コックリさんといえば、「あいうえお」や「はい・いいえ」などを書き込んだ紙と10円玉を使う降霊術として知られています。
数人のメンバーたちの人差し指を10円玉の上に乗せながら「コックリさんコックリさん」と呼びかけ何かの質問をすると、10円玉が勝手に「あいうえお」や「はい・いいえ」を記した部分に動き、コックリさんからの答えが返ってくると言われています。
否定派は「参加者のうちの誰かが仕掛け人となって、意図的に10円玉を動かしているに過ぎない」と言います。
もちろんそういう場合もあるでしょう。
しかし近年の研究によって、仕掛け人がいない場合でも、コックリさんが機能し、参加者たちの意識から切り離されたように10円玉が動くことがわかってきました。
また名古屋大学の研究では、コックリさんを行っている参加者たちの脳波を測定したところ、不思議な同期を起こしていることも判明しています。
コックリさんが心理学的にも脳科学的にも、興味深い現象であることがわかってきました。
コックリさんの背後にはいったいどんな仕組みが潜んでいたるのでしょうか?
目次
- 「コックリさん」を科学の力で解明
- コックリさんを信じさせる3つの要因
- 「コックリさん」をしている時の脳活動を測ってみた!
- コックリさんが「こっくり」になった理由、再流行の兆しも
「コックリさん」を科学の力で解明
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コックリさんは正式にはキツネ・イヌ・タヌキと書いて「狐狗狸(こっくり)」と読みます。
そのためコックリさんは動物霊にかかわるものだという説をよく耳にしますが、実は違います。
コックリさんの直接的な起源は上の図に示すように、1890年のアメリカで開発された「ウィジャボード」と呼ばれる木製の板と、「プランシェット」と呼ばれる穴の開いた木片となっています。
ボードにはアルファベットと数字が並べられ、上側には「YES・NO」そして最下層には「GOOD BYE(さよなら)」の文字が刻まれています。
これは日本でコックリさんに使われる「あいうえお」や「はい・いいえ」が書かれた紙の祖先の姿です。
また穴の開いた木片も10円玉の役割と同じであり、参加者の指を乗せながら使われていました。
このウィジャボードは欧米で爆発的な人気を博し、日本では明治時代に、降霊術好きの外国人が立ち寄った港町を中心にブームが広がったとされています。
(※そんなアメリカンな起源を持つ降霊術がなぜコックリさんと和名で呼ばれるようになったかは後述)
そしてコックリさんのご先祖が世界中で大ブームを起こした理由は、その現象が「ホンモノ」であるからでした。
科学の信奉者である人々は口々に「参加者の1人が仕掛け人になっているに過ぎない」と主張します。
しかし以前の研究では、そんな否定派の人々を集めて実際にコックリさん(実際にはウィジャボード)を行ってもらった結果、10円玉の役割をする木片が、本当に勝手に動き出し「霊の存在を信じざるを得ない」との感想が得られたことが報告されたのです。
同様の実験結果は仕掛け人の存在を排除するためにランダムな人選を行った別の研究でも報告されており、参加者たちの指が乗せられた木片は参加者たちの意思に反して勝手に動いているように見えました。
この不思議な現象は、いったいどんな仕組みで発生しているのでしょうか?
研究者たちは実験を繰り返し、結果3つの主な要因を特定しました。
コックリさんを信じさせる3つの要因
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1つ目の要因は観念運動効果(ideomotor effect)、いわば人間の無意識の動きです。
ある研究で、参加者たちに「高齢者」にかかわる単語を含む作文を行ってもらったところ、その後の参加者たちの歩行速度が明らかに低下したことが判明しました。
「高齢者にかかわる作文を作る」という行為が被験者たちの無意識に影響し、被験者たちの歩行運動(脚の筋肉)に大きな影響を与えていたのです。
同様の無意識による効果は、ダウジングなど他のさまざまなオカルト的な現象の原因となっていると考えられています。
また2019年に行われたアイトラッカー(視線追跡装置)を使った研究では、実験を行う時間が長くなるにつれ、参加者たちの視線が指を乗せた木片の動きに先行予測するようになっていくことが判明しています。
もし霊的存在が本当に参加者たちの意思や無意識に関係なく10円や木片を動かしているなら、指の動きと参加者たちの視線は一致しないはずです。
つまり、コックリさんの結果は、参加者たちの知識や経験をもとに、参加者たちの無意識の声を反映しているものになっているのです。
実際「原子番号100番の元素名」や「見知らぬ人の趣味」など、参加者たちの誰もが知らない情報の正誤を訪ねた実験では、コックリさんは正しい答えを当てることはできませんでした。
この結果はコックリさんの解答能力も参加者たちの集合知に依存することを示します。
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2つ目の要因は主体性(agency)と呼ばれる、目の前の現象が自分の行動によって起きていると信じる能力です。
通常、目の前にある自分のPCやスマホの検索画面にキーワードが入力されているのは、自分が文字を打ち込んでいるからだと、自分の主体性を信じることができます。
何のことはない能力に思えますが、コックリさんでは、この主体性を信じる能力が上手く機能していないことが問題になります。
以前に行われたコックリさん研究では、研究者が人為的な方法で参加者の主体性の感覚を操作したところ、参加者は霊的な存在が10円玉や木片を動かしていると答える傾向が強くなりました。
また参加者たちの主体性を信じる能力を測定したところ、主体性を信じる能力が低い人ほど、霊的な存在の介入を感じる傾向が高くなりました。
つまり、自分たちの指を置いている10円玉の動きが自分たちの意思によるものだと信じることができない人ほど、コックリさんのとりこになりやすいのです。
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3つ目の要因は感情の伝染です。
コックリさんにおいては、この3つ目の感情の伝染が最も強い悪影響を与えます。
1つ目の無意識の影響(観念運動効果)や2つ目の自分の行いを自分がやったと信じる能力(主体性)の影響は、本人のみに留まります。
しかし主体性が乏しい人間が、自らの無意識的な動きに霊的存在の介入を感じて、恐怖を覚えて騒ぎ出した場合は異なります。
私たち人間を含む社会的な動物には、別の個体が感じた恐怖を自分の恐怖のように感じる「恐怖の伝染」を起こす能力があります。
この能力は本来、捕食者や自然災害などの脅威を集団に素早く伝達することで逃走をうながし、生存率を上げるために存在します。
しかしコックリさんではしばしば「霊と交信している最中は指を離してはいけない」「コックリさんからは逃げられない」など逃走不可な条件が付け加えられています。
そのため、恐怖を感じた参加者の間で恐怖が伝染されながら増加していっても、逃げることができず、結果的に発狂などを起こしてしまう場合があります。
たとえばコックリさんが大流行していた1973年、ある群馬県の中学校において、コックリさんを行っていた女子生徒たち数人が集団パニックを起こした事例が記録されています。
また南米ペルーではコックリさんに似た儀式から発生した恐怖が80人にも及ぶ生徒たちの集団発作を引き起こした事例も報告されています。
以下の動画はパニックを起こした生徒たちの様子です。
(注意:衝撃的な光景なので注意してください)
同様の集団パニックはさまざまな時代や国で繰り返されており、コックリさんに起因する恐怖の伝染が人間の精神に重大な影響を与えていることを示しています。
そうなると気になるのが、コックリさんを行っているときの人間の脳の様子です。
コックリさん先進国である日本で2013年に発表された研究では、コックリさんを行うことで生じる非常に興味深い脳現象を発見しています。
「コックリさん」をしている時の脳活動を測ってみた!
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近年の脳科学研究により、さまざまな活動を通して人間の身体活動が不思議な同期を起こすことがわかってきました。
たとえば2022年度のイグノーベル賞の応用心臓病学賞を受賞した研究によれば「運命の出会い」が起こるとき、2人の心臓は同期し、同じリズムで鼓動しはじめることが示されています。
また最近になって行われた研究では、たとえ部屋に1人でいても、オンラインゲームの協力プレイは、プレイヤー間の脳活動を同期させる効果があることも報告されています。
さらにマウスを用いた研究では、マウスの脳に刺した光ファイバーに同じタイミングで光を送り脳活動を同期させることで「強制的に友達を変更させる」ことにも成功しています。
このように動物の体や脳は、特定の行動に一緒に従事することで、活動パターンを一致させる能力があります。
そこで名古屋大学の研究者たちは、参加者たちにペアになってコックリさんを行ってもらい、そのときの脳波を調べることにしました。
結果、驚くべきことに、コックリさんを行っている参加者たちの脳波が同期を起こしていたことが判明します。
研究者たちは、コックリさんを行う参加者たちは、コックリさんからの答えに対して共通の期待や予測を行っていたことが脳活動を同期させていた要因になったと述べています。
コックリさんが「こっくり」になった理由、再流行の兆しも
コックリさんの直接的な起源が1890年に作られたウィジャボードにあることは先に述べたとおりです。
それならば、なぜ日本ではその名前である「ウィジャさん」や「ボードさん」ではなくコックリさんになってしまったのでしょうか?
哲学者としても知られる井上円了(1858〜1919)によれば、コックリさんの先祖であるウィジャボードが日本に伝わりはじめた初期のころ、伊豆の下田において、ご飯を入れるオヒツと竹を使った即席テーブルでウィジャボードが遊ばれていたのが起源とのこと。
即席のテーブルは非常に不安定であり、遊んでいると「こっくり、こっくり」と音がします。
井上円了によれば、この音がコックリさんの名の本当の起源であり、「狐狗狸」のようにキツネやタヌキの名を当てはめるようになったのは、後の時代のことだそうです。
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コックリさんは死者や超常的存在とコミュニケーションをとりたいという大衆の欲求によってブームを起こします。
一部の専門家たちは、このようなニーズが社会的混乱や政治的混乱の時代に大きくなる傾向があると指摘しています。
現在の人類は、新型コロナウイルスの流行、インフレ、戦争、温暖化など、社会的政治的混乱を引き起こす多くの要因に直面しています。
そのため専門家たちは、コックリさんが再び大流行する可能性は十分にあると結論しています。
参考文献
How the Ouija board got its sinister reputation
https://theconversation.com/how-the-ouija-board-got-its-sinister-reputation-66971
元論文
Predictive minds in Ouija board sessions
https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s11097-018-9585-8.pdf
(PDF)
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。