- 週間ランキング
水:意外とそんなにたくさんの接点がないんですよね。
湖月:2人が一緒に舞台に立ったのは、私が専科(宝塚は5組あり、専科は一つの組に所属せず全組に出演する)所属だった時代、水さんが所属していた雪組に出演したときですね。
水:専科の方が出演されていると、とても勉強になってありがたいのですが、忘れられないのが、わたるさんが銀橋(エプロンステージ)で1人で踊っていらしたのを袖から集中して観ていたことです。
その時は、『ミレニアム・チャレンジャー』という作品で、私が初めて1人で銀橋をわたるシーンをいただいて、怖くて仕方なかったんです。舞台に1人だけしかいないのに、"誰も見ないで!"と思っていたほど自信がなくて。
でも、わたるさんが、銀橋で朗々と楽しそうに1人で踊り歌っていらっしゃるのを見て、どうしたらわたるさんみたいに客席を魅了できるんだろうと。
湖月:一緒の組になったことはないんですよね。水さんの印象は、若いときからダンスで注目されてるスターさん、というイメージがありました。一緒に舞台に立ったときは、とても刺激的で、稽古場でも鏡越しに水さんを観察していた記憶があります。
水:『ベルばら』にはほんとうに縁があって、フェルゼン役以外、主要な役を全部演じています。ジェローデル役やアラン役までやらせていただきありがたい限りです。
湖月:私が星組トップのとき、韓国公演があったのですが、宝塚が公演に来てくれるなら、『ベルばら』で、と韓国側からのご要望だったんです。フェルゼン編を上演したのですが、お客様もコスプレをして見に来てくださったり、ものすごい熱気でした。
2001年、稔幸さんが星組トップでオスカル役だったときに、アンドレを演じさせていただきました。2006年の雪組公演でも客演で、オスカル編にアンドレで出演しました。そのときは、雪組トップだった朝海ひかるさんがオスカル役でした。
湖月:マンガは読んでいましたが、宝塚の『ベルばら』は、入団前に見たことがなかったんです。入団一年目に東京公演だけ星組配属になって、フェルゼン編に出させていただきました。まだ研一(入団一年目)ながら、この熱気は何だろう、というぐらい、稽古場から何か普段とは違う空気を感じていました。舞台に出たら、お客様の割れんばかりの拍手をいただいて、やはり特別な作品なんだ、とあらためて感動。そのときは、日向薫さん主演で、私は市民の役で出していただきました。
湖月:いや、ぜひ読んで! 私はアンドレに憧れていて、念願かなってアンドレ役を2001年にやらせていただくことができて、ますますアンドレに惹かれていきました。その後、2005年にフェルゼン編を上演することになり、フェルゼンを演じたのですが、自分があまりに貴公子とはかけはなれたイメージなので不安でした。
水:私は、いろいろな役をやらせていただいていますが、なかでもやはりオスカルが好きです。女性で生まれたけど、男として生きてきた、という葛藤は、男役として理解できるところもありますし、最後は正義感のもとに、民衆を率いて散っていく。私としては、理想の人生です。だから自分とも、とてもリンクするんですよね。
湖月:研一のとき、東京の劇場で、バスティーユのシーンのセリが機能しなかった日があったんです。セリ上がらないまま麻路さきさん演じるアンドレが登場、という場面が始まって、通常は橋の上と下で演じるシーンを平場でやらなければならない。アンドレが橋の上で撃たれる場面なのですが、それに合わせて、紫苑ゆうさん演じるオスカルが、地べたに座り込んで、同じ平場にいるアンドレにさしのべる手が届かない。それがすごく切なくて。
その熱演を袖で見ていて、アンドレが憧れの役になり、いつか演じたい、と思うようなったんですよね。
水:アンドレは、難しかったです。ただそこにいて、存在感を出さなければならないし、包容力を感じさせなけれはならない。
アランは、オスカルに盾突く役で、どちらかという得意なキャラクターです。華奢に見えないように、体にキルティングの生地を何枚も重ねて補正しなければならなくて、力技みたいなものが必要でした。
湖月:アンドレは、気持ちが大きく動かされる役でした。マンガを読ませていただいたときも感情移入しやすかった人物です。そういう意味で、演じていてとても楽しかったですね。
でも、アンドレ役は実際やってみると、確かにとにかく難しかったです。その舞台は、トップの稔幸さんの退団公演で、上級生の方のオスカルに対していかに抱擁力を出せるか、オスカルが愛してくれるアンドレになるか、という役作りに苦労しました。
毒をもったあと、「俺の役目はもう終わったのかもしれない」というときの切なさといいますか、無力感を覚えながらセリフにいきつく、そこにうまく辿りつけたら、そのあとの「今宵一夜」のシーンの喜びの感情に到達できるので、そこに落とし込むのが一番の課題だったし、本番では一番大事にしていたところでした。
水:ジェローデル役で思い出深いのは、池田理代子先生のこだわりで、ヘアスタイルをマンガの通りにしてほしいとリクエストされて、それまでの宝塚のジェローデル役より、くるくるねじれるカールを作ったことです。
ジェローデルは、インパクトある重要な役なのですが、原作にはあまり登場しなくて、私が印象に残っているセリフは、「あなたはバラの花びらを食べるんですか」だったのですが、役作りのヒントをマンガから得ることもできずで、まったく新しい物語を作っていく感じでした。登場人物も舞台用に新たに作られたので、『ベルばら』の作品を演じる、とは少し違う印象ですね。
湖月:私はフェルゼン役を何度も演じていますが、全国ツアー、韓国版と宝塚大劇場版で、それぞれまったく違う内容だったんです。全国ツアー、韓国版のほうは、仮面舞踏会でアントワネットと出会うところから始まりますが、本公演のほうは、出会ったあとのシーンから始まりました。ですから、新たな作品に取り組む気持ちで臨みましたね。
今回の公演でも歌わせていただくんですけど、私が演じたときに、「アンドゥトロワ」という曲が追加されたんです。
パリ駐在オーストリア大使メルシー伯爵に、「王妃様と別れてください」と言われて、そのあとは「お別れにまいりました」と一番好きなグリーンの軍服で会いに行くシーンへと続くのですが、その前に銀橋で、「どうすればいい」とそのときの心の葛藤を歌1曲で表現できたことで、さらに役作りを深めるステップとなりました。
水:私は、アンドレとオスカルに関しては、両方の役をやる機会があったので、お互いの気持ちを汲むことができてやりやすいところはありました。
湖月:舞台に設置された小舟にアントワネットと乗り込むシーンは印象深かったですね。乗り込むときは、2階席のお客様がいらっしゃるので、黒い布でスタッフさんが見えないようにしてくださっている中スタンバイして、本番にはスモークがふわーっと立ち昇る、そこに舟が舞台上を動いて王妃さまとの逢瀬を演じる。その場面しか2人の幸せなシーンがないんですよね。
水:『ベルばら』で全国をツアーしてまわりましたが、どこに行っても、緞帳(どんちょう) が上がると、「わぁ」っと歓声があがるんです。お客様が熱狂的に喜んでくださるんです。劇場の熱気からしてほかの作品とは違います。スタッフの方も思い入れが深く、大事な宝物といいますか、成功させたいという気持ちが強い。専科の方もよくご指導してくださり、「せりふが早い、植田歌舞伎というのは型芝居だからゆっくり」と何度もご指導くださって、これが伝統を学んでいくということなんだなと強く感じました。
湖月:50周年というのは、素晴らしい歴史ですよね。今回、出演依頼があったときに植田紳爾先生(初演を演出)から、お手紙が届いたんです。
この作品に携わった人間の責任として、今できるものを作りたい、という思いが伝わってきて突き動かされました。
この50年の歴史をみなさんが繋いできたからこそ、次に繋げていかなければという責任を感じています。
水:もちろん、作品の一場面が懐かしい、ということはあるのですが、それだけではなく、その当時の自分を思い出して、あのときの自分やまわりの人々の記憶が蘇りますよね。
湖月:そういう意味でも、 50周年出演者50人で力を合わせて素敵な作品にしなければ。なんといっても、応援してくださるファンのみなさまに、感謝の気持ちが伝わる公演になればと思っています。
水:一つの歴史を繋いできたことを考えると、あらためてその長さに圧倒されます。これからもこの作品を繋いでいかなければ。わたるさんは、大活躍ですよね。今回、毎日フィナーレご出演で、さらにフェルゼンとアンドレを演じますから。
湖月 今回、私は、フィーレナンバーの「ボレロ」というダンス場面にも出るのですが、リフトがあるようなので、まずは体作りをしないと。
水:私は、オスカルとアンドレしかやらないんですけど。
湖月:その2役やれば十分!
水:そうですね(笑)。
当時は台本を覚えるだけで、書かれているセリフの感情を何となく口にしていただけだったかと、今となっては思います。
退団してからお芝居の勉強もたくさんして、もっと台本をよく読み込まないといけないと思わされました。芝居のある日は、ヘアメイク・衣装すべて当時のままやらせていただきますので、しっかり深めていきたいですね。
湖月:退団してからもう一回お芝居をガツッと取り組ませていただける機会はなかなかないので、とても楽しみです。あのとき、汲み取れなかったいろいろな感情を探し出したいという気持ちがあります。
湖月:フランスを訪れた時にベルサイユにも行きました。もちろん、宝塚の名作ですから、興味深く見学しました。
なんといっても華やかな宮殿には圧倒されましたね。池田先生が、「現地に行ったことがなくマンガにした、実際にベルサイユ宮殿を見ていたら、圧倒されて絵にできなかった」と言われていたのですが、その気持ちがよくわかりました。写真をもとに絵を描いていたそうですが、そんな池田先生のお話をうかがって、ベルサイユ宮殿の息をのむ豪華絢爛さを思い出していました。
水:私は、月組所属の頃にベルサイユ宮殿を訪れましたが、上級生と現地で待ち合わせして行った観光旅行でした。パリではころんで足を痛めていたので、ベルサイユ宮殿の石畳が痛くて痛くて、というのが一番の思い出なんですが(笑)。そのあとテレビ番組の特番で行かせていただけて。
主演のオスカルをやるとなったときは、懸命に調べてYouTubeを見たり、グーグルマップで写真を見てその広さを妄想したり、必死に研究しました。
湖月:実際に目にしないとわからない、けた違いの豪華さなので、直接行ってみるのは重要ですね。アントワネットが最後に収監された牢獄コンシェルジェリーや革命が始まったバスチーユ広場もまわりました。
湖月:退団後、公演で水さんと一緒に海外に行く機会が2回ありました。「DANCE LEGENDシリーズ」公演のリハーサルで2回ほど、3週間ずつ海外でともに過ごしてましたから、退団してからのほうが親しくなったんですよね。そのあとは、OG公演の『シカゴ』ニューヨーク公演でご一緒したりと、水さんとは縁があります。
水:ブロードウェイミュージカル『シカゴ』宝塚歌劇OGバージョンで、私もわたるさんもヴェルマ役で (トリプルキャスト) ニューヨークのリンカーンセンターで演じさせていただきました。
水:旅行に行く前にいろいろ調べます。びっしり予定をいれるタイプなので、旅行すると疲れます(笑)。
湖月:私もそれなりに調べてきますけれども、憧れは、行き当たりばったり。そうできたらいいですよね。
水:思いもよらない新たな発見ができていいですよね。
湖月:でも、限られた時間なので、チケットも事前に手配しておかないと心配だし、結局、私も予定を詰めてしまいます。
水:私は、『エリザベート』上演の際も、テレビの特別番組で物語の舞台となるオーストリアに行きました。エリザベートとフランツは、実在の人物だから、その2人を演じる人たちは、資料がたくさんあってわくわくしながら見てまわり、役作りに役立っていたようですが、私の演じたトート役は架空の存在なので何も役作りに役立つものがなかったんですよね。
湖月:両親とニースからパリに行くルートでフランスツアーに行ったことがあるのですが、アリステッド・ブリュアンというシャンソン歌手を演じるときに、パリで延泊して舞台になっているお店に行ったりしましたね。途中、ツアー疲れして観光に行かないで、1人で残って小さい町を散策した日があって、名前を覚えてないような田舎なのにその風景はすごくよく覚えています。
水:今一番行ってみたいのは、アブダビです。飛んでアラビアンナイトの世界に浸りたい。
湖月:似合いそう、アラビアンナイト!
水:かぶり物得意なんですよね(笑)。
湖月:私は、マドリッドに行っても稽古ばかりで、全然観光に行けなかったんですよね。だから、もう1回スペインに行きたい。サグラダファミリアすらも行けなかったので、ゆっくり観光したいです。
水:海外に行くと、日本とまったく違う空気に触れられるから、小さいことがどうでもよくなる、そこがいいですね。
湖月:また、一緒にどこかに行きたいですね! まず、ベルサイユのばらの世界に行って、みなさまに楽しんでいただきましょう。
池田利代子のマンガを原作としたミュージカル『ベルサイユのばら』は、1974年の初演以来、宝塚歌劇団で繰り返し上演されてきた作品。初演より50周年を記念して上演される『ベルサイユのばら50』では、歴代スターが集結し、50年の軌跡を振り返る。今だから聞けるトークや楽曲、名場面のダイジェスト、これまでのフィナーレシーンなどが、2部制で届けられる。
出演
初風 諄/榛名由梨/鳳 蘭/安奈 淳/麻実れい
日向 薫/紫苑ゆう/安寿ミラ/涼風真世/一路真輝/麻路さき
稔 幸/香寿たつき/和央ようか/湖月わたる/星奈優里/彩輝なお
朝海ひかる/水 夏希/白羽ゆり/凰稀かなめ/龍 真咲/朝夏まなと
5月14日から19日 大阪・梅田芸術劇場 メインホール
26日から6月9日 東京・東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
14日から16日 愛知・御園座