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素粒子ミューオンの検出でクフ王ピラミッドに隠された「秘密の部屋」を特定!


エジプトのピラミッドに隠された”秘密の部屋”の実態が暴かれたようです。

名古屋大学大学院の研究チームはこのほど、世界最大規模の石造建築物として有名な「クフ王のピラミッド」の内部に、幅2メートル・高さ2メートル・奥行9メートルの「未知の空間」があることを明らかにしました。

しかも今回の探査方法には、宇宙からピラミッドに降り注ぐ素粒子を検出して、未知の空間の位置や形状をイメージングする最先端の観測技術が用いられたとのこと。

それにより、ピラミッドを一切傷つけることなく、数センチという高い精度で空間のサイズ特定に成功しています。

研究の詳細は、2023年3月2日付で科学雑誌『Nature Communications』に掲載されました。

目次

  • ピラミッドの内部は既知の空間が全てなのか?
  • 素粒子「ミューオン」を検出することでピラミッド内部を可視化

ピラミッドの内部は既知の空間が全てなのか?

クフ王のピラミッド
Credit: 名古屋大学 –クフ王ピラミッドにある未知の空間を、 多地点宇宙線イメージングの技術により、高い精度で詳細に特定!(2023)

クフ王のピラミッドは、古代エジプト第4王朝のファラオ・クフ王の墓として約4500年前に建造されました。

同じ時期に建てられた他のピラミッド群と比べて、内部が非常に複雑な造りになっていることで有名です。

下の図をご覧ください。

ピラミッド内部には「地下の間(a)・女王の間(b)・王の間(d)」があり、それぞれ通路でつながっており、中心部には王の間へと通じる「大回廊(c)」と呼ばれる巨大な空間があります。

クフ王のピラミッドの内部構造
Credit: 名古屋大学 –クフ王ピラミッドにある未知の空間を、 多地点宇宙線イメージングの技術により、高い精度で詳細に特定!(2023)

また北側には、クフ王のピラミッドにしか見られない「シェブロン(h)」と呼ばれる切妻屋根(シンプルな三角屋根のこと)のような石組みがあります。

シェブロンの下には、建造当時のピラミッドの入り口があり、その通路は地下の間へと向かうことから「下降通路(e)」と呼ばれています。

しかし観光客は現在、この通路からは内部へ入ることができず、代わりに「アルマムーンの通路(g)」という後世に作られた別の水平通路から入り、「上昇通路(f)」を昇って大回廊を抜け、王の間を見学することができます。

切妻屋根のような石組みになっている「シェブロン」
Credit: 名古屋大学 –クフ王ピラミッドにある未知の空間を、 多地点宇宙線イメージングの技術により、高い精度で詳細に特定!(2023)

このようにピラミッドは現在観光で入ることもでき、通路でつながった内部の構造はだいぶ特定されています。

しかし、誰もが想像するように、これだけ巨大なピラミッドの内部で部屋や通路になっている空間というのは、たったこれだけなのでしょうか? それ以外の部分は全部石のブロックで埋まっているのでしょうか?

ピラミッドにはまだ我々の知らない隠された構造が存在しているのではないか? これは誰の頭にも浮かんでくる疑問でしょう。

当然研究者たちも同様の疑問を抱いており、ピラミッドの未知の内部構造についての調査を開始しました。

ただ、当然世界遺産であるクフ王のピラミッドを傷つけわけにはいきません。

そこで今回の研究チームは、ピラミッドの内部構造をレントゲン撮影するように透視して調査したのです。

しかし一体どうやって、巨大なピラミッドのレントゲンを撮るのでしょうか?

そのために用いられたのが宇宙から降り注ぐ宇宙線です。

素粒子「ミューオン」を検出することでピラミッド内部を可視化

私たちの目には見えませんが、宇宙線は常に地球へと降り注いでおり、その一つとして素粒子「ミューオン」(μ粒子)があります。

ミューオンはどんな厚い物質でもスルリと通り抜けられる性質を持つ素粒子の一種です。

チームはこれに注目し、原子核乾板という写真フィルム型の素粒子検出器を用いてミューオンを観測し、ピラミッドを傷つけることなく内部イメージの可視化を行いました。

これが「宇宙線イメージング」と呼ばれる観測技術で、研究者いわく「X線を使ったレントゲン撮影に近い」といいます。

「宇宙線イメージング」による内部イメージの可視化
Credit: 名古屋大学 –クフ王ピラミッドにある未知の空間を、 多地点宇宙線イメージングの技術により、高い精度で詳細に特定!(2023)

チームは2015年から、エジプト・カイロ大学およびフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)と協力し、ピラミッドの宇宙線イメージングを開始しました。

その中で2016年に、シェブロンの背後に南北に伸びた通路状の「未知の空間」を発見し、さらに2017年には、大回廊の上部に何らかの巨大空間を発見しています。

いずれの空間もピラミッドの外から繋がる通路は見当たらず、今もなお、4500年前の構造をそのまま留めていると考えられます。

クフ王のピラミッド内部に見つかった2つの空間
Credit: 名古屋大学 –クフ王ピラミッドにある未知の空間を、 多地点宇宙線イメージングの技術により、高い精度で詳細に特定!(2023)

チームは2016年に見つかったシェブロン背後の「未知の空間」をターゲットに、その位置や詳しい形状を明らかにすべく、2019年に宇宙線イメージングを実施。

さらにここでは、ミューオンを検出する原子核乾板のメリット(電源不要、軽量、コンパクト)を活かして、下降通路の4カ所に6つ、アルマムーンの通路の3カ所に4つの検出器をセットする「多地点宇宙線イメージング」を行いました。

特に、下降通路からは未知の空間の断面形状を、アルマムーンの通路からは傾きや長さを高い精度で検出しています。

下降通路とアルマムーン通路にセットした「原子核乾板」
Credit: 名古屋大学 –クフ王ピラミッドにある未知の空間を、 多地点宇宙線イメージングの技術により、高い精度で詳細に特定!(2023)

そして今回、集めたデータを解析してシャブロン背後に隠された未知の空間の詳細を明らかにしたのです。

調査結果では、未知の空間はシェブロンの表面から80センチ後ろに位置し、幅2メートル・高さ2メートル・奥行9メートルほどのサイズであることが特定されました。

また未知の空間は水平構造であることも判明しました。

位置と形状を特定する精度は数センチ単位であり、極めて高い精度でのイメージングに成功しています。

通路にセットされた検出器(矢印)の位置と方向。黄色が「未知の空間」を示す
Credit: 名古屋大学 –クフ王ピラミッドにある未知の空間を、 多地点宇宙線イメージングの技術により、高い精度で詳細に特定!(2023)

今回の結果について、チームは「私たちの知る限り、宇宙線ミューオンにより検出した空間構造について、位置と形を数センチの精度で決定できた成果は今回が初めてです」と話します。

この知見は、空間を作った理由やその役割、さらには2017年に見つかったもう一つの巨大空間との関係性についての考察を深め、クフ王のピラミッドにまつわる謎の解明に大いに貢献すると期待されています。

よく宇宙のパワーと結び付けられるピラミッドの秘密を、宇宙から降り注ぐ粒子を使って特定するというのはロマンに溢れています。

全ての画像を見る

参考文献

クフ王ピラミッドにある未知の空間を、 多地点宇宙線イメージングの技術により、高い精度で詳細に特定! https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/03/post-469.html

元論文

Precise characterization of a corridor-shaped structure in Khufu’s Pyramid by observation of cosmic-ray muons https://www.nature.com/articles/s41467-023-36351-0
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