結婚記念日
ダーリンを見送って
一通りの家事をすませたら
料理の準備に取りかからなきゃ。
だって今日は初めての結婚記念日。
いつもは仕事で帰りが遅いけど
この日は早めに帰ってくるって
ちゃんと約束してくれた♥
いつも家で食事をとれるのは、
休みの日だけしかないもの。
だから家で食事をするときは、
できるだけ手をかけて
ダーリンのために腕をふるう。
インスタントや冷凍食品？
そんな手抜きなんてしない
今日の献立は
じゃがいもヴィシソワーズ
ラタトゥイユ、スズキのパイ包み、
それからほかにも！
お鍋とフライパンのステージに
素材とスパイスのハーモニー。
おいしくなーれ
おいしくなーれ
私はそう言いながら鍋を混ぜる
やっぱり料理は愛情が一番だから♪
ヨォッ！ご同輩
路地裏のバーに入った。
はじめて入る店だ。
他に客はいない。
カウンターに座ってカクテルを頼む。
転職を期にカツラにして
１０年が過ぎた。
はじめはずいぶんと迷ったけれど、
当時の雑誌のＣＭに
気持ちを後押しされたんだよな。
モデルの人が少しづつ髪を増やすＣＭ。
５段階増毛か。
少しずつ増やせば
バレたりしないもんな。
髪を取り戻せば、自信も取り戻せる。
まったくあのモデルの人には感謝だな。
髪が増える段階ごとに
写真を撮るなんて。
もし、知り合いにバレたらと思ったら
勇気がいることだもんな。
あれっ？
この店のマスター…
あのモデルの人じゃないか？
うん、間違いない。
それにしても自然な髪に見えるな。
「ねぇ、マスター。もしかして、以前にカツラのモデルを
やってませんでした？５段階増毛のやつ」
「はい、よくわかりましたね」
「やっぱり！マスターのおかげで
フンギリがついたんですよ。ご同輩ですね！」
マスターは困ったように笑った。
私だけのものでいて
「会いたかったよ」
「嘘よ、そんなの」
「今日の服も似合ってるね。
どこで買ったの？」
「ねえ、聞いてるの？
君だけだなんて、そんな嘘をつくのはもうやめて」
「天気がいいなぁ。
公園にでも行こうか」
「ねえってば！」
「…あ、危ない。
自転車にぶつかるところだった。
気をつけないと駄目だよ？」
「…ありがとう。
その優しさも、信じられないけど。
それは本当の優しさ？
私になにかあったって、
あなたは困らないんじゃないの？」
「君になにかあったら、
生きた心地がしないよ。
俺には君だけだからね」
「…嘘つき。
私、知ってる。
あなたが私の親友にも
同じことを言っているって。
親友のスマホを見ちゃったの。
待ち受け画面に、あなたがいた。
…どうして？
あなたは私だけの
ものじゃないの？」
「君だけだよ」
「嘘ばっかり…もういいわ。
私だけのものじゃないなら、
あなたなんかいらない。
…あなたなんか、消してやる」
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