べていたとする記録は、本研究が最初のものになります)
そのため研究者たちは、帰化クモは常習的に小型の脊椎動物を食べている可能性が高いと結論付けました。
現在、帰化クモは侵略的な外来種として世界中に拡散しています。
もしかしたら近い将来、日本でも帰化クモが哺乳類を捕らえて吊し上げている様子が観察できるようになるかもしれません。
参考文献
Noble false widow spider found preying on pygmy shrewhttps://www.universityofgalway.ie/about-us/news-and-events/news-archive/2023/february/noble-false-widow-spider-found-preying-on-pygmy-shrew.html
元論文
Predation on a pygmy shrew, Sorex minutus, by the noble false widow spider, Steatoda nobilishttps://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ecs2.4422