人間用の粉ミルクを犬に与えてもいい?
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「赤ちゃん用の粉ミルクが余ったので、犬に与えても大丈夫ですか?」という質問がインターネット上に出ていました。確かに余ったらもったいないですし、栄養満点の赤ちゃん用の粉ミルクを有効活用したいという気持ちはわかりますよね。人間用の粉ミルクですが、犬に与えても大丈夫なのでしょうか?
映画やアニメ、漫画などで、捨てられていた犬に牛乳を与えているシーンを見ることがありますね。近所の人も犬や猫に牛乳をあげたり、パンを牛乳でひたひたにして与えたりしていたので、犬には牛乳を与えても大丈夫だと考えている人が多いのではないでしょうか。それならば人間用の粉ミルクだって犬に与えても大丈夫だと考えてしまうでしょう。
人間用の粉ミルクを犬に与えることについて今回は調べてみました。人間用の粉ミルクは与えたらダメだという意見がありますが、理由は何なのでしょうか。その一方で人間用の粉ミルクだって与えても大丈夫だという意見もありますが、与える際の注意点は何でしょうか。
人間用の粉ミルクを前に「う~ん…」と考え込んでいる飼い主さんがいたらぜひ参考にしてくださいね。
人間用の粉ミルクを犬に与えてはいけない理由
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犬用の粉ミルクと人間用の粉ミルクは栄養成分が違うから
人間の赤ちゃんも犬の赤ちゃんも母親の母乳を必要としています。では、人間の赤ちゃんに犬の母乳を与える、または犬の赤ちゃんに人間の母乳を与えても大丈夫なのでしょうか?
答えはノーです。というのも人間の母乳と犬の母乳では成分が異なるからです。人間の赤ちゃんと犬の赤ちゃんが必要としている栄養成分は違うのです。ということは、人間の赤ちゃん用に作られた粉ミルクと犬用に作られた粉ミルクでは栄養成分も異なるということがわかります。それぞれの成分表を比較してみるとわかるでしょう。
○犬の母乳
炭水化物16.9%タンパク質33.8%脂質38.8%
○人間の母乳
炭水化物57.2%タンパク質11.3%脂質25.8%
○犬用粉ミルク
炭水化物16.5%タンパク質34.0%脂質39.0%
○人間用粉ミルク
炭水化物58.0%タンパク質12.6%脂質22.3%
このようにそれぞれのミルクの成分を比べてみると、人間と犬とでは大きく違うことがわかります。つまり、犬に人間用の粉ミルクを与えると栄養バランスが崩れてしまうということがわかるでしょう。同様に、牛の乳である牛乳も犬の母乳の代わりにはなりません。犬には犬用の粉ミルクを与えることで栄養バランスを保つことができます。
人間用の粉ミルクを犬に飲ませると下痢になるから
人間の赤ちゃんでも起こりうることですが、ミルクが合わないと下痢を起こしてしまいます。ミルクの中には乳糖(ラクトース)という成分が含まれています。この乳糖を分解する酵素であるラクターゼを持っていないと、消化不良を起こして下痢になってしまいます。
乳糖は犬の母乳にも含まれていますが、その量は3.1%だとされています。人間用に作られた牛乳には5.0%の乳糖が含まれているとされています。犬は子犬の時期に乳糖を分解するラクターゼをある程度は持っていますが、乳離れするとラクターゼが減少するため、牛乳を飲ませると下痢を起こしてしまうと言われています。
それで人間用の粉ミルクでも乳糖が含まれていると、それを上手く分解できなくて下痢を起こしてしまうことがあります。子犬でも十分な量のラクターゼを持っていないと消化不良を起こしてしまいます。ラクターゼが減少する成犬になるとなおさら、下痢のリスクが高くなるということがわかります。
もちろん、人間用の粉ミルクの中には低乳糖のものや乳糖を含まないものも販売されています。人間の赤ちゃんにも乳糖に耐性がなくなる乳糖不耐性の子もいるからです。ミルクを飲んで下痢をしてしまう赤ちゃんには低乳糖または乳糖が入っていない粉ミルクがすすめられることもあります。
では低乳糖であれば大丈夫なのかというと、上記に挙げた栄養成分が異なるという理由で、やはり犬には犬用の粉ミルクを与えるほうが望ましいということがわかります。
人間用の粉ミルクはアレルギーの原因になるから
全ての食品に言えることですが、アレルギー反応が出るかもしれないというリスクがあります。犬の中には乳製品にアレルギー反応を起こす子もいます。与える必要のない人間用の粉ミルクによって愛犬がアレルギー反応を起こしてしまうのは嫌ですよね。
人間用の粉ミルクを犬に与えてもいい場合
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小さなころから人間用の粉ミルクを飲んでいる
人間用の粉ミルクを与えても問題ないという意見もあります。犬の母乳にも乳糖は含まれていて、子犬はそれを分解するためのラクターゼを持っているから下痢をする心配もないというのです。そして成犬になるとラクターゼは減少するわけですが、小さなころからミルクを与えていればラクターゼの減少を抑えることができるということです。
成犬になってもある程度のラクターゼを持っていれば、人間用の粉ミルクや牛乳を与えても下痢をする、または軟便になるというリスクが減るという見方もできます。確かに牛乳をごくごく飲んでも下痢をせずに元気にしている犬を見ることがありますね。小さなころから飲みなれていてラクターゼもしっかり残っているのかもしれませんね。
薄めにして与えてるから大丈夫
粉ミルクを作るときに水を多めに入れて薄くすれば大丈夫だという意見もあります。乳糖を薄めることによって犬の体への負担を減らすというわけです。アレルギー反応には気を付けなければなりませんが、それさえ大丈夫であれば下痢の心配をすることなく薄めた粉ミルクを与えることができます。
ちなみに、乳糖は熱によって分解することはありません。一度沸騰させれば乳糖が分解されるので与えても大丈夫だと考えるかもしれませんが、乳糖はそのまましっかりと残っているので、下痢を起こしてしまうでしょう。乳糖のパーセンテージを減らすには水で薄めるという手段しかありません。
少量だけをドライフードにふりかけて与えている
少しだけならという考えであれば、人間用の粉ミルクを与えてはいけないと言い切ることはできないでしょう。粉ミルクに含まれている栄養成分は犬にとって有効なものもたくさんあります。栄養を補うためにドッグフードに少量をふりかけて与えたいと思う飼い主もいるかもしれませんね。
ドッグフードは総合栄養食なので、基本的には犬が必要とする栄養成分を十分に摂取できるように作られています。何らかの理由でどうしても補いたい栄養成分がある場合に、ドッグフードにサプリメントなどをトッピングすることがあります。サプリメント感覚で人間用の粉ミルクをふりかければいいではないかと考える人もいるかもしれませんね。
少量であれば、乳糖への耐性を付けることができたり、含まれている栄養成分を補ったりすることができたりするでしょう。ただし、与え過ぎると犬の健康に害を及ぼす可能性もあるので、与えようとしている人間用の粉ミルクの栄養成分をチェックするようにしましょう。有効な栄養成分でも過剰摂取すると害になるものがあるので注意が必要です。
また、カロリーについても考える必要があるでしょう。粉ミルクを与え過ぎるとカロリーオーバーになってしまうことがあります。そのために普段与えているドッグフードの量を減らしたりおやつをなくしたりする必要が出てきます。そこまでして人間用の粉ミルクを与えなければならないのか、考えてみるといいでしょう。
人間用の粉ミルクを無理に与える必要はない
人間用の粉ミルクを犬に与えてもいい場合について述べましたが、やはり無理に与える必要はないというのが結論になります。赤ちゃん用の粉ミルクが余った場合などは別として、あえて人間用の粉ミルクを購入して与える必要はないでしょう。
人間用の粉ミルクを与えることのメリットとデメリットでは、デメリットのほうが多いということができます。愛犬の健康のことを考えると、無理に与えることにメリットを感じることはできないでしょう。どうしてもという場合は犬用のミルクを購入しましょう。