一つの目的を達成するために複数の道具を計画的に扱える能力は、高い知能を持っている証拠です。
これができる動物は今のところ、人間とチンパンジーのみと言われています。
しかしこのほど、オーストリア・ウィーン獣医大学(VUW)の最新研究で、このリストに「オウム」が仲間入りを果たしたようです。
今回の実験では、シロビタイムジオウム(学名:Cacatua goffiniana)が、クリアケースの中の餌を取るために2種類の道具を状況に応じて用途ごとに使用できることが判明しました。
これは霊長類以外では初の事例です。
研究の詳細は、2023年2月10日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されています。
目次
- オウムは複数の道具を「計画的」に使える?
- 道具ごとの「役割」をちゃんと理解して使っていた!
オウムは複数の道具を「計画的」に使える?
道具を使用できる動物は人間やチンパンジーの他に、ゴリラ、オランウータン、イルカ、カラス、ラッコ、タコなどが知られていました。
しかし、これらのほとんどは一つの道具で簡単なタスクをこなすだけであり、複数の道具を同時に使える動物となるとその数はぐっと減ります。
さらに、道具ごとの役割をきちんと理解して複合的に使える能力は人間の他にチンパンジーしか知られていません。
たとえば、コンゴ共和国の自然保護区に暮らすチンパンジーはシロアリ塚から餌を得るために、まず鋭い棒で穴を開けてから別の細長い棒に持ち替えて、お目当てのアリをゲットします。
このように、別々の道具を組み合わせて計画的に目的を達成する能力は、きわめて知能が高いことの証です。
実はこれまでの研究で、オウムも複数の道具を同時に扱えることが知られていました。
2022年の研究では、今回と同じシロビタイムジオウムが、ケージの中に差し込んだ棒でボールを転がし、左右どちらかの穴に落として餌がもらえるテストに合格しています。
このニュースについては当サイトでも詳しく取り上げました。
確かにこれはオウムが複数の道具(棒とボール)を使った事例としては初でしたが、研究者たちは依然として「オウムが道具ごとの用途を理解し、それらをセットとして組み合わせて計画的に扱えるかどうかは分からない」と考えていました。
ある先行研究(Current Biology, 2021)では、野生のシロビタイムジオウムが果物から種子を取り出すために最大3種類の道具を使うことが示されています。
しかし、これも新たな問題が生じたときに別の道具を行き当たりばったりに使っているだけで、最初から意図的に組み合わせて使っているわけではない可能性があったのです。
そこでウィーン獣医大の研究チームは、先のチンパンジーの道具使用例を模倣した実験をすることにしました。
道具ごとの「役割」をちゃんと理解して使っていた!
今回の研究では、以下の実験セットを使用しました。
透明な箱の中に、好物のナッツを設置。そのナッツと箱の穴の間に円形の紙の膜が塞いでいます。
そしてこれを取るための道具として長いストローと短く先の尖った木の棒が用意されています。
紙シートは固く尖った木の棒なら容易に破れますが、ストローでは破ることが出来ません。しかし木の棒は短すぎるため、ストローを使わないとナッツまで届きません。
オウムが報酬を得るには、まず先の尖った木の棒で紙シートを破り、そのあと細長いストローに持ち替えて穴に差し込み、奥のナッツを落とす必要があります。
道具を使ってナッツを落とすことができれば、斜めに設置した板をすべって、ナッツはケースの下の穴から出てきます。
このタスク成功には、道具ごとの役割を理解して正しい順序で計画的に扱わなければなりません。
そして10羽のシロビタイムジオウムを対象に実験した結果、なんと7羽が道具を適切な順序で使用しナッツを取り出すことに成功したのです。
さらに、そのうち2羽(フィガロとフィニ)は初見の試みにもかかわらず、わずか35秒以内でこのタスクを完遂し、研究者を大いに驚かせています。
次にチームは、オウムが状況に応じて柔軟に道具の使い方を変えられるかどうかを検証。
ここでは紙シートのある箱とない箱を別々に用意して、同じタスクを実施しました。
紙シートのある場合は2つの道具を組み合わせる必要がありますが、ない場合はストローだけで十分です。
実験の結果、一部のオウムは、片方の道具を手に取り、実験セットを見た後でそれを放して、もう片方の道具に持ち替えるというスイッチング行動を見せました。
これは目の前の状況に応じて、どちらの道具を使うべきかを正しく理解していることを示しており、スイッチングをしたオウムほどタスク成功率が高かったそうです。
これらを踏まえて、研究主任のアントニオ・オスナ=マスカロー(Antonio Osuna-Mascaró)氏は「オウムは人間やチンパンジーと同様に、複数の道具の用途を理解して、それらを複合的に使用できることが証明された」と述べています。
チームは最後に、オウムがどのように道具を持ち運ぶかどうかも調査。
2つの道具を少し離れた場所に置き、実験セットへは短いハシゴを登らせるか、垂直に飛び移らせるようにしました。
また実験セットは先と同様、紙シートのあるものとないものをランダムに提示します。
すると驚くことに一部のオウムは、紙シートのないセットを提示されるとストローだけを持ち運び、紙シートのあるセットを提示されると、半分に割られたストローの中に棒を収納して一つの道具として持ち運んだのです。
中には、必要な道具を間違えて何回か運搬を繰り返す個体もいましたが、この結果はオウムが目の前のタスクに必要な道具を理解していること、運搬の手間を省くために工夫ができることなどを示しています。
こちらが実際にオウムが道具を運ぶ様子です。
以上の結果は、オウムが霊長類に匹敵する相当な知能を持っていることを証明しています。
チームは今後、オウムの知能をさらに深掘りすべく、オウムの意思決定とメタ認知(自分の認知活動を客観的にとらえる能力)の仕組みについて調査を続ける予定です。
参考文献
Cockatoos join humans and chimps as only species that can use a set of toolshttps://www.livescience.com/cockatoos-join-humans-and-chimps-as-only-species-that-can-use-a-set-of-tools
Cockatoos know to bring along multiple tools when they fish for cashews
https://phys.org/news/2023-02-cockatoos-multiple-tools-fish-cashews.html
元論文
Flexible tool set transport in Goffin’s cockatooshttps://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(23)00057-X