薬物抵抗性を獲得する「害虫」と殺虫剤を開発する「人間」の果てしない戦いは、新たなフェーズに移行しようとしています。
大阪大学レーザー科学研究所に所属する山本和久氏ら研究チームが、レーザー光を用いて害虫を打ち落とす新技術を開発したのです。
さらに実験の中でレーザー駆除における蛾やバッタの急所を世界で初めて発見できました。
研究の詳細は、2023年1月16日付の大阪大学の『プレスリリース(PDF)』に掲載されています。
またこの成果が、レーザー学会学術講演会第43回年次大会(2023年1月19日)でも発表されました。
目次
- 「レーザー光による急所攻撃」が害虫と人間の果てしない戦いに終止符を打つ?
「レーザー光による急所攻撃」が害虫と人間の果てしない戦いに終止符を打つ?
私たち人間は、農作物を荒らす害虫を化学薬剤で駆除してきました。
ところが近年、それら害虫が薬物抵抗性をもつようになり、同じ農薬が効かなくなってきました。
たまたま農薬が効かない遺伝子を獲得した個体が生き残り、世代交代を繰り返すことで、大半の個体が抵抗性遺伝子をもつようになったのです。
新たな農薬を開発しても同様の現象が生じるため、いたちごっこになります。
2017年には、世界の農作物生産額165兆円のうち26兆円分が害虫・害獣被害により失われました。
では、害虫と人間の「果てしない戦い」を終わらせる方法はあるのでしょうか?
今回、山本氏ら研究チームは、青色半導体レーザーのパルス光を照射することで、害虫を駆除する方法を開発しました。
「薬物が効かないのであれば、レーザー光で打ち落とせばよい」というわけです。
こうした技術は、アメリカでも「蚊を打ち落とすレーザー」として開発されてきました。
ところが害虫のサイズが大きければ大きいほど、より強力なレーザーが必要となります。
動物や人間を貫く殺人レーザーを農場に設置したいわけではないので、「害虫を低出力で確実に駆除するレーザー」が必要です。
そこで研究チームは、害虫の急所を探し、そこを狙うことにしました。
彼らは、蛾の一種「ハスモンヨトウ」の各部位にレーザー光を照射して損傷度合いを比較。
胸部や顔部の損傷が大きいことを発見しました。
そしてこれら急所を狙えば、比較的小さなエネルギーでも駆除できることを証明しました。
チームはまた、世界最古の害虫と呼ばれる「サバクトビバッタ」でも同様の検証を行い、急所が胸部であることを確認できました。
まるで漫画に登場する「悪の組織」のような実験ですが、これも「果てしない戦い」を終わらせるためなのです。
そしてシステム全体の実験では、秒速2mで飛んでいるハスモンヨトウをカメラによる画像検出で追尾し、レーザー光を照射して撃墜することに成功。
レーザー光を受けたハスモンヨトウは煙を上げて落ちていきました。
今回の研究を実装できるなら、害虫と人間の果てしない戦いに終止符を打ち、世界中の害虫被害を無くせるかもしれません。
同時に、この対策が「急所狙いに適応した新たな害虫」を生み出さないことを祈るばかりです。
参考文献
青色半導体レーザーを用いた害虫の撃墜 https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230119_1