はじめに
1937年と1939年にヘレンケラーが、そして2018年にアリーナ・ザギトワがそれぞれアメリカとロシアに持ち帰ったことで秋田犬が注目されました。秋田犬は日本を代表する犬種であり、「忠犬ハチ公」の物語から飼い主に忠実な犬としてイメージが強く海外でも人気があります。2009年にはリチャード・ギア主演の「HACHI約束の犬」で忠犬ハチ公の物語は世界中に紹介されました。
さらに第二次世界大戦後には、大型の秋田犬に注目したアメリカ兵たちが自国に持ち帰るようになりました。アメリカに渡った秋田犬はグレートジャパニーズドッグ、またはアメリカンアキタとして知られるようになり、秋田犬とは違う犬種として登録されるようになりました。そこで今回は、秋田犬とアメリカンアキタにはどんな違いがあるか比較してみることにしましょう。
秋田犬とアメリカンアキタについての基本情報
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秋田犬とアメリカンアキタ、別々の犬種として登録されていますが何が違うのでしょうか?それぞれの基本情報を調べてみましょう。
アメリカンアキタと秋田犬はもともと同じ犬種だった
日本では国の天然記念物として指定されている代表的な犬種でもある秋田犬ですが、第二次世界大戦が終わるころには激減したという歴史があります。その当時のアメリカ兵が日本では珍しい大型犬である秋田犬に目をつけて、アメリカに持ち帰ったことからアメリカンアキタの歴史がスタートしました。つまり、アメリカンアキタのルーツは日本の秋田犬にあるということです。
もともとは同じ犬種でしたが、日本国内では秋田犬らしさを求めた繁殖がなされ、アメリカではアメリカの風土に合わせた改良が行われたため、別々の犬種として認識されるようになったようです。別々の犬種と認識されているとはいえ、秋田犬とアメリカンアキタには沢山の共通点があります。ではこの両犬種の歴史や特徴、性格について調べてみましょう。
秋田犬の歴史
秋田犬の祖先は狩猟犬であるマタギ犬だとされています。当時は中型またはそれよりも少し大きいくらいのサイズの犬種でしたが、江戸時代から明治時代に盛んに行われるようになった闘犬に使用されると、土着犬との交配を行なって大きくて強い犬を誕生させるようになりました。明治時代になると外国からやってきた大型犬種を交配させることも行われました。
闘犬ブームによってマスティフやジャーマンシェパード、グレートデンなどの大型洋犬が交配に用いられ、さらに国内の他地方で闘犬として活躍していた土佐犬など様々な犬種との交配も行われるようになったため、見た目や性格がバラバラだったと言われています。
1916年になると日本でも闘犬が禁止されるようになり、秋田犬の存続が危ぶまれました。そこで秋田犬を保存する運動が行われるようになります。1919年には天然記念物保存法が発令され、秋田犬の調査も行われましたが、雑種化していてタイプに乱れがあったため見送られてしまいます。その後も秋田犬の保存のための運動が引き続き行われ、1931年に天然記念物として指定されました。
秋田犬が全国で知られるようになったのは、1932年に新聞に載った「忠犬ハチ公」の記事です。亡くなった主人を渋谷駅で待ち続ける秋田犬は、忠実な犬として多くの人に知られるようになりました。1938年には秋田犬標準が制定されるようになり、秋田犬の保存がさらなる進展を見せるようになりました。
第二次世界大戦により食糧難に陥ると、犬に餌を与えることも難しくなりました。大型で餌をたくさん必要とする秋田犬の保存も難しく、頭数が激減するようになりました。さらに、犬の毛皮が防寒具として必要になったため、軍用犬以外の犬が捕獲されるようにもなりました。そのため秋田犬と軍用犬であるジャーマンシェパードの交配がされるようになりました。
戦争が終わると大型でかわいいとして、アメリカ兵たちが秋田犬を好んで自国に持ち帰るようになります。さらに戦後の混乱期には番犬の需要も高く、秋田犬の人気が高まるようになりました。戦時中にジャーマンシェパードの血が入ったため、その特徴が出ているタイプの秋田犬が多くいました。このタイプは出羽系と呼ばれ、繁殖力も強く、頭数をどんどんと増やしていきました。
1950年代から1980年代にかけて秋田犬を撮影した8ミリフィルムが残されていますが、その映像では折れ耳やブチの犬もいて、現在の秋田犬とは大きく異なっていることがわかります。
やがて、純血の秋田犬を残そうとする努力も行われるようになりました。戦後に残された純血種は10頭ほどしかいませんでしたが、このわずかな個体をもとに繁殖が行われるようになりました。さらに出羽系は本来の秋田犬ではないとしてどんどんと数を減らすようになりました。こうして純血種の一ノ関系が秋田犬の主流になりました。
秋田犬は大型犬なので簡単に飼育することはできませんが、ジャパンケネルクラブ(JKC)の2018年(1月~12月)までの犬種別犬籍登録頭数では225頭で第42位になっており、安定した人気があることがわかります。
秋田犬の特徴や性格
秋田犬は日本犬の中では珍しい大型犬で、平均体高は61㎝~67㎝、平均体重は35㎏~50㎏ほどだとされています。がっしりとした体つきをしていて、厚くて三角形の立ち耳、黒い鼻が特徴的です。体高よりも体長がやや長くてバランスのいいすらっとした見た目をしています。日本犬の中でも最も美しいと評価されるほどのエレガントさを感じることもできます。
秋田犬の毛色は赤、虎、白で、体の下や手足の先は白でなければならないとされています。かつては黒や胡麻色の個体もいましたが、現在ではほとんど見られなくなりました。被毛はダブルコートの短毛で、寒さに強いのが特徴です。まれにむく毛の個体が生まれることがありますが、犬種スタンダードでは長毛は認められていません。
忠犬ハチ公で有名になっただけあって、飼い主に忠実な性格をしています。家族に対して愛情深く、活発で運動が大好きな性格でもあります。保守的なところもあるので、家族以外の人やほかの犬に対して警戒心を強く持つことがあり、攻撃的な態度を示すこともあります。かつては狩猟犬や闘犬として改良されてきた影響だということでしょう。
大型で力が強い犬種なので番犬として優秀ではありますが、攻撃性も強く事故を引き起こすことがあるので飼育には十分な注意が必要です。地域によっては飼育の際に届け出が必要だったり、檻の中での飼育が義務付けられていたりする場合があるので確認する必要があります。しつけをしっかりと行って、いざという時に愛犬をコントロールできるようにしましょう。
アメリカンアキタの歴史
前述の通り、アメリカンアキタのルーツは秋田犬にあります。ヘレンケラーが持ち帰った秋田犬は純血ですが、戦後にアメリカ兵が持ち帰った秋田犬はジャーマンシェパードの血が入っている出羽系でした。これら出羽系の秋田犬はアメリカに渡ると、エレガントなルックスと忠実な性格により人気を博すようになりました。
さらにアメリカの風土に合わせてマスティフやジャーマンシェパードとの交配が行われ、アメリカ風に改良されるようになりました。そのため、純血の秋田犬とは異なる犬種になったとして別犬種として登録されるようになりました。1956年にアキタ・クラブ・オブ・アメリカが設立されると、1972年にアメリカンケンネルクラブ(AKC)に登録されました。
2009年にハリウッド映画「HACHI約束の犬」が公開されると、アメリカでも秋田犬がブームとなり著名人によって飼育されるようになりました。秋田犬と同様、アメリカンアキタも人気が出るようになりました。日本に比べるとアメリカのほうが大型犬を飼いやすい住宅事情だということも影響しているでしょう。
アメリカンアキタはグレートジャパニーズドッグとも呼ばれ、アメリカンケンネルクラブ(AKC)のランキングでは193犬種中47位となっています。
アメリカンアキタの特徴や性格
アメリカンアキタは平均体高が61㎝~71㎝、平均体重が32㎏~59㎏にもなる超大型犬とされています。秋田犬と同じようにがっしりとした体つきをしていて、三角形の立ち耳が特徴的です。鼻とその周りが黒いブラックマスクの個体がいるのも特徴的で、ジャーマンシェパードの特徴が残っているということができるでしょう。
密度のあるダブルコートと熱い毛皮で寒さに強く、痛みにも耐えることのできる強い体だと言われています。カールしているフワフワの尻尾も特徴です。秋田犬と同じく家族に忠実な性格をしているアメリカンアキタは、子どもと遊ぶのも好きなのでファミリードッグとしての人気も高いです。しかし家族以外の人やほかの犬に対しては警戒心を強く示す一面もあるようです。
学習能力が高く賢い犬種なので、しつけをしっかりとすることによって従順なパートナーになると言われています。ただし秋田犬と同様に、攻撃性が高い性格も持ち合わせているので、他の人にケガをさせないように注意する必要があります。