地球の核に変化が起きているようです。
中国の北京大学(Peking University)で行われた研究によって、地球の内核が表面に対する回転を停止させ、現在は逆回転をはじめている可能性があることが示されました。
地球の内核の挙動は地球の一日の長さに影響して「うるう秒」の発生タイミングを変化させたり、地球の磁場に影響を与えると考えられています。
最新の地球科学は生命の星の核で何を発見したのでしょうか?
研究内容の詳細は2023年1月23日に『Nature Geoscience』にて掲載されました。
目次
- 地球の内核の回転速度が鈍化し逆転の兆候があると判明!
- 内核の回転速度が増加すると1日が短くなる
地球の内核の回転速度が鈍化し逆転の兆候があると判明!
多くの人は「何時何分地球が何回まわったとき?」といった文句を幼い頃に耳にしたと思います。
大人になって振り返るとくだらなく思えますが、子供たちにとって地球の自転が時刻と結び付いているという内容は新鮮なのかもしれません。
しかし地球表面の回転数をしつこく気にする子供たちや大人の地球化学者たちも、地球内核の回転速度については多くを知りませんでした。
実際、地球内核が地球表面やマントルとは異なる速度で回転していることが証明されたのは1996年になってからだったのです。
また地球表面と内核の回転速度の差が360℃に達するのに必要な推定年数も、研究によって400年から1000年以上と大きな幅があり、詳しい理解にはほど遠い状況となっています。
そこで今回、北京大学の研究者たちは1960年代から現在にかけて観測された「内核を横断するタイプの地震波」を分析することで、内核の回転速度を調べることにしました。
地球の内核速度は70年周期で変動する
地震波のパターンは地殻やマントルの状態によって大きく異なることが知られているため、地球内核を通る地震波を分析することで、内核の状態変化を調べることができるからです。
たとえば、内核の回転速度が地殻と大きく異なる場合、内核を通過する地震波に大きな時差が発生します。
(※動く物体と動かない物体では伝達される地震波の状態に違いが出るからです)
その結果、2000年ごろまで地球の内核は表面よりも早く回転していたことが判明。
もし内核が透けて見えるとしたら、その頃の内核が自転方向に向かって前にズレて行っている様子がみえたでしょう。
しかし研究者たちが記録を調べたところ、2009年頃から内核の通過による時差がほとんどなくなっており、ここ数年では逆転の兆しすらみえはじめていることが判明します。
また過去のデータと比較すると、内核の見かけ上の回転方向は35年ごとに逆転する70年周期を取っていることがわかりました。
上のグラフは数十年以わたる内核の回転方向を可視化したものです。
グラフからは1970年代初頭をターニングポイントとして内核速度が増加に転じたものの、2009年頃にも再びターニングポイントを迎えて停滞し、減速の兆候を示していることが読み取れます。
では、このような内核の回転速度の差が地球の1日の長さやうるう秒の挿入パターンに影響を与えることはあるのでしょうか?
内核の回転速度が増加すると1日が短くなる
地球の自転速度は潮汐力の影響で徐々に減速していく運命にあります。
(※実際14億年前の地質を調べると、地球の1日が18時間ほどであったことが知られています)
しかし減速の状況は一定ではく「うるう秒」を追加する年もあれば追加しない年も存在します。
うるう秒とは地球が1回転する時間と24時間のズレを修正する制度であり、自転が24時間より遅い場合には追加され、早い場合には差し引かれることになっています。
たとえば1990年ごろの地球は1回転するのに24時間よりも約2ミリ秒ほど長くかかっていましたが、内核の回転速度が大きく上昇した2003年から2004年ごろには地球の1回転にかかる時間が24時間+1ミリ秒となっていました。
研究ではこのような内核の回転速度の早まりが、うるう秒の追加状況に影響を与えている可能性について述べられています。
実際1970年代では回転の遅さを補うために毎年のように「うるう秒」がいれられていたものが、2000年以降は挿入頻度が大幅に低くなっていることがわかります。
(※2003年と2004年の内核速度は他の時期に比べて特に早かったことがわかっています)
また70年周期といった長い期間ではなく、ここ10年あまりの内核速度と1日の長さにも一定の相関性がみられます。
たとえば2015年ごろから内核の速度が上がり始めると、うるう秒の追加はめっきり少なくなり、2020年以降は1日の長さが逆に短くなりはじめていることがわかります。
(※ただし70年周期説が正しい場合、内核速度の上昇は一時的で再び1日の長さは増えていき、うるう秒の追加も頻繁になると考えられます)
このような内核速度と1日の長さにリンクがみられるのは内核もそれを包む固体マントルもどちらも完全な球体ではなく多くの凸凹があるためだと考えられます。
つまり内核が加速すれば地球表面も引っ張られて加速され、内核が減速すれば地球表面にもブレーキがかかるのです。
研究者たちは、内核速度の周期性は地球の平均気温や海面上昇、気候パターンとも奇妙な一致をみせていることにも言及しており「地球のさまざまな層にまたがる共鳴システムが存在している可能性がある」と述べています。
地球内核の速度変動に関しては22年6月にも米国の南カリフォルニア大学(USC)より類似した研究が発表されています。
参考文献
Earth’s Inner Core May Right Now Be in The Process of Changing Direction https://www.sciencealert.com/earths-inner-core-may-right-now-be-in-the-process-of-changing-direction元論文
Multidecadal variation of the Earth’s inner-core rotation https://www.nature.com/articles/s41561-022-01112-z