やっぱり読書は「紙」がいいかもしれません。
近年、電子書籍の普及により、スマホやタブレット端末で本や新聞を読む機会が増えています。
しかし2022年に昭和大学医学部が行った研究では、電子機器の読書の方が「読解力」が低下していることが報告されました。
これは以前からも指摘されていましたが、本研究の新しい知見は、読解力が下がる原因まで示されたことです。
それによると、「脳の過活動」と「ため息の減少」が関係しているという。
前者はなんとなくわかりますが、「ため息」が一体どう関係しているのでしょうか?
研究の詳細は、2022年1月31日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- 「ため息」には作業効率を高める効果がある?
- 「深呼吸」を取り入れて、脳のオーバードライブを防ぐ
「ため息」には作業効率を高める効果がある?
研究チームは今回、電子機器での読書が読解力を低下させる”原因”を探るべく、調査を開始。
その中で、認知機能やパフォーマンスと関連する2つの要因:「視覚環境」と「呼吸パターン」に着目しました。
紙媒体と電子スクリーンの違いから「視覚環境」は納得できますが、「呼吸パターン」に焦点を当てた理由について、研究主任の本間元康氏はこう説明します。
「研究室での作業中、隣の席の女性が頻繁にため息をついていたので、気になって先行研究に当たってみました。
すると、ため息は社会的コミュニケーションにマイナスの印象を与える一方で、認知機能にはプラスの影響を与えることがわかったのです」
つまり、ため息は、意識的にせよ無意識的にせよ、作業効率を高める可能性があるのです。
「紙」と「スマホ」で読解力テスト
そこでチームは、34名の大学生(平均年齢20.8歳、女性20名)に参加してもらい、スマホおよび紙媒体の2パターンでテキストを読む実験を行いました。
テキストには、村上春樹氏の小説『ノルウェーの森』と『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』から抜粋し、スマホと紙で同じ文章を読むことがないようにしています。
読書中は、ヘッドバンド(NIRS:機能的近赤外分光法)で前頭前野の活動を記録し、また呼吸パターンを測定するため、口と鼻を覆うエアロモニターを装着してもらいました。
その後、テキストの内容に関連した10の質問をし、読解力をテストします。
(※文字サイズなどは、紙とスマホでまったく同じに設定してある)
結果、テキストの違いに関係なく、紙媒体で読んだ方が、スマホに比べて、全体的に読解力のスコアが高いことが示されました。
これは、「電子機器での読書が理解力を妨げる」という先行研究と一致します。
それから、紙とスマホによって、学生の呼吸パターンに違いが認められました。
紙で読んだときの方が、スマホに比べて、より多くのため息が誘発されていたのです。
この場合のため息は、「1呼吸の深さが通常の呼吸の2倍になるもの」と定義されています。
さらに、どちらの媒体でも、読書中に前頭前野の活動が高まっていましたが、興味深いことに、スマホで読むときの方がより活発になっていました。
しかも、このスマホ読書による前頭前野の過活動は、「ため息の回数の減少」と「読解力のスコア低下」につながっていたのです。
では、スマホでも快適に読書するには、どうすれば良いのでしょうか?
「深呼吸」を取り入れて、脳のオーバードライブを防ぐ
これまでの研究で、人は認知的な負荷をともなうタスクに直面すると、ため息を着く回数が増えることが示されています。
ところが、スマホ読書による脳の過活動は、逆に、ため息の回数を減らしていました。
これについて、研究チームは「紙媒体での”適度な”認知負荷は、ため息の増加につながり、それが脳機能を回復させているのだろう」と指摘。
一方で、「スマホで本を読むと、強すぎる認知負荷がため息を防ぐことになり、そのせいで脳が過活動状態に陥ったのではないか」と説明します。
それが最終的に、読解力の低下を引き起こしているのかもしれません。
スマホの場合に、認知不可が高まってため息が低下する原因については、スマホ画面の明かりが脳の覚醒状態を高めている可能性が予測されます。
よく就寝前にスマホ画面を見ていると眠れなくなるという話と関連するかもしれません。
そこで本間氏は「電子機器を長時間使用する人は、意識的にでも深呼吸を取り入れることを提案したい」と述べています。
深呼吸をすることで、脳がオーバードライブ状態に陥ることを防ぎ、認知機能の風通しをよくできる可能性があります。
一方で、本研究の参加者は、20歳前後の若者のみであり、他の世代でも同じ結果になるかどうかはわかりません。
彼らは、生まれたときからインターネットが身近にあった世代であり、電子機器には日頃から十分に慣れています。
しかし、インターネットに馴染みのない世代や、普段からあまり使わない人は、認知負荷がさらに高まることも考えられます。
そのため、逆にもっと若い世代へ目を向けていくと、こうした効果が徐々に緩和されていく可能性も考えられます。
こうした点は、今後の研究課題となります。
けれど、どういったところで現代の私たちの生活は、もはや電子機器の利用から切り離すことはできないでしょう。
もし、スマホ読書で「内容が頭に入ってこない」と感じたら、深呼吸を取り入れるか、あるいは紙の本に立ち戻るのがいいかもしれません。
※この記事は2022年4月公開のものを再掲載しています。
参考文献
Reading on a smartphone promotes overactivity in the prefrontal cortex and lowers reading comprehension, study finds
https://www.psypost.org/2022/04/reading-on-a-smartphone-promotes-overactivity-in-the-prefrontal-cortex-and-lowers-reading-comprehension-study-finds-62848
元論文
Reading on a smartphone affects sigh generation, brain activity, and comprehension
https://www.nature.com/articles/s41598-022-05605-0
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。