もっとも人間を殺している生物ランキングで、意外にも一位に来るのが蚊です。
蚊は感染症などを媒介させることで年間75万人の命を奪っています。
日本で蚊が危険な感染症を運ぶことはめったにありませんが、いずれにしろ蚊に刺された後の痒みは嫌なものです。
そのため夏や秋など野外で活動するときには、蚊よけスプレーが欠かせません。
しかし、普段から使用していても蚊よけスプレーがどのような仕組みで蚊に刺されることを防いでくれるのか理解している人は少ないでしょう。
そこで今回は、インド工科大学ハイデラバード校(IIT Hyderabad)の化学者ルシャブ・チェダ氏が解説する蚊よけスプレーの仕組みについて紹介します。
目次
- 蚊はどうやって私たちを発見しているのか?
- 蚊よけスプレーはどのように機能する?
蚊はどうやって私たちを発見しているのか?
最初に、蚊が私たち人間を見つける方法について考えましょう。
蚊の主要なエネルギーは糖分なので、普段は花の蜜や樹液などを食料にしています。
しかし交尾後のメスだけは、タンパク質など産卵に必要な栄養素を得るために、人間や動物の血を求めるようになります。
では、それらメスの蚊はどのようにしてターゲットを探すのでしょうか?
蚊は視覚ではなく、感覚器を備えた触角によって人間を探索します。
この感覚器は、私たちの体から発される二酸化炭素や温度を感知できます。
蚊は、まず二酸化炭素を感知して周囲に注意を張り巡らします。
次いで、人間や動物の体温によってつくられる「温かい空気の流れ」を探し、その流れから温かくて生きた動物を発見するのです。
さらに蚊の感覚器は、汗に含まれる乳酸にも強く反応します。
そのため私たちが汗をかくと、「体温の上昇」と「乳酸」が、いつもより多くの蚊を呼び寄せてしまいます。
では、これら複合的なセンサーをもつ蚊に刺されないようにするには、どうすれば良いのでしょうか?
蚊よけスプレーはどのように機能する?
蚊は触角の感覚器によって人間や動物を発見します。
そのため市販の蚊よけスプレーは、蚊の感覚器をターゲットにしています。
感覚器の受容体とその神経細胞の伝達プロセスを妨害するのです。
例えば、人間を見つけるのに役立つ受容体を阻害したり、不必要な受容体を活性化させたりします。
これにより蚊の中枢神経系は騙された状態になり、「周囲に人間や動物はいない」と信じ込むようになるのです。
つまり私たちが蚊よけスプレーを体に塗布すると、蚊にとって「血が流れていない無機物」のような存在になれるわけですね。
ちなみに、市販の蚊よけスプレーに用いられている主な成分は、ディートやピカリジン(またはイカリジン)と呼ばれる化合物であり、塗布することで高い蚊よけ効果が得られます。
またこの2つほど持続性はありませんが、コウスイガヤ(シトロネラグラス)やレモンバームに含まれる「シトロネラール」などの天然の虫よけ剤も存在しており、その効果も証明されています。
虫よけスプレーの働きを考えると、どのように塗布するのが効果的かも分かります。
大切なのは、皮膚にムラなく塗布することです。
塗布する蚊よけ剤の量を増やしても蚊よけ効果が高まることはありませんが、いくらか効果時間を延ばせるかもしれません。
しかし長時間活動する場合にはどうしても汗をかいてしまうので、蚊よけスプレーを携帯して定期的に塗布しなおすのがベストでしょう。
次に蚊よけスプレーを使う際には、「変化の術で敵を欺く忍者」や「塗り薬で変身する透明人間」のような気持ちで、体中に満遍なく塗布してみてくださいね。
参考文献
How Do Mosquito Repellents Work? How Do They Keep Mosquitoes from Biting Us? https://www.scienceabc.com/eyeopeners/how-do-mosquito-repellents-work-how-do-they-keep-mosquitoes-from-biting-us.html