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グローバルと他の産業の視点で未来を拓く! 日本農業の潜在力を最大に発揮させる戦略はこれだ!【食品のムダをなくす一冊】


グローバルと他産業の視点なしには日本農業の未来戦略は立てられない!(写真はイメージ)

10月は「食品ロス月間」。冷蔵庫の活用術や、食材やお料理の節約術、最新の農業事情などをテーマにした本を随時、紹介していこう。

グローバルと他の産業の視点なしには日本農業の未来戦略は立てられない、と世界的なコンサルティング企業マッキンゼーが示した農業改革の書が、本書「マッキンゼーが読み解く 食と農の未来」である。

農業が生産者だけの問題ではなく、その農作物を食べる、全世界のすべての人の問題になっているという視点から、日本農業の潜在力を最大に発揮させる戦略を提言している。

「マッキンゼーが読み解く 食と農の未来」(アンドレ・アンドニアン、川西剛史、山田唯人著)日本経済新聞出版

最初の生産量の32%が消えている

著者の3人はいずれもマッキンゼーの関係者だ。アンドレ・アンドニアン氏はマッキンゼー日本支社長でシニアパートナー。川西剛史氏はアソシエイトパートナーで農学博士。山田唯人氏はパートナーでサステナビリティ研究グループのリーダー。

マッキンゼーらしいと思ったのは、「グローバルの視点」として、近年議論が活発になっているサステナビリティについて、最初に触れていることだ。農業分野において気温上昇基準(1.5度未満の上昇)を満たすには、以下の4つのアプローチがあるという。

(1) 生産者側の温室効果ガス排出抑制
(2) 需要側の変化(フードロス低減など)
(3) 農地の用途変更
(4) 新技術の開発

生産側のみならず、(2)に挙げられている、動物性タンパク質の少ない食生活への切り替えなど需要側の努力も必要になる。生産地(畑)から流通に回るまでのフードロスおよび飲食店におけるフードロス(食べられずに捨てられてしまう食料)の半減(50%)、加えて、牛肉から鶏・豚および大豆タンパク質等への切り替えを半分(50%)とかなり大がかりなものとなる。

日本農業の変革についての提言は後述することにして、本書がこのフードロスに言及している部分をピックアップして、まず紹介したい。

現在、世界中で問題になっているフードロスには、一つの特徴があるという。先進国では消費段階でのロスが最も大きいのに対して、新興国では生産段階やその保管段階など上流工程で多くロスが発生していることだ。

食物バリューチェーンの工程別に見た世界のフードロスの現状を図表で示している。それによると、生産段階で4.8ギガトンあった食品が、取り扱い・保管、加工・包装、流通、最終消費者と各段階を進むにつれてロスが発生。最終的に家庭で消費された段階では食品は3.2ギガトンに減ってしまう。じつに1.6ギガトン、最初の生産量の32%が消えてしまっているのだ。

フードロスに新興国と先進国に差があり、新興国では生産段階や保管段階など上流で大きなロスが出ている。100の生産が保管段階に入るのは、そのうちの80%ほどで、生産三回で腐ったり病気になったりするロスが多く発生しているからだ。先進国での最大のフードロスは逆に最終の消費段階で発生し、14%が廃棄されているという。

栽培計画と可視化したベストプラクティスが重要

本書は、第Ⅰ部で、マクロエコノミクスの変化、技術革新、食習慣・食生活の影響、代替品・代替手法の登場、新規参入プレイヤーなど8つのメガトレンドについて解説し、第Ⅱ部で、日本の食と農の未来を論じるという構成になっている。

日本の従来の農業では、一人ひとりの生産者がそれぞれに作りたいものを作る(プロダクトアウト)というスタイルが主流だった。効率的な栽培計画を立てるというよりは、前年踏襲の作法を続け、他産地の状況や気候等により乱高下する農作物価格のなかで、生産者はその不確実性を楽しむかのような傾向もあった。

しかしながら農業が大規模化し、雇用する労働力や購入する肥料・農薬・資材のボリュームが大きくなるにつれ、可能な限り安定的な価格で、決まった量を販売する必要性が高まってきた。卸売市場の実需者(バイヤー)と生産者が直接話し合い、需要と供給の確実性を高めた需給調整を行う場面も出てきているという。

そこで重要になってくるのが栽培計画だ。米国やカナダでは栽培計画を進める上での新しいビジネスが起こっている。日本でもテラスマイルという会社が気象データ等のビッグデータと農業経営の実績をもとに経営計画を策定したり、アドバイスしたりして、宮崎県内のピーマン農家グループで3年間実践し、3年目には2年目の15%の収量増を達成したという。

農業技術の伝承には、「農作物の栽培方法にベストプラクティス(篤農家の技術)は存在する」という考え方が大前提としてあるそうだ。これらは明文化されず、世代を超えて伝承しにくいというデメリットがあった。これを可視化してレシピとして共有する動きが始まっているという。ルートレック社のゼロアグリ、セラク社のみどりクラウドなどのシステムだ。

最後に提言しているのは、生産者、加工業、物流、小売りなどバリューチェーンの各プレイヤー間に存在する壁を取り払い、有機的につなげる「コネクト」された食品供給システムを構築することだ。さらに、各プレイヤーに指示する指揮者の役割も不可欠だという。商社がバナナなどの分野で話してきた役割を紹介している。

そうした指揮者が機能すれば、農業とは縁遠かった他産業から参入してくる企業も増え、ありとあらゆる業種が日本の農業の強化に役割を果たすはずだ、と結んでいる。

もちろん、消費者も情報発信などで大きな役割を果たすことになる。生産者任せではなく、消費者、企業、生産者が結びつくことによって、「最適化」した農産物の生産が実現し、フードロスも減るのではないだろうか。ビジネス志向の本だと思い読み始めたが、消費者にもバトンが渡されていることがわかった。(渡辺淳悦)

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「マッキンゼーが読み解く 食と農の未来」
アンドレ・アンドニアン、川西剛史、山田唯人著
日本経済新聞出版
2200円(税込)

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